なぜIWCは時計愛好家を魅了するのか? その謎を探るべく、我々は時計沼の奥地へ向かった

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2024.04.22

IWCは、スイスの高級時計ブランドである。一方でアメリカ人により創業され、工房はスイスの中でもドイツ語圏であるシャフハウゼンに置くというプロフィールを持っている。そんなIWCは、時計好きの我々を引きつけてやまない。IWCが有する魅力を探っていこう。


IWCの基礎知識

ビジネスパーソンからファッションの専門家まで、幅広い層が高く評価する高級腕時計ブランドがIWCである。

この評価と比例するように、世界的な認知度も高いと言える一方で、ブランドの生い立ちや沿革に独特の背景を持ち、知られざる面も多分に有している。本記事で改めて、IWCの姿を確認してみたい。

略称が正式名称の珍しいブランド

IWCが、時計製造の聖地であるスイスで創業したのは1868年のことである。企業名は、「International Watch Company(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)」という。

IWCというブランド名は、その企業名のアルファベットを取ったものだ。略称を正式なブランド名にしているという点で、とても稀有なブランドである。

また、質実剛健と評される時計づくりは、卓越した技術をもって、時計製造の伝統を守り抜いている。ディテールに細心の注意を払い、ひとつひとつの手作業を自社工場で行い続ける姿勢からは、もの作りへの責任感を強く感じさせる。

名称や会社の沿革

スイスで産声を上げながら、企業名が英語であることに疑問を抱くこともあるだろう。創業者のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズは、アメリカ人時計技師なのである。企業名が英語なのはこのためだ。

ジョーンズは、創業後、当時のスイスには見られなかった近代的な生産スタイルを採用する。ひとりの技師がすべての作業にこだわる風潮の中、分業制を導入し、効率的に良質な時計製造を可能にする技術をいち早く確立した。

本拠地を置いたシャフハウゼンは、ドイツにほど近いスイス北東部に位置している。この場所をジョーンズが選んだ理由は、アメリカの先進的な製造技術を持ち込むのに適していたからだ。

19世紀に入り、シャフハウゼンにはライン川の水流を利用した水力発電所が建設され、工業発展の下地が整いつつあった。工房の駆動力に必要な電力をこの発電所から得ることで、生産力を向上させたのである。

自社規格や継続したモデルチェンジが特徴

IWC ポルトギーゼ

IWC「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371617
2020年、ポルトギーゼ・クロノグラフ初のブレスレットモデルとして登場したRef.IW371617。機能をアップデートするのみならず、意匠やテイストを変えて、幅広くバリエーション展開しているのもIWCの魅力のひとつだ。自動巻き(Cal.69355)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径41mm、厚さ13mm)。3気圧防水。133万1000円(税込み)。

世界最高峰の時計製造手法を擁するスイスの技術、ドイツ語圏でもあるシャフハウゼンの職人気質、そしてアメリカ人技師としての知識と経験など、IWCの根底には多様な要素が重なり合っている。

そこから生まれる感性やアイデアが幾重にも重なりあって、IWCは独自の路線を生み出してきたのである。続いて、腕時計ブランドとしての特徴を掘り下げてみよう。

独自の規格を厳格追求

高級品といわれる腕時計のダイアル上で「chronometre(クロノメーター)」という表記を目にしたことがあるだろう。この規格を通過した製品だけが印字することが許されている。

時計業界では、スイス公認の「クロノメーター規格」が大きな権威を有しているが、この規格をクリアすれば、ムーブメントの精度が保証されることになる。

しかし、IWCはこの規格には参加していない。一層厳しい自社規格を独自に設け、高品質をユーザーに対して約束しているのだ。

IWCでは、プロトタイプを衝撃・摩耗・腐食・紫外線・環境の5項目を厳しい基準でテストし、クリアしたものだけが商品化の道を進むことができる。

そして、生産された時計は、最終的に10日間の厳格な検査を経なければユーザーの元には届かない。

継続したモデルチェンジ

IWCのモットーに、「常に作品を進化させる」というものがある。しかも、専門家に評価されることに止まらず、世間・ユーザーに伝わる進化であることを強く意識している。

微細な進化では、専門家には理解されても、一般の時計ファンでは認知できない。世間が評価してこその進化であることに重きを置いているのである。

現在のIWCのラインアップは、大きく6つに分けられる。「ポルトギーゼ」「ポートフィノ」「アクアタイマー」「パイロット・ウォッチ」「インヂュニア」「ダ・ヴィンチ」のいずれかで、毎年のようシリーズの刷新を実施しているのだ。


