トゥールビヨンは複雑機構の代表格だが、その価値や審美性について思いをはせることがあるだろうか。美しい挙動を見せるトゥールビヨンは、今なお技術的進歩を続けており、多様化も進んでいる。ここでは、オメガのトゥールビヨン搭載モデル4選を紹介しよう。
トゥールビヨンとは
トゥールビヨン搭載モデルは、各時計メーカーの高級機としてラインナップされることが多い。神秘的な響きを持つトゥールビヨンとはどのような機構なのか、まずは機構の目的や成り立ちについて見ていこう。
構造の一部を回転させて重力の影響を相殺
機械式時計のムーブメントは、主ゼンマイが生む動力を調速脱進機で調整して輪列に伝達している。
一定のリズムで時分秒針などを動かすために調速脱進機は必須であり、ヒゲゼンマイ・テンワ・アンクル・ガンギ車などから成るが、これらは重力(姿勢差)の影響を受けやすい。
調速脱進機をひとつのキャリッジに格納し、一定の周期で回転(主に60秒で1回転)させ、重力の影響を相殺させる機構が「トゥールビヨン」だ。姿勢差により生じる精度の乱れを、重力の影響を制御することにより緩和するための機構である。
コンプリケーションの代名詞的機構
一説によれば、トゥールビヨンが発明されたのは、伝説的時計師アブラアン-ルイ・ブレゲによってである。実際に彼は、1801年6月26日にトゥールビヨンの特許を取得している。
懐中時計の時代に誕生した革新的な機構だが、腕時計に搭載するには熟練の技による小型化や物理学的な知見が欠かせず、長らく歴史に埋もれていた。
1980年代に時計ブランドとしてのブレゲが復活させると、ごく少数の時計師しか実現できない超複雑機構としての認識が広まった。
複雑機構を搭載した腕時計をコンプリケーションと呼ぶが、メカニズムも挙動も美しいトゥールビヨンは、今なおコンプリケーションの代名詞的機構である。
トゥールビヨンの種類と進化
トゥールビヨンは複雑かつ実用的な機構だが、現代ではトゥールビヨンを必要としない高精度な腕時計が数多く登場している。
それでもなお各時計メーカーがメカニズムや審美性を追求する、代え難い魅力がトゥールビヨンにはある。多様化を続けるトゥールビヨンの種類や進化について紹介しよう。
ノーマルトゥールビヨンと技術の進化
一般的なトゥールビヨンは、回転するキャリッジをブリッジで固定した構造である。本来は姿勢差による誤差を解消する機構だが、スケルトナイズしたダイアルから、美しい挙動を鑑賞できるモデルが多い。
このキャリッジを60秒で1回転させるモデルが大半であり、ダイアルから秒針を廃し、トゥールビヨンを秒針代わりに使う手法が取られる。
それの発展形といえる「フライングトゥールビヨン」では、ブリッジを排したり透明の部品を使ったりしてトゥールビヨンが浮いているように見える加工を施す。
さらに、3次元的に回転する「ジャイロトゥールビヨン」や、24秒で1回転する高速回転のトゥールビヨンなども生まれている。
各メーカーにおける実用的な進化
トゥールビヨン搭載モデルは1000万円以上の高級腕時計という認識が支配的だったが、現在は製造技術の進歩により低価格なモデルも販売されている。
2016年にはタグ・ホイヤーが200万円を切るトゥールビヨン搭載モデルを発表し、大いに注目を集めた。
ほかにもリシャール・ミルの耐衝撃トゥールビヨンや、ブルガリによるケース厚わずか5mmのフライングトゥールビヨン搭載モデルなど、実用的なトゥールビヨンの進化は続いている。
オメガのセンタートゥールビヨン4選
オメガの「デ・ヴィル トゥールビヨン」コレクションでは、トゥールビヨンをダイアル中央に配した、デザイン的にも機構的にも斬新なモデルをラインナップしている。
思わずトゥールビヨンをたたえたくなるような、オメガのセンタートゥールビヨン傑作4選を紹介しよう。
De Ville TOURBILLON CO‑AXIAL LIMITED EDITION 38.7 MM
950プラチナ製のケースに170個のバゲットカットダイヤモンドを配し、289個のシングルカットダイヤモンドでダイアルを飾った、抜群にゴージャスなトゥールビヨン搭載モデルである。
ローターは950プラチナ製、秒針は18Kレッドゴールド製などと贅を尽くしただけでなく、コーアクシャル脱進機の採用により油切れが起こりにくくなり、スイスレバー脱進機に比べると理論上の精度も高まっている。世界限定3本のみの生産予定となっている。
De Ville TOURBILLON CO‑AXIAL NUMBERED EDITION 38.7 MM
こちらはリミテッドエディションとほぼ共通する機構を持つ、ダイヤモンドを配さないモデルだ。ケースは18Kレッドゴールド製で、ブラウンを基調としたエレガントな仕上がりである。
サファイアクリスタル製のダイアルによるシースルー仕様でありながら、中央に鎮座するトゥールビヨンは荘厳ともいえる雰囲気だ。ナンバードエディションという名の通り、ケースバックにはシリアルナンバーが刻印される。
De Ville TOURBILLON CO‑AXIAL NUMBERED EDITION 44 MM
こちらはケースの直径が44mmという大ぶりなナンバードエディションであり、上記2種とはフェイスが大きく異なる。18KセドナゴールドとブルーPVD加工により、静謐(せいひつ)ともいえるエレガントかつ統一感のあるデザインだ。
インナーリングとダイアル、さらにレイルロードデザインのリングにより複雑な立体構造を形成しており、神秘的な美しさを醸し出している。
De Ville TOURBILLON NUMBERED EDITION
2020年に発売されたこのモデルは、オメガで初めてマスター クロノメーター認定を受けた手巻きセンタートゥールビヨンウォッチである。オメガはこの時計によって、1万5000ガウスの磁場においても正常に回転し続ける耐磁性能を持つトゥールビヨンを完成させた。
ケース素材には、オメガが開発した18Kカノープス™️ゴールド(ホワイトゴールドの合金)と、18Kセドナゴールドの2種類のゴールドが優美に調和し、黒く硬化被膜加工を施したチタン製のトゥールビヨンキャリッジがアクセントになっている。
知識を深めることで価値が増す
数ある複雑機構の中で、トゥールビヨンは複雑さのみならず、審美性あるいは芸術性という観点でも傑出している。
トゥールビヨンを必要としない高精度な腕時計も数多く登場する中で、今なお審美性と実用性の追求は続いているのだ。
ロマンのあるトゥールビヨンについて知識を深めれば、機械式時計がより価値のあるものとして輝いて見えるだろう。
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