【時計を外し、身を委ねる旅寓】テロワールにいだかれワイナリーに滞在する

新潟市西蒲区、日本海に面した角田山の麓、角田浜にある「カーブドッチワイナリー」。1993年の創設以来、ワインショップや自家製ハムとソーセージのレストラン、自家製酵母で薪の石窯で焼き上げるベーカリー、天然温泉、アヴェダのサロン&スパなど施設を増やしてきた。昨年11月には、新たなオーベルジュ「ワイナリーステイ トラヴィーニュ」が誕生。根底には「ワインが生まれる地で、少しでも長く滞在して欲しい」という思いがある。叶うならば、ワインを全種類制覇するくらい、数日間じっくりと滞在したい。

掛川史人

樽熟成庫でワインの状態を確認する醸造家の掛川史人氏。葡萄畑、醸造室、樽熟成庫、セラーなどを巡り、ワインテイスティングを行う「ワイナリーツアー」は1名1500円(税別)。11:00スタートで、60~90分程度。2日前までに要予約。
外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
松川真介:写真 Photographs by Shinsuke Matsukawa


葡萄畑を見渡せる 「トラヴィーニュ」

(右)2階の客室「おうむ」から望む日の出と葡萄畑。オーベルジュの半径500m圏内、トータル8.5haで葡萄を栽培している。(左)スペインの職人が1枚1枚ハンドペイントしたタイルの階段や、見る場所によって表情を変えるオランダの照明など、すべてにこだわりが。

 ワイン造りは、葡萄の成長速度に抗うことはできない。その時間軸によるのだろうか。「トラヴィーニュ」に到着すると、なんとも穏やかな時間が流れていた。建物は、ワイナリーを彷彿させる土っぽさを感じさせる質感や色合い。すべて木造であるのは、ワインの香りが時と共に染み込んでいくようなイメージだという。「やまどり」「みつばち」「もぐら」という客室の名前は、「カーブドッチ」の「どうぶつシリーズ」のワインに由来。それぞれのエチケットがデザインされた真鍮のルームキーで、足跡が描かれた扉を開ける。間取りは全室ほぼ同じだが、ヨーロッパから買い付けた家具やアートなど、すべてが異なり、ワイン同様、個性豊かなテイストを生み出している。

ワイナリーステイ トラヴィーニュ

1階の客室「いっかく」。
木村硝子店のワイングラス、今治丹後タオル、ボタニカルなアヴェダのアメニティなど細部まで心地よいセレクト。

 どの部屋からも窓の外に葡萄畑を見渡せる間取り。一面に広がるのは、イベリア半島を原産地とするアルバリーニョ。これまで約40品種を栽培してきた中でも、「カーブドッチ」のフラッグシップとなる白葡萄だ。「スペインのビーゴ空港に降り立った時、同じ空気を感じました。実際に栽培を始めると非常に適していることが判明。ただ一点、ここは砂質土壌でミネラルが少ない分、葡萄本来の香りが際立つ軽やかなワインが出来上がりました」と語るのは、醸造家の掛川史人氏。ワイナリーツアーに参加すると、そんな造り手の話を聞くことができるのも、この地に滞在する醍醐味だろう。エチケットのイラストにまつわるストーリーを聞けば、飲み手の我々にも愛情が芽生えてくる。

ワイン どうぶつシリーズ

ワインセラーに勢揃いして眠る「どうぶつシリーズ」。オーベルジュの同名の客室には、今後それぞれのハーフボトルを置く予定。

 お待ちかねのディナーは、別棟にあるレストランへ案内されるかと思いきや、寄り道のサプライズにも乞うご期待を。ワインありきのコースを手掛けるのは、西麻布「ル・ブルギニオン」やフランスで研鑽を積んだ佐藤龍氏。「カーブドッチ」に魅せられ、ワイン造りを経験した料理人が、地物を優美な料理に仕立てていく。ペアリングを堪能したら、ラウンジに移動してもう一杯、二杯。さらに客室でも眠くなるまで稀少な銘柄を注いだグラスを傾けることも、ワイナリーのオーベルジュだからこそ叶う贅沢。

 この滞在の余韻を持ち帰るならば、「情景が思い起こされるワインを造りたい」という思いから誕生した、砂を意味する赤ワイン「サブル」がいいかもしれない。掛川氏の「造り手であり、伝え手でもある」という言葉が耳に残る。

黄人参のシリシリボタン海老のクリスプとクリュ 柚子 ハーブティ

ディナーコースの一皿「黄人参のシリシリボタン海老のクリスプとクリュ 柚子 ハーブティ」。「2018 アルバリーニョ」と秀逸に呼応する。


Winerystay TRAVIGNE(ワイナリーステイ トラヴィーニュ)

新潟県新潟市西蒲区角田浜1661
☎0256-77-5460(受付8:00~22:00)
チェックイン15:00/チェックアウト11:00 
全10室
2名1室利用時の2食付き1名分料金3万5000円~(消費税別)