オリエント70年の物語

2020.03.05

三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2020年2月掲載記事


アーカイブから蘇るノスタルジックピース

2017年に、セイコーエプソンに統合されたオリエント。以降、オリエントは手の届くモデルという位置付けはそのままに、過去のアーカイブを積極的に採用するようになった。それを象徴するのが、オリエントブランド70周年を記念して復刻された「ウィークリーオートオリエントキングダイバー」である。

ウィークリーオートオリエント キングダイバー

(左)ウィークリーオートオリエント キングダイバー
RN-AA0D14G。1965年に登場したキングダイバーのオリジナルモデルを再現したダイバーズウォッチ。この70周年限定モデルの文字盤にはオリエントの象徴である「ジャガーフォーカス」が採用された。防水性能は向上したが、ISO準拠のダイバーズウォッチではない。自動巻き(Cal.F6922)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(直径43.8mm、厚さ14mm)。20気圧防水。世界限定2700本(国内限定1000本)。4万5000円。


(右)初代ウィークリーオートオリエント キングダイバー
オリエント初のインナー回転式ベゼルを備えた防水時計。ふたつのリュウズと絞ったベゼルという1960年代のスイス製ダイバーズウォッチを思わせるデザインを持つ。1969年にはスリーエースキングダイバーに置き換わった。3種類の文字盤があり、これは最もポピュラーな夜光ドット付きである。自動巻き(L型自動巻きCal.660)。25石。1万8000振動/時。SS(直径43mm)。40m防水。生産終了。

 1965年に発表された「ウィークリーオートオリエントキングダイバー」は、巻き上げ効率の高いラチェット式の自動巻き機構に、当時ブームだったコンプレッサーケース風の防水ケースを与えたダイバーズウォッチだった。その特徴は、2時位置のリュウズで操作するインナー式の回転ベゼル。オリエントは、スイスの一部メーカーしか採用しなかったこの機構を、2作目のダイバーズウォッチに採用したのである。新しいことに挑戦するオリエントらしい試みであった。ケース構造は標準的なねじ込み式。しかし、〝弟分〞にあたる「カレンダーオートオリエント スイマー」よりケースサイズを拡大し、防水パッキンを厚くすることで防水性能を高めていた。

 この時計がコレクターズアイテムとなった理由は、スイス製のダイバーズウォッチを思わせるスタイリッシュなデザインに、6時位置の曜日表示というユニークな特徴を持っていたためである。もっとも、ケース径が43㎜もあったため、後にオリエントは、ケースサイズを縮小した標準的な外側回転式ベゼルや、手巻きモデルも追加した。

 オリエントらしさとは何かを模索していた開発陣は、過去のアーカイブからウィークリーオートオリエントキングダイバーを〝発見〞し、同ブランドの70周年にあたる2020年に復刻モデルを発表した。目指したのは、可能な限り忠実な復刻であった。曜日のフォントはオリジナルをトレースし、それ以外の書体も、極力オリジナルに似せたものが採用された。また、ボックス型の風防も無機ガラスで極力近い形状を与えられた。ブレスレットも同様で、開発陣はわざわざこのモデルのために、オリジナルに近いブレスレットを再現したのである。

ウィークリーオートオリエントキングダイバー

ORIGIN
(右)1965年から69年まで製造されたウィークリーオートオリエントキングダイバーのオリジナルモデルは、夜光塗料を塗布したアロー針を採用する。なお、立体的なインデックスはエンボス仕上げ。
(中)「ウィークリー」たるゆえんが、6時位置に設けられた日本語の曜日表示。海外仕様モデルは英語表記である。
(左)搭載する自動巻きムーブメントが直径30mmもあったため、ケース径は43mmと大きい。そのため、ラグを下方向に曲げて装着感を改善している。ケースはコンプレッサー風だが、裏蓋は標準的なねじ込み式。

ウィークリーオートオリエントキングダイバー

NEW
(右)2020年発表の復刻版には4種類の文字盤がある。このモデルはゴールドカラーとブラックのグラデーションを持つジャガーフォーカス文字盤である。インデックスはダイヤモンドカットされたアプライドに変更されたほか、針にも2面のダイヤモンドカットが施される。
(中)オリジナルモデルの曜日表示をトレースした復刻版の曜日表示。ただし、わずかに書体を太くしている。これはモデル名の書体なども同様だ。
(左)現代的に改良されたケース形状。ラグはさらに短くなり、取り回しは良くなった。

 加えてオリエントは、この時計のディテールを大きく改善した。防水性能は40mから200mまで向上したほか、ブレスレットはいわゆる「巻きブレス」から丈夫な無垢の削り出しに変わった。また針にも2面のダイヤモンドカットが施されたほか、リュウズのガタも完全に抑えられた。エンボス仕上げだったインデックスも、別体のアプライドに変更されている。つまり、ウィークリーオートオリエントキングダイバーは過去のデザインを踏襲しつつも、上質なダイバーズウォッチに進化したのである。

 どのモデルも魅力的だが、とりわけオリエントファンに響くのは、グラデーション文字盤を持つ限定版だろう。今でこそポピュラーになったが、オリエントは1970年代から「ジャガーフォーカス」と称して、カラフルなグラデーション文字盤を採用していた。その文字盤が、ウィークリーオートオリエントキングダイバーの限定版に与えられたのである。オリエントのアイコンに、さらに象徴的な色を加えたわけだ。

 物堅い作りは言うまでもなく、過去のアーカイブを積極的にひもとくようになった、ブランド70周年を迎えたオリエント。さらにもうひとつ、オリエントは過去の美点を残した。これだけの内容を盛り込んだにもかかわらず、ウィークリーオートオリエントキングダイバーの価格は4万5000円。手の届く時計というオリエントの美点は、魅力的な最新のダイバーズウォッチであれ、何ら変わっていないのである。

オリジナルデザイン
ウィークリーオートオリエントキングダイバー
ニューカラー
ウィークリーオートオリエントキングダイバー
ニューカラー
ウィークリーオートオリエントキングダイバー
オリエントブランド70周年を祝うべくリリースされたウィークリーオートオリエントキングダイバー。オリジナルの意匠を受け継ぎつつも、20気圧防水や無垢材を削り出したブレスレットなど、内容は大きくアップグレードされた。文字盤は4種類。グラデーションのジャガーフォーカス(国内限定1000本)に加え、オリジナルデザインのブラックダイアル(RN-AA0D11B、国内限定1000本)、ニューカラーのグリーンダイアル(RN-AA0D13E、国内限定500本)とレッドダイアル(RN-AA0D12R、国内限定500本)がある。なお、日本向けの初回限定品のみ曜日表示が日本語となる。いずれも4万5000円。