スモールセコンドの袴は金に!
また、NH TYPE 1Cはスモールセコンドが標準的なバーハンドに改められた。前作の立体感を好む人は多そうだが、製品版のNH TYPE 1Cは、針を取り付ける袴座の部分がより立体的になるという。残念ながら、製品版を見ていないため、正確には分からないが、造形のメリハリは増すはずだ。また、スモールセコンドを取り付ける袴の素材が真鍮から金(!)に変更された。もっとも、この変更はNH TYPE 1Bの製品版7本から実施されたとのこと。飛田氏曰く「素材を変更した理由は、針を何度も取り外ししても、成形できるため」。メンテナンスのたびに針の交換が当たり前になった現在、飛田氏は頑なに「再利用できる針」を好んでいる。「NH TYPE 1も2も、メンテナンスのたびに針を交換する必要はないんですよ」。
ブラスト仕上げも改良された
文字盤の仕上げも改良された。厚さ1mmの洋銀を切削した後、ビーズブラストで表面を粗く処理し、インデックスを掘り込んでいる。旧作に比べてエッジが残るようになった理由を尋ねたところ、「ブラスト処理のノウハウを得たため」と飛田氏は語る。表面を完全に均し、弱い圧力で均一にブラスト処理を施さないと、均一な梨地と、切り立ったエッジは両立できない。なお、ケースや文字盤の加工精度が高すぎるため、普通の時計のように文字盤を固定しても、わずかにクリアランスの差が出るという。現在、飛田氏は、脚まで一体成形(!)した新しい文字盤を試作中とのこと。
デザインの見どころはふたつ
古典的でありつつも今風の造形は、基本的にNH TYPE 1Bのそれを踏襲している。改めての説明になるが、少し述べたい。クラシカルに見えるNH TYPE 1だが、風防はボンベではなく、弱く立体感を付けられたドーム状である。しかし、造形を工夫することで時計全体を立体的に見せている。
ポイントはふたつ。まずは、風防を支えるベゼルの縁をわずかに立たせたこと。フランス語でチムニー(煙突)と言われる手法は、1980年代から90年代の高級時計(例えばパテック フィリップのRef.3919)などが好んだものだ。成形の手間はかかるが、風防の周囲に立体感を盛り込める。そしてもうひとつが、1990年代のパテック フィリップやロジェ・デュブイ、そして現在の一部のモンブランなどが好む、コンケーブ型のベゼルだ。内側をえぐることで立体感を持たせる手法は、1950年代には存在していたものの、フラットなサファイアクリスタル製風防が普及した1980年代以降、一部のメーカーに見られるようになった。この時代に時計の企画に携わった飛田氏が、コンケーブベゼルを採用したのは当然に思える。
NH TYPE 1のコンケーブベゼルは非常に面白く、一部外側に“タメ”を設けた後、緩やかにスロープし、風防に向けて一気に立ち上がる造形を持つ。ベゼル回りの“チムニー”と併せて、この時計のベゼル部分が、極めて立体的に見える理由だ。
特徴的な18刻みのリュウズ
感触についても述べておきたい。どうすれば巻き味を改善できるのか。もっとも“効く”のは、ケースに比して大きなムーブメントを収めること。加えて飛田氏は、プアなETA7750のコハゼ(プレスで抜いた板バネを差し込むのみ)を本格的な退却式に改めたほか、リュウズの刻みを18まで減らしたのである。刻みを減らすほどリュウズは巻きやすくはなるが、感触を追求して刻みを減らした例は、本作が初だろう。
「このリュウズをデザインする際に、ヴィンテージの時計を数多く触ってみて、感触を確かめたのと、写真を見て刻みを数えることをひたすらやりました。かなり粗いと思っていたパテック フィリップの『カラトラバ』でも私が確認できた範囲内では22刻みありました。18刻みはかなりチャレンジングですね」