ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
アメリカではニューヨークで感染爆発状態になり、日本でも4月7日、今更ながら東京など主要都市圏に「緊急事態宣言」が出るなど、全世界で深まる一方の新型コロナウイルス危機。
3月中旬、ロレックスがいち早く全工場を閉鎖したことは、すでに前回のコラムでお伝えした。あれから3週間あまり。新型コロナウイルスの影響はさらに拡大し、ついに2020年の時計マーケットを“吹き飛ばし”た。
2020年の新作発表の“中止”
欧米の時計業界メディア、一部の経済メディアが報じているように、パテック フィリップとロレックス(とチューダー)、いわばスイス時計のトップブランドが、2020年の新作発表の“中止”を決断したというのだ。実際のところは当面のところ延期というのが事実だが、時計業界、特に小売りの最前線にいる人々にとって、これ以上にショッキングな出来事はないだろう。
パテック フィリップ ジャパンも、当初は5月に日本国内での新作発表を予定していたという。だが5月でも感染拡大の収束など到底望めない事態を迎え、またスイスの本社がすでにクローズしていることもあって、すべてがストップしたという。そして本社は「新作発表の延期」を決定した。
ロレックス(とチューダー)の「新作発表の延期」も、先述したように、いち早い工場閉鎖の決断に見られる優れた危機管理体制、世界的な感染拡大、感染者・犠牲者拡大の状況を考えれば当然のことだろう。今後、同様の決断を下す時計ブランドが増えてもおかしくない。2020年は時計業界にとって、製造においても販売においても事実上「空白の年」になるかもしれない。
前出の欧米メディアも指摘しているが、ふたつのビッグブランドによる新作発表の無期延期は今後、スイスの時計フェアの命運を左右しかねない新事態だ。
これまでこの2ブランドは「バーゼルワールド」事務局への支持と協力を表明してきた。両社がもし2021年1月末に開催予定の「バーゼルワールド2021」を新作発表の場に選ぶなら、バーゼルワールドは時計業界にある程度、その存在意義と価値を認められたことになり、オークションハウスの初出展など新しい意欲的な試みもあって、尽きかけていたその寿命は延びるかもしれない。
だが、来年1月末の「バーゼルワールド2021」よりも先に、独自の新作発表を行うことになれば、同フェアは事務局のこれまでの努力にもかかわらず、その存在価値はさらに低下し、2022年以降の存続は極めて難しいことになるだろう。つまり、バーゼルワールドの命運は、これまで以上にこの2社3ブランド次第ということだ。