ノルケインCEO、ケニッシとのコラボレーションを語る

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2020.02.16

ノルケイン×ケニッシ

ブライトリング出身のベン・カッファーによって2018年に興された時計メーカー、ノルケインがケニッシと長期間のパートナーシップ契約を結び、以後、同社製ムーブメントを一部のモデルで搭載することが発表。ノルケインが今後搭載していく予定の新ムーブメントをベン・カッファーCEO自身が携え、お披露目ならびに解説を行った。

Cal. GMT NN20/2

ほーらほーらよく見てごらん、ということで見せられたのが、ケニッシの自動巻きムーブメントである。
広田雅将(クロノス日本版):取材・文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)

ケニッシ製ムーブメントを採用

 ノルケインと言えば、2018年に創業となった気鋭の時計メーカーだ。このメーカーが注目を集める一因は、ブライトリング出身のベン・カッファーと、元ブライトリングのオーナーだったシュナイダー家とのコラボレーションだからである。加えて、時計の作りも実にものがたく、価格も極めてフェアだ。昨年カッファーと会った際、彼は「独立系ブランドとして、若い人たちにも機械式時計の魅力に触れてもらえるよう努力する」と語った。この実直さも、ジャーナリストのみならず、リテーラーから好感を持たれる理由だろう。

 2020年2月、そのカッファーが再び来日した。目的はムーブメントメーカー、ケニッシとのコラボレーションを発表するためだ。彼がムーブメントを見せてくれた。チューダーとブライトリング、そしてシャネルでおなじみの、ベーシックな3針自動巻きムーブメントである。このムーブメントについては、クロノス日本版で再三取り上げてきた。決して薄く小さなムーブメントではないが、約70時間の長いパワーリザーブに加えて、フリースプラングテンプ、両持ちのテンプ受けに、効率の高いリバーサー式の自動巻きを載せるなど、そのパフォーマンスは現行量産機の中では屈指だ。

プレスリリースにはこうある。

「2020年2月6日、日本時間午前10時、ノルケインは、チューダーによって設立されたムーブメント製造ファクトリー、ケニッシと長期パートナーシップを締結したことを発表します。このパートナーシップにより、2種類のノルケイン独自のマニュファクチュールキャリバーが製造されます。ノルケインは次なる頂きに登りつめ、スイス時計業界における独自の地位を確立します」

 2種類て何だ? ケニッシは、1種類しかムーブメントを作っていなかったはずだ。

 カッファーが、大きな自動巻きの隣にある、小さなムーブメントを見るように促した。ETA2892A2やセリタのSW300並の小さなムーブメントだ。たぶん直径は11.5リーニュ。仕上げはノルケイン流で、筋目を施したローターと、梨地のような受けをもっている。

Cal.NN20/1

ノルケイン「Cal.NN20/1」
ケニッシとのコラボレーションによる、次世代自動巻きムーブメント。ETAやセリタのエボーシュ並のサイズしかないが、そのパフォーマンスは、大径の最新鋭自動巻きに比肩する。アガキの調整が可能な両持ちのテンプ受けとフリースプラングテンプを採用。日の裏輪列を見るとカレンダーが載っていないが、デイトリングをはめる切り欠きがあるので、今後載せるかもしれない。直径26mm。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。COSCクロノメーター。

Cal.NN20/1

「パワーリザーブは約70時間あるよ。そして、両持ちのテンプ受けをもつため、耐衝撃性も高い。シースルーだから仕上げも良くしてある。仕上げはどう思う?」

 加えて、テンプは“兄貴分”に同じく、フリースプラングではないか。正直、このサイズで、これだけ詰め込んだムーブメントは他にないだろう。

「加えてこのムーブメントは薄いんだ。ケニッシが作っているので信頼性は申し分ない」

 ケニッシが、女性用の小さな、しかし高性能な自動巻きを作っているという情報は、複数の関係者から耳にしていた。それはおそらく、シャネルやチューダー、あるいはブライトリングに載ると予想していたが、ケニッシは、なんとこれをノルケインに渡したのである。創業2年目のメーカーとは思えない厚遇ぶりだ。

「ケニッシとのコラボレーションは、会社を興したときから考えていた。なぜ小さな自動巻きムーブメントを最初に使えるようになったかって? ケニッシは独立メーカーを応援したいのだろうね」

Cal. GMT NN20/2

ノルケイン「Cal. GMT NN20/2」
信頼性の高い、ケニッシ製の自動巻きのノルケイン版。おそらく他社との差別化を図るため、GMT針が加えられた。このムーブメントに関しては不明だが、設計を同じくするケニッシ製ムーブメントのパフォーマンスについては、クロノス日本版でも再三述べてきたとおりである。アガキの調整が可能な両持ちのテンプ受けとフリースプラングテンプを採用。直径31.8mm。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。COSCクロノメーター。

Cal. GMT NN20/2

 ちなみに、ケニッシの役員には、ブライトリングで副社長を務めたあのジャン-ポール・ジラルダンが名を連ねている。ノルケインのブランド成り立ちを考えれば、ケニッシのムーブメント提供はありうるかもしれない。しかし、ケニッシは、創業間もないとは言え、ロレックスやシャネルが興した、第一級のメーカーなのである。その小型ムーブメントをまさか、新興メーカーに提供するは思ってもみなかった。よほど、ケニッシはノルケインに期待しているのだろう。

「もちろん、既存のムーブメントは今後も使っていく。セリタは素晴らしいムーブメントだ。しかし、新しいムーブメントによって選択肢は広がるだろう。また、新しいムーブメントを載せても、ノルケインの価格帯は今までと大きく変わらない」

 カッファーは新製品のプランを明かす。

「大型のムーブメントを載せて、でもケースサイズは直径40mmに留めたいね。そして小さなムーブメントを使えば、薄いコレクションを作れるだろう。新製品の発表はまだ先だけどね」

 優れたムーブメントをもって、いきなりミドルレンジの最前線に躍り出たノルケイン。改めて言う。これらのムーブメントを載せた新製品の発表はこれからだ。しかし、その内容には大いに期待していいのではないか。真面目で面白くて、野心的なメーカーがミドルレンジに増えることは、私たちにとっては何よりの朗報だ。

ベン・カッファー

ベン・カッファー
ノルケインCEO。父は元ロベンタ・へネックスCEOにして、現名誉会長のマーク・カッファー。ブライトリングでアジアのセールス責任者を務めた後、父親と、元ブライトリングのオーナー家出身のテッド・シュナイダーなどの助力を得て、2018年にノルケインを創業。19年の1月に初のコレクションである「アドベンチャー」、「フリーダム」、「インディペンデンス」を発表した。超ナイスガイ。


Contact info: ノルケイン ジャパン Tel.03-6864-3876