1月に発表されたブルガリ、ウブロ、ゼニスとセイコーの新作時計を振り返る(後編)

2020.06.11

かつては新作発表の場、あるいはリテーラーに対する受注確保の場として、100年を超える歴史を紡いできたスイスの大規模時計見本市。しかしインターネットの普及と、直営店戦略を貫きたいビッグブランドの思惑、そして旧バーゼルワールド運営陣の高圧的な対応などが渾然一体となって、大規模展示会の存在意義が問い糾されている中、まったく予期していなかった新型コロナウイルスが世界を襲った。大規模展示会の未来はどう変化するのか?

前編から読む
https://www.webchronos.net/features/46128/

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌)、鈴木裕之:文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Hiroyuki Suzuki


ブルガリ

新しい仕上げが拓く、フィニッシモの可能性

毎年1月の「ジュネーブデイズ」で、主に女性用の新製品を発表していたブルガリ。2020年は、舞台をドバイに変えて「LVMH ウォッチウィーク ドバイ」で新製品を発表した。メインとなったのは、女性用の「セルペンティ セドゥットーリ」。しかし男性用にも魅力的な新製品が揃った。

(右)オクト フィニッシモ オートマティック ステンレススティール
2020年の目玉。よりラグジュアリーな見た目と高い防水性能を持つ。中身を考えると価格は驚くほど魅力的だ。自動巻き(Cal.BVL138 フィニッシモ)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40mm、厚さ5.15mm)。100m防水。予価127万円。
(左)オクト フィニッシモ オートマティック セラミック
2019年モデルの仕様違い。基本的には全面ポリッシュだが、ブレスレットの一部のみをサテンにすることで立体感を巧みに強調している。基本スペックは右モデルに同じだが、リュウズがねじ込み式でないため、防水性能は30mである。セラミックス。167万9000円(税別)。

 今やブルガリのアイコンとなった「オクト フィニッシモ」。発表以来マット仕上げを強調してきたが、2020年は一転して、ラグジュアリースポーツウォッチ風の仕上げを持つようになった。ポリッシュとサテンを混在させた仕上げは、そもそものプロダクトプランニングにあったようだ。しかしケース製法の進化が、それを容易にさせたことは間違いない。かつて、オクトのケースは手作業で磨きを加えるのがほぼ不可能だったのである。メインとなるのは、「オクトフィニッシモ オートマティック ステンレススティール」である。ベースとなったのは、2018年のサンドブラスト仕様。対して本作は、ケースとブレスレットにサテンとポリッシュ仕上げを施している。また、文字盤がマットになったことで視認性が改善されたほか、ねじ込み式リュウズの採用で、防水性能は100mに高まった。ブレスレットのエッジは立ちすぎているが、装着感は相変わらず優秀で、価格も魅力的だ。

オクト フィニッシモ ミニッツリピーター

オクト フィニッシモ ミニッツリピーター
傑作モデルの18KPG版。ケース内に反響室を設けることで、薄型リピーターらしからぬ音を得たのも同じである。手巻き(Cal.BVL362)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPG(直径40mm、厚さ6.85mm)。30m防水。予価1900万円。
オクト フィニッシモ オートマティック ピンクゴールド

オクト フィニッシモ オートマティック ピンクゴールド
18Kゴールドモデルも、サテンとポリッシュの併用で、ラグジュアリーさを大きく増した。防水性能も向上。自動巻き(Cal.BVL138フィニッシモ)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPG(直径40mm、厚さ5.25mm)。100m防水。予価239万円。

 2019年に発表されたセラミックスバージョンは、ブレスレットの一部を除いて、全面ポリッシュに改められた。仕上げを変えただけで、明らかに高級感を増している。またこのモデルは、バックルの固定方法がSSよりも頑強で、ラフに使っても傷みにくいだろう。

 女性用でお勧めなのは、現時点で最小のトゥールビヨンを載せた「セルペンティ セドゥットーリ トゥールビヨン」だ。キャリッジの受けをサファイアにして、フライングトゥールビヨンのような見た目と理論上の頑強さを両立させている。

ディーヴァ ドリーム フィニッシマ ミニッツリピーター マラカイト

ディーヴァ ドリーム フィニッシマ ミニッツリピーター マラカイト
ブルガリらしい、鮮やかな半貴石をあしらったモデル。リピーターの音は申し分なし。手巻き(Cal.BVL362)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWG+最大4.1ctのダイヤモンド(直径37mm、厚さ9.40mm)。30m防水。世界限定10本。予価2011万1000円。
セルペンティ セドゥットーリ トゥールビヨン

セルペンティ セドゥットーリ トゥールビヨン
世界最小級のトゥールビヨンを載せた女性用モデル。サファイア製の受けでキャリッジを支えている。手巻き(Cal.BVL150)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRG+最大2.88ctのダイヤモンド(縦34mm、厚さ8.9mm)。30m防水。予価850万円。(問)ブルガリ ジャパン Tel.03-6362-0100

