一流のセレブたちは一体どんな腕時計を選ぶのか? 世界のセレブたちのプライベートなワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回は『パルプ・フィクション』(1994年)、『キル・ビル』(2003年)、『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)などを手掛け、数多くのクリエイターに影響を与えてきた映画監督クエンティン・タランティーノが選ぶ腕時計を紹介しよう!
クエンティン・タランティーノ
今回ピックアップするのは、2020年1月18日に行われたアカデミー賞前哨戦のひとつ、プロデューサーズ・ギルド・アワード(全米製作者協会賞)授賞式で撮られたクエンティン・タランティーノの姿だ。日本では19年8月より公開された映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』において、タランティーノは同賞に輝いている。この映画はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットのダブル主演であるほか、1960年代のハリウッドの街並みや音楽、衣装が見事に再現されて話題を呼んだ。また同作はアカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、衣装賞の5部門にノミネートされた。
それでは、タランティーノの腕時計を拝見しよう。写りがぼやけてはいるものの、大ぶりなアラビックインデックスのほか、特徴的な菱形の針、そして3時位置にはパワーリザーブ表示が確認できる。これはIWCの「ビッグ・パイロット・ウォッチ」だろう。
IWC
「ビッグ・パイロット・ウォッチ」
第2次世界大戦中、イギリス、ドイツ両軍にパイロットウォッチを提供していたIWC。ドイツ向けに作られたのが、航空用クロノメーターであるビッグ・パイロット・ウォッチだ。戦闘機の出撃前に、航空基地のマリンクロノメーターと時刻を合わせ、その時刻を各パイロットの腕時計に伝える役割を担った時計である。
年月を経て、ビッグ・パイロット・ウォッチが復活したのは、IWCが自社製自動巻きキャリバー5000系を完成させた2000年に入ってからのこと。この精度を航空用クロノメータ-としてうたえるまでに高め、万を辞して送り出されたのが、02年のファーストモデル「ビッグ・パイロット・ウォッチ」Ref.5002だ。搭載されるキャリバー5011の開発責任を担ったのは、かのクルト・クラウスである。パワーリザーブは、当初の計画よりもはるかに長い約168時間を誇った。
それ以降、ムーブメントは何度かの改良を経ている。18年に発表された最新機に搭載されるのは、キャリバー52110だ。振動数を1万8000振動/時から2万8800振動/時へと改めた上で香箱をシングルからダブルに変更しているため、約168時間というロングパワーリザーブはそのままに、より高い等時性を実現した。また磁場からムーブメントを守るため、軟鉄製のインナーケースを内蔵する点は初期から変わらない。
クエンティン・タランティーノは、1963年3月27日、アメリカ生まれ。子供時代から映画が好きで、14歳の時には初めての脚本を書き、16歳で高校を中退して劇団に所属している。ビデオレンタル店でアルバイトをしながら世界中の映画を浴びるように観る傍ら、劇団で演技を学び、脚本を習作する日々を送った。作風が強烈な彼を鬼才と称したが、その才能は努力の賜でもある。
アカデミー賞において、彼の通算9作目となる監督作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は実に5部門もノミネートされながら、いずれも受賞には至らなかった。かねてから「長編映画を10本撮り終えたら監督を引退する」と公言しているタランティーノ。今回受賞を逃した悔しさも含め、次作はより全映画ファンからの注目が集まりそうだ。その時にはどんな腕時計をしてるかも、合わせて楽しみである。