炭火割烹 白坂(裏赤坂)/この世ならぬ美味のクリエイター

2020.03.21

裏赤坂に店を構え、5年が経過した「炭火割烹 白坂」。豊かな感性で生み出される井伊秀樹氏の料理に魅了されたゲストたちが、国内外から足繁く通う。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura

和牛イチボの炭火焼き

和牛イチボの炭火焼き
赤身と脂身のバランスの良いイチボを好んで使用している。まず、炭火で表面を炙った後、赤酒、醤油、味醂、生姜などから作る出汁を70℃に温めた中に入れ30~40分。ミディアムレアになったところで、炭火で仕上げる。ほんのり感じる甘さに、ワインが進む。この日は、プチヴェールと出汁を含めたゴボウと共に。添えられた野菜が、季節の移ろいを伝える。


人を惹き付ける芯ある自由さ

 白砂利、石畳、灯籠に導かれて進むと、冠木門が現れる。赤坂に佇む「白坂」。紅白の文字が重なる縁起の良い1軒だ。「『白』に『一』を加えると『百』になります。我々の一仕事によってゲストの皆様にご満足いただけるよう努力し続けたいという思いを込めています」と語るのは、料理人・井伊秀樹氏。

 20代で和久田哲也氏の料理に魅了され、シドニーにある世界的な名店「Tetsuya’s」で働き始めると、日本人として初の副料理長を務めることに。さらに、ニューヨークで国連大使の専属公邸料理人を拝命し、腕を振るった。そういったグローバルな経歴からだろうか。運ばれてくる料理を口にすると、単に日本料理というだけではなく、和と洋の要素が適宜顔を覗かせるような印象を受ける。日本で10年、海外で10年という月日の中で井伊氏に形成されたアイデンティティーによって、料理が生み出されているのだ。

 店名に冠している炭火を巧みに用いた火入れも非常に秀逸。60cm四方の煉瓦を積み上げた焼き台のなかで、温度の違いを作り上げて使い分ける。オープン当初から提供し続けている一皿「和牛イチボの炭火焼き」は、高温の炭火と70℃の出汁での低温調理のダブルクックによる上品な口当たり。合わせるワインは、2016年に初リリースされたナパバレーの「プレシアード」だ。女性醸造家が手掛けるマイルドなカベルネソーヴィニヨンの酸味が、肉の甘味と旨味に寄り添う。ワインや日本酒をセレクトし、サーブするのは、“番頭”の海東高太氏。

井伊秀樹

井伊秀樹 (Hideki Ii)
1976年、東京都生まれ。都内の和食店で研鑽を積んだ後、渡豪。シドニー「Tetsuyaʼs」で副料理長を務めた経験を持つ。その後、ニューヨークで国連大使の専属公邸料理人を拝命。任期満了に伴い帰国し、2014年「炭火割烹 白坂」を独立開業。

 ふたりの出会いは、およそ10年前に遡る。ニューヨークで知り合い、1晩で3軒のディナーコースを共に食べ歩いたこともあったとか。「笑いのツボも一緒」と話す様子は、料理とワインや日本酒がスムーズに馴染むことに重なる。やはり、料理にもお酒にも人の思いが宿るのだと実感させられる。「白坂」が醸す心地よさは、ふたりの朗らかな人柄によるところが大きい。ゲストが席に着き、料理が繰り出されてくると、凛とした店内が瞬く間に和やかで陽気な空気に包まれていく。

炭火割烹 白坂

山桜の木で作られたカウンターと椅子が、温かな印象を与える。他に、6名まで利用できる個室を併設。窓枠に額装されたような日本庭園の景色が、風情ある時間を演出する。


炭火割烹 白坂
東京都港区赤坂6-3-9
☎ 03-5797-7066
日曜休、土曜は隔週休
18:00~最終入店21:00
ディナー1万2000円~(消費税、サービス料10%別)、
ペアリングコース8000円~