時計経済観測所/新型コロナで 旅行消費「消滅」。 五輪延期で 来年以降の 急回復に期待

2020.04.11

いったい2020年のこの状況を誰が予想しただろうか?中国・武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症がこれほどまでに世界を揺さぶるとは……。とはいえ、いつまでも悲観してはいられない。気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が“ポスト・コロナウイルス”を見据える。

磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama
安堂ミキオ:イラスト

新型コロナで旅行消費「消滅」。五輪延期で来年以降の急回復に期待

磯山友幸

 東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の蔓延は世界に広がり、イタリアやスペインなどヨーロッパ各国では死者が相次いでいる。ドイツが国境封鎖に踏み切ったほか、多くの国や都市が次々と国境を「封鎖」している。

感染拡大と経済への影響

 日本は当初、中国、韓国に次いで感染者が多かったが、安倍晋三首相が3月2日からの小中高校の休校に踏み切ったこともあり、その後、感染者の増加ペースは低かった。ところが、3月に卒業旅行などで欧州を訪れた若者などが帰国して感染が確認されるケースが続いたため「第二波」の襲来が懸念され、小池百合子都知事は3月25日に「感染爆発の重大局面」だとして外出自粛を求めた。

 新型コロナの蔓延で、そうでなくても落ち込んでいた日本の消費の底が抜けた。最大の理由は日本を訪れる旅行客が激減したこと。国内消費の低迷を下支えしてきた「インバウンド消費」が壊滅的に減少したのである。

消えるインバウンド消費

 JNTO(日本政府観光局)の推計によると、2月に日本にやってきた訪日外国人旅行者は108万5000人。前年同月比58.3%減と半分以下になった。中国からの旅行客は、2019年2月は72万人だったものが今年2月は8万7000人と87.9%も減った。中国政府が団体の海外旅行を禁止したことが響いている。それでもまだ2月は、武漢市を含む湖北省からの外国人入国を規制していただけで、日本政府が中国と韓国からの入国制限強化に踏み切ったのは3月9日。統計はまだ出ていないが、3月もさらに訪日旅行客が減るのは確実だ。2月に台湾から来ていた22万人や韓国からの14万人、香港からの11万人が一気に落ち込むのは間違いない。さらに本来なら、桜のシーズンである4月は訪日旅行客が7月に次いで多いピークだが、これも壊滅的に減少することはほぼ明らかだ。

 海外旅行客が担っていた「インバウンド消費」はほぼ消えることになる。日本百貨店協会が発表した2月の全国百貨店売上高は3661億円と前年同月比12.2%も減少したが、訪日旅行客が百貨店で免税手続きをして購入した免税売上高は110億2000万円と、前年同月比65.4%減と3分の1に落ち込んだ。新型コロナが終焉するまでインバウンド消費は「消える」ことになるだろう。

 そうした中で、海外旅行客などに支えられてきた時計や宝石など高額品の売れ行きも大打撃を受けている。2月の百貨店での「美術・宝飾・貴金属」の売上高は前年同月比6.6%減とマイナスに転落した。3月もさらにマイナスになる見込みだ。本来ならば7月の東京オリンピック開幕に向けて、海外の人との交流が増加し、インバウンド消費もさらに増えると期待されていた。

 ところが、新型コロナの蔓延による国際間の人の移動の激減で時計の販売も影響を受けている。スイス時計協会が発表した2月の国・地域別の輸出額を見ると、中国本土向けが51.5%減と半減し、月間の輸出額では1月に世界3位だったものが9位に転落した。ディーラーが一気に輸入を止めたことが分かる。

 本来ならオリンピックを控えて在庫を積み増す動きが強まるとみられていた日本向けは2.1%減とマイナスになった。米国向けは17.8%増とそれまでの消費の底堅さを示していたが、3月に入って米国でも新型コロナの感染が広がっており、時計消費も大きく落ち込むことになるだろう。

収束後の経済

 もっとも、日本経済にとっては新型コロナが蔓延する中でオリンピックが強行され、閑散とした大会になるよりも、1年延期が明確になったことで、むしろプラスに働くことになるかもしれない。新型コロナによる経済縮小を食い止めるために、日本銀行や世界の中央銀行は、マイナス金利政策を含む金融の大緩和に踏み切った。また政府も現金給付などを打ち出している。

 経済縮小で金融システムや経済社会が崩壊せずに踏みとどまれば、新型コロナが終息した際に、こうした経済対策によって一気に景気が過熱する可能性もある。もしかするとバブルが発生することになるかもしれないのだ。国際間の人の動きが元に戻るには長い時間がかかるという見方や、グローバル化自体が逆回転を始めるという声もある。「新型コロナ後」を予測するのは難しいが、企業も個人も新型コロナを生き抜けば、明るい未来が待っていると期待したい。


磯山友幸
経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。
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