時計好きを引きつける魅力とは

IWC「インヂュニア・オートマティック 40」Ref.IW328904
2023年に刷新された「インヂュニア・オートマティック 40」。1976年登場のジェラルド・ジェンタがデザインを手掛けた「インヂュニア SL」や、2013年登場の「インヂュニア・オートマティック」の意匠を受け継いでいる。自動巻き(Cal.32111)。21石。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。10気圧防水。211万2000円(税込み)。

腕時計ファンが感じる時計の魅力は、ブランドごとに異なれば、人によっても違うだろう。多面的な楽しみ方ができることも、愛好家にとっては時計を愛して止まない理由である。

では、IWCが熱心な愛好家を引きつける魅力とは、いったいどのようなものなのだろうか。その秘密を探ってみたい。

洗練されたデザイン

絶えず継続的にモデルチェンジをしているIWCは、質実剛健な時計への評価と合わせて、ユーザーを飽きさせることのない商品展開や洗練されたデザイン性を両立している点も魅力だ。

ドイツ文化を多分に受けている影響で、スイスブランドに見られる華やかさは影を潜める。貴金属ブランドの時計のように宝石をゴージャスに使用することも皆無だ。

しかしながら、一度見たら脳裏に焼き付くような、独特の気品と存在感をたたえている。そのような不思議な引力が備わっているものが、IWCの時計なのである。

シンプルさの裏に隠された緻密な設計と、それによって実現されたスタイリッシュさと上品さに、IWCの魅力の秘密があるのだろう。

生産終了モデルでも修理対応

IWCのもの作りへの責任感が強く感じられる点に「永久修理」を掲げていることがあげられる。作ったものは直す、この姿勢を徹底して貫き続ける強靭な意思に、IWCの理念が詰まっている。

通常の時計メーカーでは、当該モデルの生産が終了して暫くすると、修理の受け付けは終了となる。販売していないモデルの部品の製造や保管には、販売中の時計のパーツを超えるコストがかかるためだ。

しかし、IWCではこのようなことはない。1868年の創業以来、販売してきた時計すべてにおいて、今もなお修理を受け付けている。

アンティーク市場において、一定のポジションを確立しているのも、この永久修理を実践していることが影響しているのだ。

代表的なコレクション

IWCでは、現在6つのコレクションを主軸に据えたモデル展開をしている。そのどれもが個性的で、完成度に優れたコレクションだ。

ひとつひとつの個性や特徴について、じっくりと検証することにしよう。

ポルトギーゼ

初代 ポルトギーゼ

1939年に発表された初代「ポルトギーゼ」(Ref.IW325)

1930年、ポルトガル商人がIWCに極めて精密な機械式時計の開発を依頼した。その求めは、極めて精密に製造された機械式時計であったが、これが後のコレクション「ポルトギーゼ」の原型となった。

そのポルトガル人は、こう依頼したと伝えられている。「大型でも構わないから、航海中にあっても高精度の腕時計が欲しい」その要望に見事に応え、ポルトギーゼはIWCのフラッグシップモデルとなった。

IWCは、安定した大型のムーブメントを搭載するため、他社と比べてサイズが大きくなる傾向があった。しかし、同モデルが開発された20世紀半ばは、ヨーロッパにおいて大型ウォッチはあまり好まれなかった。

それゆえ、リリース当初はあまり高い評価は得られなかったという。しかし、それをカバーしたのが、卓越したデザインだった。洗練されたビジュアルが、世の人々の心をつかんだのである。

パイロット・ウォッチ

ビッグ・パイロット・ウォッチ

1940年代製のドイツ空軍用「ビッグ・パイロット・ウォッチ」

IWCの中でも高い人気を誇るコレクションが「パイロット・ウォッチ」だ。ロングセラーとなったコレクションで、これまで数多くの人気モデルを輩出している。

1930~40年代にかけて、IWCは古典的なコックピットデザインを持つパイロット・ウォッチを製造してきた。12時位置にある白く大きな三角の目印で、操縦時でも瞬時に時を把握できる機能はIWCのアイデアだ。

大きな円錐形のリュウズというデザインは、航空黎明期からパイロット・ウォッチを作り続けていた誇りを表している。寒いコクピット内で、冷えた指先でも確実に操作を可能にするための仕様なのだ。

