革新の自動巻きシステムにとどまらない、ユリス・ナルダン「フリーク ビジョン」の魅力

FEATUREWatchTime
2021.05.17

 時計を裏返すと、6本のネジで留められたケースバックを囲むようにチタン製の回転ベゼルが装備されているのが分かる。これを反時計回りに回転させることで巻き上げを行い、パワーリザーブは50時間を実現する。初めて使う人にも分かりやすいよう「TO WIND(巻き上げ)」表示を記し、操作しやすいようベゼルにはノッチを設けているのだが、指が太い人にとってはやや扱いづらいことも付記しておく。同様に、前面の時刻設定用ベゼルにも難点がある。例えば、ベゼルを回転させているときに、解除しているボタンを誤ってロックしてしまうことなどだ。もっとも、手巻き式ムーブメントを採用していた従来のモデルとは異なり、「フリーク ビジョン」は自動巻きなので、定期的に着用していれば時刻合わせは不要になり、誤操作の問題は解消されるだろう。

 次に、キャリバーUN-250と、ユリス・ナルダンが注ぎ込んだ革新的な要素を見ていこう。巻き上げシステムはもちろんなのだが、注目すべき点は他にもある。いくつかの主要パーツにシリコンを用いているのもその1つ。今や、ロレックスやオメガ、パテック フィリップ、ボーム&メルシエなどのブランドがムーブメントにシリコンを採用しているが、2001年にユリス・ナルダンがデュアル・ダイレクト脱進機を搭載した「フリーク」でシリコンを採用した際、そのメリットは証明されていなかった。しかし現在では、耐磁性、軽量化、耐食性、低摩擦により潤滑油が不要といった数々のメリットを持つ素材であることが知られている。

キャリバーUN-250

「フリーク ビジョン」に搭載されているのは、キャリバーUN-250。

 その後、多くのブランドがシリコンを取り入れたことでユリス・ナルダンの判断は正しかったと証明され、結果、この素材は「フリーク ビジョン」でも継続して使われることになった。シリコン(またはシリシウム)は、コンスタントフォース脱進機のすべてのパーツで採用しており、この脱進機は、摩擦なしで動くアンクルを備えた円形のフレームが特徴。アンクルは中央で固定されており、互いに垂直に取り付けられた2枚の小さな板ばねによって支えられている。この板ばねに曲がる力が加わることで安定性を保ち、テンプは一定の速度で回転。主ゼンマイのトルク変動の影響を受けることなく、50時間にわたって安定した精度を維持できるというわけだ。

「フリーク」の他モデルのムーブメントと同様にテンプもシリコン製だが、ユリス・ナルダンではさらに、特許取得済みの慣性をブロックするニッケル製の錘とシリコン製のブレードを超軽量のシリコン製ホイールと組み合わせることで、この時計をさらに革新的なものにした。中心部分の小さな錘は安定性を増し、外周部分の慣性モーメントを高めたのだ。シリコン製のテンプは「InnoVision 2」に採用された10の革新の1つで、「InnoVision 2」ではニッケルではなく、ゴールドの錘を使用していた。

キャリバーUN-250

グラインダー自動巻きシステムは、ローターを4本のアームで構成されるフレームにリンクさせている。

「InnoVision 2」で採用され、「フリーク ビジョン」でも使われているもう1つの革新的技術にグラインダー自動巻きシステムがある。これは手首のわずかな動きでもムーブメントに動力を供給できるように設計された機構。3つのボールベアリングを配したローターが、4本のアームで構成されるフレームとリンクすることで通常の2倍のトルクを実現。しかも両方向巻き上げのため、非効率なアイドリング状態を避けている。ユリス・ナルダンではこのグラインダーを4つのペダルを持つ自転車に例えているが、つまりは動力を継続的に供給するのみならず、フレームの柔軟性が手首のわずかな動きを捉え、主ゼンマイに供給される駆動エネルギーへと変換するというもの。しかも、それらのすべてが「フレキシブル・ガイダンスメカニズム」に直結し、摩擦を大幅に抑えているのもメリットだ。

フリーク ビジョン

ケースサイドにはブルーラバーのインサートを配している。

 これらすべてのメカニズムは、ダイアルとケースバックの両面から確認できるようになっている。しかも、通常はダイアルで隠れてしまう「フリーク」の魅力的なメカニズムは、ブランドの歴史的背景をも想起させる。特別にデザインされたバゲット型のブリッジが時刻表示を司り、それが紺碧のダイアルを動いていく様は、青い海を穏やかに漂う船を彷彿とさせるのだから。

「フリーク ビジョン」に付属するのは、海を想起させるブルーのダイアルと調和するブルー・アリゲーターストラップ。これが湾曲したラグに接続され、手首にしっかりとフィット。しかもフォールディングバックルはチタン製で、安全面への配慮もうかがえる。「フリーク」の存在感はそのままに、ケース径を小さくしたことでシャツの袖口にほどよく収まり、ブルーとシルバーを基調としたカラーはドレッシーな印象を強めている。もっと言えば、アバンギャルドでハイテクなラグジュアリーウォッチといったところか。目にした人は必ずや興味を抱くであろうし、着用者もまた、それを見せたいという欲求にかられることであろう。

フリーク ビジョン

バックルにはサテン仕上げのチタンを採用している。


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ユリス・ナルダン「フリーク」にまつわる名前の由来を探る

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