クロノス日本版で絶賛した「クリフトン ボーマティック」。ファーストモデルはバリバリの耐磁モデルだったが、翌年は耐磁用のインナーケースを加えた“普通の”モデルになってしまった。クロノス日本版では変わったのは残念と書いたが、実際はどうだったのか?
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
「廉価版」という認識は勘違いであった
2020年版の「クリフトン ボーマティック」は、既存モデルのコスメティックチェンジでしかない。つまりは、2019年にリリースされた「普通」の耐磁モデルに同じである。しかし、筆者はどうも勘違いしていたようだ。
ボーム&メルシエ曰く「2019年モデルは、耐磁ケースを加えたが、裏蓋はシースルー」とのこと。つまり、時計を見ても、2018年モデル、19年モデル、20年モデルに違いはなかったのである。誤解を招いたのは、「耐磁ケースでムーブメントを包んだ」という説明だった。
2018年のボーマティックは、Cal.BM12-1975Aというムーブメントを載せていた。これは、シリコン製の脱進機とヒゲゼンマイにより、1500ガウスもの耐磁性能を持つムーブメントだった。2018年のプレスリリースには、シリコン製の新しいヒゲゼンマイ、ツインスピアに関する情報も丁寧に盛り込まれていた。『クロノス日本版』編集部はこのムーブメントに驚喜し、ムーブメントを開発したヴァルフルリエを訪問。この傑出したムーブメントに関する情報を、78号で(だいたい)あらいざらい書いたのだった。
翌年発表されたBM13-1975Aは何のインフォメーションもなかったが、耐磁性能は同じく1500ガウスだった。耐磁ケースを入れれば、シリコンヒゲや脱進機がなくても、これぐらいの耐磁性能は与えられる。つまりBM12を、BM13の廉価版と考えた人がいても不思議ではないし、かくいう筆者もそのひとりだった。
新しいボーマティックも1500ガウスの耐磁性能がありますよ
なお新しい「クリフトン ボーマティック デイト COSC」のリリースを見ても、1500ガウスの耐磁性があるとは一言も書かれていない。「自社開発自動巻きキャリバー、ボーマティックBM13 は、 5日間のパワーリザーブ機能を搭載した COSC (スイス公認クロノメーター検定協会)認定クロノメーターです」とあるのみだ。ついに耐磁性能がなくなってしまったのか、と失望していたころ、資料を開いていた編集部の細田がこう語った。「新しいボーマティックも1500ガウスの耐磁性能がありますよ」。確かに価格表を見ると、小さな文字で1500ガウス耐磁と書いてある。マジですか。
ボーマティックはついに耐磁性能を失った、と勘違いしたのには相応の理由があった。2019年、筆者は鳴り物入りで導入したツインスピアのシリコンヒゲゼンマイが、某社の特許に被ったという情報を聞いた。関係者からではないが、これは十分信頼できる情報である。公式の発表ではメンテナンス性を考えたため、だったが、それは違うと思っている。結果、ボーマティックは耐磁ケースを収める仕様に改められ、2020年はついに耐磁性能さえもなくなった、と考えていた。プレスリリースにも、ウェブサイトにも1500ガウス耐磁と書いていないのだから、そう考えるのは当然だろう。
耐磁性能を与える裏技を編み出していた
しかし、ボーム&メルシエは、ツインスピアのシリコンヒゲを使わずとも、「裏スケ」で1500ガウスの耐磁性能を与える裏技を編み出していたのである。これは2020年からと思っていたが、ボーム&メルシエ曰く「2019年モデルから変更した」とのこと。BM13-1975Aは、シリコンヒゲの採用を止めたものの、脱進機は従来に同じシリコン製のため、そもそもかなりの耐磁性がある。加えて文字盤側に耐磁の素材を差し込み、ムーブメントホルダーをクロムコア素材(真鍮とクロムの合金)に代えることで、従来に同じ1500ガウスの耐磁性能を得たという。裏蓋はシースルーだが、それでも1500ガウスを実現したのだから大したものだ。
搭載するBM13-1975Aは、その基本設計を、カルティエの1847MCに寄っている。巻き上げはラチェット式のマジッククリックで、輪列の配置も同じ、加えて受けをピラーで支える構造も違いはない。大きな違いは香箱。地板の直径を28.8mmに拡大することで、約5日間のパワーリザーブを持つ、大きな香箱を載せることに成功した。なお、シリコン製のヒゲゼンマイを持つBM13-1975Aは、緩急針のないフリースプラングテンプだった。シリコン製のヒゲゼンマイを緩急針で挟むと、割れる可能性があるからこれは当然だろう。対して普通のヒゲゼンマイに置き換わったBM13-1975Aはエタクロン風の緩急針が付いている。なお、テンプの受けにはフリースプラングのマスロットを調整する切り欠きが残っており、変更が急であったことをうかがわせる。
BM13-1975Aは触っていないが、兄弟機である1847MCや、2018年度版のボーマティックを触った感想から想像するに、感触は良いだろう。クロムコアを挟み込んだため、シリコンヒゲを載せたモデルよりわずかに重くなっているはずだが、ケースが薄いためさほど影響はなさそうだ。なお、耐磁板を加えたためか、2018年モデルと比べて、ケース厚は0.8mm増している。
さて、クロノス日本版では、かつて本作を最良の実用時計か?ぐらいの勢いで褒めちぎった。2020年も、わずかに変わったものの、その個性がいささかも損じられていないことを大いに喜びたい。しかも3針モデルの価格は、COSCのクロノメーターが付いて、1500ガウスの耐磁性を備え、約5日間のパワーリザーブが付いて34万円(税抜:革ベルト付きは33万円)なのだ。うーん普通に使う機械式時計として、これはすごくいいと思う。未見だけどね。
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