ポートフィノ

ポートフィノ

1984年製の「ポートフィノ」

機能性を重視し、ムダを排したデザインが特徴のIWCの中でも、特にシンプルな趣きが印象的なコレクションが「ポートフィノ」だろう。デビューから30年以上を経ても、その美しさは色褪せない。

ローマ数字と目盛りをあしらった飾り気のない文字盤に、スリムなリーフ針を配し、上品さが漂うデザインとなっている。男女を問わず愛用されるモデルであることも納得だ。

ビッグサイズでありながらも、ミニマリズムを追求したデザインは、圧迫感を与えることはない。裏蓋に描かれた漁村の風景に、名前の由来となった町への愛情が込められている。

ダ・ヴィンチ

ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー IW375819

Cal.79261を搭載した「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」(Ref.IW375819)

「ダ・ヴィンチ」にはシンプルな3針モデルから、永久カレンダーのトゥールビヨンなどのコンプリケーションモデルまで、幅広いスペックの時計がラインナップされている。

その歴史を辿ると、3つの時代に分けられる。1985年の永久カレンダー、2000~07年の移行期、そして07年の六角形クロノグラフの時代だ。それぞれの時期で、系譜となるモデルの雰囲気が異なることも特徴だ。

現代のダ・ヴィンチコレクションは、丸型ケースへの回帰を見せている。独特の半球形のリュウズや文字盤中央にあしらわれた、わずかなくぼみなどがエレガントさを演出する。

インヂュニア

初代 インヂュニア

1955年に発表された初代「インヂュニア」(Ref.IW666)

エンジニアを意味するドイツ語の「インヂュニア」は、耐磁性を重視して製造されたコレクションである。1955年、パイロットに向けて作られていた時計「マーク11」をベースに、民生用として開発されたのが始まりだ。

民生用とはいえ、主に医師や放射線技師などに重宝された。電磁波の影響が心配される業務において、電磁波への耐性を備えたインヂュニアは高く評価された時計なのだ。

その製造手法は、当時としては独創的で画期的だった。ムーブメントを軟鉄製のインナーケースで覆うというアイデアで、高い帯磁性を実現したのである。

アクアタイマー

アクアタイマー

1967年に発表された、IWC初のダイバーズウォッチ「アクアタイマー」(Ref.IW812AD)

IWCにおいて、唯一のダイバーズウォッチコレクションが「アクアタイマー」だ。実用性と機能性、さらにデザイン性も加味した本格的なダイバーズウォッチである。

アクアタイマーコレクションの最新モデルでは、IWCが特許を取得したブレスレットの「クイック交換システム」が搭載されている。ステンレススティールブレスレットとラバーストラップがチェンジ可能だ。

常に潜水時間を把握しておかなければならない、水中での視認性を高める工夫も万全だ。緑と青の蛍光塗料の使い分けによって、迅速かつ的確な時間の把握を可能にしている。


IWCの選び方

多彩なコレクションと豊富なモデルラインアップを持つIWCだけに、チョイスすべき時計を決めかねる人もいるだろう。堅実なIWC時計の選び方について解説しよう。

機能性で選ぶ

機能に注目して選ぶことは、時計選びにおいてもとても有効だろう。そのような意味においては、IWCにおいて独自の機能を持つアクアタイマーやインヂュニア、ダ・ヴィンチなどがおすすめだ。

例えば、ダイビング機能を求めるならアクアタイマー、スポーティーなモデルが好みならインヂュニア、IWCが誇る永久カレンダーやクロノグラフに魅力を見出すならダ・ヴィンチとなる。

アンティークや資産価値で選ぶ

アンティークへの関心があったり、またリセールバリューを考慮したり、時計の資産価値を大切にする人もいるだろう。それならIWCの看板ともいえる、代表的なシリーズを選びたい。

IWCコレクションの中でも格別の人気を誇るポルトギーゼやパイロット・ウォッチなら、資産価値の観点において見劣りすることのないモデルといえるだろう。

なぜなら、ポルトギーゼは、IWCのモデルの中で最古の歴史を有している。また、パイロット・ウォッチは、現代の航空時計の原点だ。そのような価値を踏まえ、この2タイプが適している。

