「薄くて軽い」は正義
腕時計を購入する際、装着感を重要視しない人は少ないだろう。webChronosでもケースにおける重心の低さやラグの長さ、さらにはブレスレットやバックルの作りなど、優れた装着感を持つ時計の条件を再三取り上げてきた。しかし、最も装着感に影響を及ぼすのがケースの厚みと重量だ。
グリップは魅力的なデザインこそ有しているが、設計はあくまでファッションウォッチの域を出ていない。ラグは短いがケースから大きな角度をつけて付けられているため、決して重心は低くない。しかし、グリップは腕なじみの良い、優れた装着感を得ることに成功している。
これは前述の通り時計そのものが薄く、かつ軽いからである。言葉は悪いが、「薄さ」と「軽さ」は七難を隠すのだ。そしてこの薄くて軽いという特徴は、グリップという時計の核でもある。
グリップが発表された当初、国内外を問わず多くの時計ジャーナリストが「本作を手掛けたアレッサンドロ・ミケーレは腕時計が好きなのだろう」と評していた。それは70年代風のデザインをグリップに取り入れる際、彼がストラップやブレスレットの作りも70年代風に近づけたからである。つまりストラップであれば芯を薄く、ブレスレットであればコマの厚みを抑え、遊びを持たせたのだ。
現代の腕時計が70年代のものと比べて芯の厚いストラップや遊びを詰めたブレスレットを装備しているのは、より厚くて重いヘッドを支えるためである。つまり、70年代風のデザインと整合性が取れるストラップもしくはブレスレットを与えるために、ミケーレはヘッドを70年代よろしく、軽くて薄いものにしたのだ。
これがただのファッションウォッチとグリップとの決定的な差である。正直、時計の専業メーカーですら復刻モデルを製作する際、ここまで重量やケース厚とデザインのバランスを考えているところはそう多くないだろう。グリップはミケーレにヴィンテージウォッチへの見識と、情熱があったからこそ生まれた時計なのだ。
時計専業ブランドではなく「グッチ」から発売という快挙
グッチのグリップをただのキワモノだと侮るべきではない。70年代風のレトロ調ウォッチとして説得力のあるデザインは、当時を知っている人ならば琴線を刺激され、また若者にとっては新鮮味にあふれる。
そしてなにより口うるさい愛好家ほど「よく分かっているじゃん」と言いたくなるようなツボを押さえたヘッドのサイズ感と組み合わせられるストラップ。これを過去のアーカイブを持つ老舗ウォッチメーカーではなく、ファッションブランドのグッチが作ったというのも評価したい点だ。
確かに価格はテストモデルで21万5000円と、クォーツを載せるファッションウォッチとしては割高だ。しかし、実際に70年代のヴィンテージウォッチを買うのと違い、新品で購入できる上、さらに2年間の保証まで付いてくる。本当にこの手の時計が欲しいと考える人であれば、決して高い買い物ではない。
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