オリスにとって、GMTウォッチの開発は未踏の地に対する挑戦ではない。ホルスタインに拠点を置く人気の独立系ブランドであるオリスにとって、GMTウォッチをはじめとする複数のタイムゾーン表示が可能な時計の開発はむしろ経験豊富と言っていい。
今回はそんなオリスが擁するデュアルタイムウォッチの中から、ダイバーズウォッチ「アクイス」より、GMT機能を追加させた「アクイス GMTデイト」をインプレッションしたい。
オリス「アクイス GMTデイト」
自動巻き(Cal.Oris 798/SW330-1ベース)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径43.50mm)。30気圧防水。29万円(税別)。
Text by Martina Richter
オリスのデュアルタイムウォッチ
オリスの「ビッグクラウン プロパイロット ワールドタイマー」は、ベゼルを時刻設定に用いる革新的なデュアルタイムウォッチである。具体的にはベゼルを時計回りに回すと、時針が単独で1時間ごとに進んでいく。そしてリングを反時計回りに回すと、反対に時針が1時間ずつ後戻りするのである。この時計では3時位置のデイト表示も時針が0時を過ぎるたびに日付が進み、また0時から23時にバックすると日付が1日戻る。
また、自社製手巻きムーブメントCal.114を搭載する「ビッグクラウン プロパイロット キャリバー114」では、24時間で1周する副時針の単独調整を30分刻みで可能とした。なお、このムーブメントは約10日間ものロングパワーリザーブと特許を取得したノンリニアパワーリザーブインジケーターを有している。
オリスのデュアルタイムウォッチは、その起源を1997年にさかのぼる。この年に4時位置のケースサイドのプッシュボタンを押すと時針を1時間ごとに前進、8時位置のプッシュボタンを押すと1時間ごとに後退できる「ワールドタイマー」が発売されたのだ。
この時針の単独調整をケースのプッシュボタンで行うという機構はオリスが特許を取得している。また、この時点でビッグクラウン プロパイロット ワールドタイマーと同じく、時針の単独調整に日付表示は連動していた。
さらに2008年には回転式インナーベゼルを用いることで第3時間帯の表示も可能になった「BC4 フライトタイマー」を投入している。
今回検証を行った「アクイス GMTデイト」においては、3つの異なるタイムゾーンの存在はあまり目立たないものとなっている。時分針と24時間で1週する副時針を合わせた、オーソドックスなGMTウォッチであり、同モデルのGMT調整は時針ではなく、副時針を進めることで行うタイプだ。
第3時間帯を表示したい場合は、両方向に回転するベゼルを使用する。つまりローカルタイム(第1時間帯)を時針とインデックスから読み取り、ホームタイムにあたる第2時間帯を副時針とダイアル内のインナーサークルに配された24時間スケールのリングで読み取る場合、第3時間帯と第2時間帯の時差分、ベゼルを動かせば、副時針が指し示した先のベゼルの時刻がそのまま第3時間帯になるのである。
ちなみに副時針を単独で修正するタイプのムーブメントはアクイス GMTデイトに限らず、針を動かす方向とは逆にリュウズを回した際は、日付が早送りされる。つまり、日付変更の禁止時間帯にタイムゾーンを超えるような移動をした際は、時刻修正を行おうとして、誤ってカレンダーを壊してしまう恐れがあるのだ。
また、もうひとつ問題がある。ローカルタイム、つまり時針を調整する際はリュウズを二段引きする必要があるため、タイムゾーンを超える旅行の際には必ず、時刻調整をし直さなければならない。このプロセスは非常に時間がかかるのだが、3つの異なったタイムゾーンが直感的に見て分かるという事を考えると悪くはないと言えよう。
ダイバーズウォッチのDNA
オリジナルのアクイスからダイバーズウォッチのDNAを引き継いでいる点は、インデックスと4つの針がシャイニーブルーの文字盤上でコントラストを成し、高い視認性を得ていることからも明らかだ。
アワーマーカーの内側、ダイアル中央にある24時間表示のスケールリングは大きくクリアで、またベゼル上の表示もはっきりとしている。
アクイスが海と関連性ある時計であることを再認識させるダークブルーの色調の中に、全ての表示要素が浮かび上がってくる。ベゼルは両方向回転のため、いわゆるダイバーズウォッチとしての規格を満たしていないが、水を恐れるものではない。
仮に純然たるダイバーズウォッチを左手に装着していたにしても、現代のプロフェッショナルダイビングの現場では、ダイビングコンピューターの備えがある。30気圧防水のアクイスは、プロフェッショナル向けのダイバーウォッチではないにしても、紅海でのシュノーケリング、大西洋沖でのスイミング、カリブ海での水遊び、ジュネーブ湖でのセイリングなどの機会にとして活躍するだろう。なお、リュウズガードはふたつのネジで留められており、衝撃やショックからリュウズを守っている。
テスト機のしっかりとしたラバーストラップはオリスの独自の方法で、ラグにきちんと留め付けられ、先端には機能性のあるフォールディングクラスプが装備されている。10年に導入されたスライディングクラスプは、長さ調節が迅速にできるシステムを備えており、手首から抜け落ちる心配なく調整が可能だ。特にウォータースポーツを好む人には、歓迎されるであろう。全体の長さを16mmまで5段階で調節が可能だ。
シンボルであるレッドローターは目を引きやすく、すぐに時計がオリスのものであるとわかる。これは01年から続く同社のトレードマークでブランド哲学を示している。ムーブメントの精度調整は少し進むように調整されているため、6時上の状態で再度調整を行うと、よりバランスよく稼働する。だが、時差が絡む世界の海を超えての旅においては、この小さな誤差を加味してもさまざまな役割を充分に果たしてくれるであろう。
技術仕様
リファレンスナンバー:01 798 7754 4135
機能:時、分、日付、24時間表示による第2時間帯表示、両方向回転ベゼルによる第3時間帯表示
ムーブメント:セリタSW330-1をベースとしたオリス798、2万8800振動/時、25石、ニヴァロックス製ヒゲゼンマイ、耐震軸受け(インカブロック使用)、緩急針による調整(偏心ネジ付きエタクロン)、パワーリザーブ約42時間、直径25.6mm、厚さ4.10mm
ケース:ステンレススティール製ケース、サファイアクリスタル製風防(両面無反射加工)、ねじ込み式のケースバックにミネラルガラス、300m防水
ストラップ&クラスプ:ブルーラバーストラップ、片側にエクステンション機構内蔵のフォールディングクラスプ
サイズ:直径43.50mm、厚さ13.06㎜、重量130g(実測値)
Contact info: オリスジャパン Tel.03-6260-6876