ムーブメントで選ぶ

モデルラインナップが細分化されているIWCは、選択肢の幅の広さも魅力だ。そして、IWCの時計選びにおいては、ぜひムーブメントにも着目してほしい。

自社製ムーブメントの製造に力を入れているIWCでは、他社製のムーブメントを搭載する場合、必ず自社でのカスタマイズを経て行っている。その精度へのこだわりは極めて強く、厳しい自社基準に基づいて調整されているのだ。

高性能でおすすめするのは「52000系」だ。7日パワーリザーブを可能にした自動巻きである。

他にも手巻きで8日間のパワーリザーブを実現した「59000系」、自動巻きのクロノグラフに搭載される「89000系」も魅力的だ。


IWCのサポート

作ったものは直す、この理念を掲げ続けるIWCのサポートは、他社の追随を許さない高次元のサービスを展開している。

保証の延長について

創業以来、品質維持のためには妥協のない高い基準を立ててきたIWCは、2019年、新たに「MY IWC」プログラムを導入することとなった。これにより、国際保証は2年から8年へと延長された。

登録条件は、所有するIWC製の時計が最初の2年間の保証期間内であること。登録方法は3ステップで、保証書のQRコードを読み取るか時計のシリアルナンバーを入力して自身の時計を登録し、個人情報を入力。確認メールが届いたら登録完了だ。

修理について

IWCの時計に不具合が生じた場合は、最寄りのIWCブティックや正規販売取扱店に持ち込み、もしくはIWCオリジナルの包装材/ケースに入れて郵送することで修理を依頼できる。

原因が確定し見積もりの提示後、オーナーから修理の依頼を受けた時点で部品の調達をし、修理に取り掛かる。手元に戻るまでの期間は、6~8週間ほどが目安だ。

IWCの腕時計を着けてみよう

IWCは、スイスが持つ高級時計作りへの誇りと、ドイツが有する複雑機械製造へのこだわり、そしてアメリカ式の経営感覚など、多様なマインドがミックスして練り上げられた高級時計だ。

独自の感性で唯一無二の作品を世に送り続けるIWCの時計を身に着け、高い機能性と造形美に支えられた生活を送ってほしい。


おすすめの人気モデル

主軸6コレクションやムーブメントの特徴を把握したところで、いよいよ、おすすめの人気モデルを具体的に紹介しよう。

ポルトギーゼ・クロノグラフ

IWC「ポルトギーゼ・クロノグラフ」Ref.IW371605
自動巻き(Cal.69355)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径41mm、厚さ13mm)。3気圧防水。117万7000円(税込み)。

IWCは安定した大型ムーブメントを搭載するためにケースのサイズが大型になる傾向がある。そして、ボリューミーなサイズ感の時計は、得てしてスポーティーに寄りがちだ。

しかし「ポルトギーゼ・クロノグラフ」は、上品さやスタイリッシュさを存分にたたえたモデルである。その点が、最大の魅力といっていい。

1998年の登場以来、ポルトギーゼコレクションの中でも、最高の人気を集める同モデルは、この先も色あせることのないクラシカルな魅力を放ち続けるだろう。

パイロット・ウォッチ・マーク XX

IWC「パイロット・ウォッチ・マーク XX」Ref.IW328208
自動巻き(Cal.32111)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.8mm)。100m防水。95万1500円(税込み)。

パイロット・ウォッチのマークシリーズにおいて、最新モデルが2022年に登場した「パイロット・ウォッチ・マーク XX」だ。

イギリス空軍での使用に端を発するマークシリーズの始まりがマーク11だったことから、モデルチェンジ毎に数字が重ねられ、現行モデルは9代目となる。

マークシリーズは、機能性を剥き出しにした、無骨にすら思える重厚なギア感も魅力のひとつだ。そのビジュアルに魅せられて愛用するようになった読者も多いのではないだろうか。

ポートフィノ・オートマティック

ポートフィノ・オートマティック

IWC「ポートフィノ・オートマティック」Ref.IW356523
自動巻き(Cal.35111)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ9.2mm)。3気圧防水。70万9500円(税込み)。

ポートフィノは質実剛健なIWCにあって、無骨さとは無縁のエレガントさを持つ。

大型ケースが目立つIWCだが、コンパクトでドレッシーな意匠のポートフィノの、根強いファンも多い。

ケースの厚みは10mm未満に抑えられており、ビジネスシーンに1本持っておくと良い相棒となってくれることだろう。



Contact info:IWC Tel.0120-05-1868


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