ヴァシュロン・コンスタンタンが擁する5つの主要コレクション。スタンダードに位置付けられる“デイリーラグジュアリー”から、ドレス、スポーティ、ハイコンプリケーションまで網羅するそのラインナップは、うるさ型の“コニサー”たちの中にも、熱狂的な支持層を築き上げている。
ある日、ある時……。世界中の異なった5つのタイムゾーンで同時に起こった情景を切り取りながら、ヴァシュロン・コンスタンタンが持つ本質的な魅力に迫ってみたい。
2016年初出。発表当初は18KWGケースのブティック限定モデルのみだったが、18年に18KPGケースが追加されてレギュラーラインナップとなった。往年の「222」も搭載した2針の超薄型ムーブメントに永久カレンダーモジュールを追加。自動巻き(Cal.1120QP/1)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41.5mm、厚さ8.1mm)。50m防水。アリゲーターストラップの他、ラバーストラップ、18KPG製フォールディングバックルが付属。768万円(上記に加えて18KPG製ブレスレットが付属する場合は944万円、シルバーダイアルのみ)。
石川英治:スタイリング Styling by Eiji Ishikawa (TABLE ROCK STUDIO)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
OVERSEAS
濃密なディテールワークが凝縮されたスポーティラグジュアリーの代表格
シリーズ初となるトランスパレントバックの採用や、新機軸のインターチェンジャブル式のストラップなどを盛り込んで、第3世代へと進化を遂げた現行の「オーヴァーシーズ」。ラッカーフィニッシュを基調とするダイアルの複雑さは、決して他の追随を許さない。2019年には初のハイコンプリケーションモデルをスティールケースで展開し、大きな話題を呼んだ。
am9:37 | UTC+0800 |
シンガポール、午前9時37分。ビジネストリップの相棒として連れ出したのは「オーヴァーシーズ」。年間平均気温が26〜27℃に達する高温多湿のこの国では、インターチェンジャブルのストラップが何より有り難い。ヴァシュロン・コンスタンタンの創業222年を祝し、当時新進気鋭のヨルグ・イゼックにデザインワークが託された「222」(1977年発表)を源流とするこのモデルは、1996年に「大海原を越える」という新しい名を与えられると同時に、よりヘビーデューティなスポーティウォッチとして生まれ変わっている。スティール製を含むモノブロックケースにねじ込み式のベゼルを組み合わせた222は、バックケースを独立させた3ピースケースのオーヴァーシーズに至って、スポーティウォッチに相応しいタフネスを身に付けたのだ。しかし同社がオーヴァーシーズに求めたのは、トラベルウォッチとして必要十分なタフさであり、過剰なスペック偏重主義とは無縁の、スポーティラグジュアリーの代表格となっている。その性格は2016年に発表された第3世代オーヴァーシーズにも色濃く受け継がれており、よりソフィスティケートされたケースデザインに、前述したインターチェンジャブルストラップを初めて組み合わせたことで、実用性も大きくアップしている。特筆すべきはダイアルの仕上げで、基本的には全モデルがラッカーフィニッシュとなるが、下地の複雑さは他の追随を許さない。19年にはコレクション初となるペリフェラルローター式の自動巻きトゥールビヨンが、スティールケースで展開開始。スティールケースへの複雑系ムーブメント搭載ということ自体が大きな事件だった。
オーヴァーシーズ
オーヴァーシーズ・デュアルタイム
オーヴァーシーズ・トゥールビヨン
オーヴァーシーズ・クロノグラフ
PATRIMONY
ケースプロポーションの黄金律へと回帰したミニマリズムのアイコン
現行ラインナップの中で、最もプレーンなディテールワークを持つ「パトリモニー」。ミニマルに徹し切ったシンプルな意匠だが、そのプロポーションはアイコニックなヴァシュロン・コンスタンタン以外の何ものでも有り得ない。アーカイブの精査から導き出された、同社独自の黄金律とも呼ぶべきケースプロポーション。それを体現するパトリモニーは、まさしく現代のヴァシュロン・コンスタンタンの象徴だ。
am3:37 | UTC+0200 |
アテネ、午前3時37分。夜通し続くかと思われたパーティーもようやくお開きになり、ホテルの部屋へと帰ってきたそんな時間。静かに時を刻み続けていたのは、薄型2針の「パトリモニー」だ。フォーマルな席で身に着けるドレスウォッチの基本となるのは、無粋な秒針を持たない2針のスタイル。しかしデザイン要素がシンプルなほど、プロダクトに個性を与えることが難しくなってくる。1960年代頃まで、ヴァシュロン・コンスタンタンが作る正調な紳士用腕時計は、やや短めの分針と、ケースに対して幅を絞り込んだラグ位置を特徴としてきた。過剰なディテールでの演出を避け、時計のプロポーションだけで個性を確立してきたのである。しかしそんなメゾンの不文律も、時の流れと共にいつしか忘れられていた。1950年代から封印状態にあったというアーカイブの木箱が開封されて、膨大な文書の整理、分類、分析が始められたのは2002年のこと。その過程で発見された資料を換骨奪胎することで生まれた〝最初の成果〞が、04年に発表されたパトリモニーの2針モデルだったのだ。パトリモニーが同社の象徴的なアイコンとして認識されているのは、こうした経緯によるものだ。ボンベシェイプのベースに、パールドット状のミニッツマーカーと楔形のアワーマーカーを載せたダイアルは、従来は端正なオパーリンシルバーを基調としてきたが、19年から18KPGケース専用のブルーダイアルを追加。「マジェスティックブルー」と呼ばれる鮮やかな専用色は、PVDコーティングによって美しい発色を得ている。ボンベダイアルに施された細やかなサンレイ加工に、独特な青が艶めかしく映えるのだ。