紆余曲折を経て、ようやく2020年の新作が見られるようになった。そこで4月25に情報公開されたウォッチズ&ワンダーズ(W&W)発表の新作モデルから、注目すべき1本をピックアップして紹介したい。今回はA.ランゲ&ゾーネのオデュッセウスの“金モデル”である。
ランゲ初のスポーティーウォッチは中身こそ見るべき
昨年鳴り物入りでデビューした「オデュッセウス」。高いという声も聞こえたが、あれだけ凝ったケース構造を持ち、ムーブメントも耐衝撃性能を高めた特別なやつが載っていたのだ。価格は妥当というか、あれでも安かったのではないか。事実、手にした人たちの評価は極めて高いし、個人的には、早送りに加えて、逆戻しが可能な曜日・日付表示だけでも、この時計を買う価値があると思っている。問題は、手に入らないことのみ。発表時、A.ランゲ&ゾーネは「年産数百本程度」と明かしていたが、正直、こんな凝ったケースの時計を年間数百本も作れるのだろうか? 体制が整えば数は作れるだろうが、現時点では判断できない。
2020年のA.ランゲ&ゾーネはいつもにまして寡作で、わずか2点しか新製品を発表しなかった。ひとつは、18KWGケースの「ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター」、もうひとつは同じく18KWGケースのオデュッセウスである。モデルはふたつあり、レザーストラップ付きがRef.363.038、ラバーストラップ付きがRef.363.068となる。実物は未見のため、写真を見た印象を述べることにしたい。本意ではないが、こういう状況だからやむを得ない。
オデュッセウスの美点、優れた着け心地
オデュッセウスの美点は数多くあるが、もっとも顕著なのは着け心地の良さだろう。薄いヘッドに重厚なブレスレットを合わせることで、ヘッドとテールのバランスは非常に良い。A.ランゲ&ゾーネは適切なケースと適切なブレスレットの組み合わせという「お約束」を忠実に守ったのである。
オデュッセウスのケース厚はわずか11.1mm。普通のビジネスウォッチ並のため、ケース素材を重い金に改め、ストラップをレザーやラバーに変えても、装着感は悪化しないとA.ランゲ&ゾーネは考えたのだろう。加えてレザーやラバーストラップは、幅が広く、仮にヘッドが重くても重さを上手く散らすはずだ。見た限りで言うと、レザーストラップは厚い芯地を入れることで、時計をきちんとホールドできるようになっている。
対して、裏側にスリットを加えたラバーストラップは表を薄く作り、裏の中心部を盛り上げることで剛性を保つ構造になっている。この微妙なさじ加減はさすがA.ランゲ&ゾーネと言うほかない。ひょっとして、別の素材の芯地が入っているかも知れないが、それは未確認である。素材は明記されていないが、最近のラグジュアリースポーツウォッチに同じと仮定すると、おそらくは強化シリコンだろう。ラバーだと硬すぎるし、普通のシリコンだと、スリットを加えるとそこから断裂する恐れがある。インターチェンジャブルストラップを採用した以上、バックルも簡単に交換できるのが普通だが、A.ランゲ&ゾーネは情報を一切開示していない。ひょっとして、18K素材のインターチェンジャブルバックルを作るのに手間取っているのかもしれない。
なお、18KWGモデルは、ケース構造がステンレススティールモデルと若干異なる。ステンレススティールモデルはブレスレットが全部分解できる構造になっていたが、本作はケースにストラップを外すためのボタンを内蔵している。現時点で用意されたストラップは2種類だが、付け替えの容易なケース構造を考えれば、今後バリエーションは増える可能性がある。
ムーブメント
搭載するCal. L155.1 DATOMATICについては、再三『クロノス日本版』及びwebChronosで語ってきたため、詳しくは述べない。薄型らしからぬ高い耐衝撃性を持たせたのは、A.ランゲ&ゾーネらしい美点と言えるし、振動数の増加に合わせて、ガンギ車の蓋石を大きく取り、保油量を増やしたのも好感が持てる。単に振動数を上げただけのムーブメントではないのである。また、冒頭で述べたとおり、早送りに加えて、逆戻しが可能な曜日・日付表示は非常に使い勝手が良い。これも、耐衝撃性能を高めてあり、多少のラフな使用でも、曜日・日付表示は飛びにくくなっている。見た目だけのスポーツウォッチでない、というオデュッセウスの美点は、このモデルも不変なのである。
ケース構造についても述べておきたい。以前も述べたとおり、オデュッセウスのケースは、ラグを含めて完全に分解可能である。過剰なほどの部品数を持つ理由は、言うまでもなく、傷が付いた際に分解し、完全に研磨できるためだ。このメリットは、ステンレススティールモデルよりも、18KWGモデルの方が大きいと筆者は考えている。既存のスポーツモデルは、例えばケースが傷んだ場合でも、ラグの裏側などは十分磨ききれない(優れた職人が手掛ける場合はこの際ではないにせよ)。しかし、オデュッセウスのように完全にばらせるケースであれば、どんなに傷んだケースでも、修復は容易になる。ステンレススティールケースでは過剰と思われたケース構造は、18Kゴールドモデルを前提としたもの、と考えれば十分合点がいく。
さて結論である。実機は見ていないものの、ステンレススティールモデルの完成度を考えれば、本作の出来が良いことは容易に想像できる。確かに価格は安くないが、ステンレススティールモデル同様、このモデルも値段に見合った中身を持っているはずだ。しかし問題がある。「鉄」のファーストモデルでさえ入手が難しい中、果たして、18Kゴールドモデルを手にできる人が、どれほどいるのだろうか? 詳細は、実機が届いたあとお伝えする予定だ。
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