 目新しさよりも、成熟ぶりが目立ったブルガリ。何を選んでもハズレのない安心感は大きな魅力だ。 (広田雅将:本誌)


ウブロ

満を持して発表された統合型ブレスレット

泣く子も黙るウブロは、2020年「ビッグ・バン」コレクションに待望のブレスレット仕様を追加した。かつて発表したブレスレットは、経験の浅さを反映してか、仕上げや装着感など、すべて及第点以下だった。しかし、満を持して発表しただけあって、新作の仕上がりは非常に良い。

(右)ビッグ・バン インテグラル オールブラック
待望のブレスレットモデル。軽いため装着感は快適だ。エッジの処理を含め非常によく練られたモデル。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックス(直径42mm、厚さ13.45mm)。10気圧防水。世界限定500本。244万円(税別)。
(左)ビッグ・バン インテグラル チタニウム
右モデルの素材違い。プッシャーが2005年モデルのデザインに変更されたほか、「耳」を留めるビスも廃された。より広い層に訴求するためのリデザインか。個人的に、本作がインテグラルのベストである。基本スペックは上記モデルに同じ。Ti。222万円(税別)。

 ウブロの「ビッグ・バン」が大きな成功を収めた一因には、インターチェンジャブルストラップがある。同価格帯のメーカーが保守的な姿勢を変えない中、いち早くストラップの交換を打ち出したウブロは、時計をファッションアイテムとして見る層にも支持されるに至ったのである。もっとも、インターチェンジャブルを採用することで、ビッグ・バンにブレスレットを加えるのが難しくなった。元々重い「ビッグ・バン」に交換式のブレスレットを付けると、接続部分は簡単に摩耗してしまうのである。これが、クラシック・フュージョンのように、ブレスレットの採用が進まなかった理由である。

スピリット オブ ビッグ・バン メカ-10 チタニウム

スピリット オブ ビッグ・バン メカ-10 チタニウム
約10日間のパワーリザーブを持つメカ-10を搭載した新モデル。ケースの変更に伴い表示部分などがリデザインされた。装着感はビッグ・バンより優れている。手巻き(Cal.HUB1233)。26石。2万1600振動/時。Ti(直径45mm、厚さ14.45mm)。5気圧防水。244万円(8月発売予定)。
クラシック・フュージョン クルズ=ディエズ セラミック

クラシック・フュージョン クルズ=ディエズ セラミック
ベネズエラ出身のアーティストとの最後のプロジェクト。ペイントしたディスクが回転することで表情を変える。基本スペックは右モデルに同じ。世界限定100本。他にもTi、18Kキングゴールドがあり、38mmケースも用意される。自動巻き(Cal. HUB1112)。25石。ブティック限定モデル。138万円(税別)。

 2020年の「ビッグ・バン インテグラル」は、特徴であったインターチェンジャブルをやめることで、優れたブレスレットを与えた試みだ。重い18Kゴールドブレスレットを加えられた理由は、言うまでもなく、ブレスレットがケース一体になったインテグラル(統合型)ゆえだ。併せて、ケースも樹脂製の「耳」を除いて単一素材に変更されたほか、プッシュボタンやインデックスも、落ち着いたデザインに改められた。ウブロはこのモデルを、王道のラグジュアリースポーツモデルに位置づけたいのだろう。プロトタイプを触った感想を言うと、チタニウムとセラミックスのモデルは、ブレスレットの遊び、ヘッドとテールのバランス共に良好だった。ヘッドが重いのはやむを得ないにせよ、バランスは決して悪くない。対して18Kゴールドモデルはかなりヘッドヘビーで、好みは分かれるだろう。いずれにせよ、ブレスレットのモデルは触ってみないと判断は難しい。購入を検討中の人は店頭で実物を見ることを強くお勧めしたい。(広田雅将:本誌)

クラシック・フュージョン ゴールドクリスタル

クラシック・フュージョン ゴールドクリスタル
再結晶させたゴールドクリスタルを文字盤にあしらったモデル。いずれもユニークピース。38mmケースもある。自動巻き(Cal.HUB1112)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。セラミックス(直径45mm、厚さ10.95mm)。5気圧防水。予価223万円(発売時期未定)。
ビッグ・バン インテグラル キングゴールド

ビッグ・バン インテグラル キングゴールド
18Kキングゴールドをあしらったモデル。時計に比してブレスレットは薄めだが、コストダウンのための肉抜きをしていないのは見識だ。ややヘッドへビーだが、ビッグ・バンユーザーなら許容範囲か。基本スペックは「ビッグ・バン インテグラル」各モデルに同じ。556万円(税別)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055