手巻き時計、日によって精度が違うのはなぜなの?/ぜんまい知恵袋〜時計の疑問に答えます〜

2020.02.23

Q:手巻き時計、日によって精度が違うのはなぜなのか?

広田雅将

A: 今でこそあまり問題にならなくなりましたが、一昔前までは、手巻き時計の精度が日によって変わるのは当たり前でした。その大きな理由は、機械式時計の動力源である主ゼンマイのトルクが一定ではないためです。主ゼンマイは、全部巻き上げた状態ではトルクが非常に強く、そのあとトルクがフラットな状態が続き、ほどけきる直前で大きくトルクを落とします。そのため、主ゼンマイを全部巻き上げた状態と、主ゼンマイがほどけきる直前では、時計の精度が大きく変わってしまうのです。パワーリザーブ(駆動持続時間)が40時間程度しかない昔の機械式時計では、これは大きな問題となりました。

 それを防ぐため、一部の高級時計には、主ゼンマイのトルクを安定させる「巻き止め」(=マルテーゼクロス)や鎖引きのチェーンフュジー、あるいは定力装置のルモントワルやコンスタントフォースが備わっていました。また、近年の機械式時計はトルクを落としてパワーリザーブを延ばす傾向にあるため、以前ほど、精度がトルクの強弱に左右されにくくなりました。3日以上のパワーリザーブを持つ機械式時計は、比較的精度が安定していると考えていいでしょう。

 もっとも、パワーリザーブの短い時計や、基本設計の古い時計は、いまだに主ゼンマイのトルクの強弱によって、精度に影響が出ることがあります。精度を安定させたい場合は、決まった時間に主ゼンマイを巻くといいでしょう。また、パワーリザーブ表示が付いている時計の場合、主ゼンマイを全部巻ききらずに、少し手前で止めておくと、精度は一定になりやすく、おすすめです。

ルミノール 8デイズ GMT
ルミノール 8デイズ GMT
小さな主ゼンマイを3つ搭載することで、8日以上のロングパワーリザーブを実現したのが、パネライの「ルミノール 8デイズ GMT」(PAM00233)。加えて、トルクの出方が安定するため、比較的精度は一定である。2002年に開発がスタートしたパネライ初の自社開発ムーブメント、手巻きのキャリバーP.2002を搭載。第2時間帯表示、24時間表示、パワーリザーブ表示を備え、ゼロリセットセコンド機構を持つ。