鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
オクト大成功の先に見据えるブルガリの本質
2019年9月、ブルガリ・グループ ウォッチ部門のマネージング・ディレクターに就任したアントワーヌ・パン。来日した彼に、すでに大成功を収めたオクト コレクションが今後目指すべき方向性を尋ねた。
フランス・パリのHEC経営大学院を卒業。1994年、タグ・ホイヤーでキャリアをスタート。プロダクトマネージャーを経て、98年、ブシュロンにてマーケティングチームを統合し、ジュエリーにも従事。2002年、LVMHグループ ゼニス入社。本社マーケティング・ディレクターとしてブランドを再構築。その手腕を評価され、LVMH ウォッチ&ジュエリー UKのマネージング・ディレクターに昇進。その後、タグ・ホイヤージャパンと韓国のジェネラルマネージャーを経て、14年、ブルガリ グレーターチャイナ マネージング・ディレクターに就任。19年9月より現職。
「ブルガリは、この7年で多くの技術革新を行ってきました。その結果、多くのことがブルガリに期待されているため、我々もそれに応えるために、することがたくさんあります。オクトはすでに大きなコレクションです。2012年に発表されたオクトのオリジナルに加え、オクト フィニッシモ、そして今やオクト ローマもあります。その中でもオクト フィニッシモの知名度はとても高くなりました。オクトが興味深いのは、イタリアとスイスのそれぞれの精神性が表現されているからです。そして、そこにスイスの時計作りのノウハウも加わっています」
すなわち、イタリアを原点とするブルガリが、スイスのウォッチメイキングに何をもたらすことができるのか?そう問いかけられているに等しい。彼は、その問いに確信を持って続ける。
「それこそデザインに他なりません。その原動力となる創造力を導き出す哲学です」
確かに、イタリアは何世紀にもわたって、自動車、家具、建築の分野で発展してきた。熟考してみれば、イタリアの強みは機能性ではなく、審美性を追求したときに、よりいっそう発揮されることは間違いない。
「審美性はとても重要です。この美的感覚は、各人のライフスタイルに影響を及ぼすため、決して妥協することのできないものです。フィニッシモがその象徴ですね」
ブルガリにとってオクト、そしてフィニッシモの位置付けとはいかなるものか?
「フィニッシモがオクト コレクションを牽引しているのは事実です。その次がオクト ローマです。興味深いのは、オクト ローマが今後、より多くの顧客を開拓する可能性が高いことです。オクト ローマには大きなポテンシャル=伸び代があるのです。したがって、オリジナーレ、フィニッシモ、ローマを3本の柱として、今後もこの3つのプラットフォームに取り組み、強化していくことになります」
明快に戦略と展望を開陳するパン。だが一方で、彼はブルガリの本質も見据える。「言い方を換えれば、我々はイタリアとスイスの利点を併せ持っていると言えるのです。実際に我々はフュージョンそのもの。一面では、とてもスイス的であり、イタリア的でもある。それぞれの強みを持つことが、我々を他ブランドにはないユニークな存在にしているのです。そして、我々はそれをとても誇りに思っています」
2020年1月にドバイで開催された「LVMHウォッチウィーク」で発表された「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」のピンクゴールドモデル。ピンクゴールド製ダイアルのインデックスとスモールセコンドには開口部が設けられ、ミニッツリピーターの振動を文字盤側でも響かせ、厚さ6.90mmという薄型ケースにもかかわらず、十分な音量を確保している。手巻き(Cal.BVL 362)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPG(直径40mm)。30m防水。予価1900万円(3月発売予定)。