たまには時計にも目を向けて。決して見逃せない、見本市以外で発表された2020年の新作【前編】

世界的な疾病の広がりと、経済を取り巻く危機的状態、加えてそれらについての報道合戦に隠れて、ともすると愛すべき腕時計のことを忘れがちだ。新作の発表はあったものの、前例がないほど不透明な年であり、時計業界から聞こえてくる知らせも、大きな展示会の延期といったあまり良いものではない。しかしコレクターとしての楽観的な立場から見ると、コンプリケーションに始まり、ヴィンテージの復刻版やスマートウォッチに至るまで、いくつかの注目すべき新作が出たことも事実だ。暗いニュースや、現在のめりこんでいるであろうNetflixの画面からいったん目を離し、新しいタイムピースに目を通してはいかがだろうか？

ハイエンドカテゴリー

グルーベル フォルセイ

　グルーベル フォルセイは複雑かつ素晴らしい作品である「QPイクエーション」の新作として、18Kローズゴールドケースにチョコレートカラーのゴールド文字盤を与えたモデルを投入。搭載する“機械式コンピューター”とも呼べるムーブメントは、カレンダーの主要機構とイクエーション・オブ・タイムを含む“アストロノミカル・コンプリケーション”を制御している。

ジャケ・ドロー

　ジャケ・ドローの「ラブィング・バタフライ・オートマトン」は、チンチラレッドという非常に希少な石化した木材を文字盤に使用し、ゴールドで作られた葉飾りに加え可動するフィギュアで構成された自然風景のレイヤーを特徴とする新作だ。

ブレゲ

　ブレゲは「マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5587」の新解釈を、ローズゴールドケースに波紋をかたどったスレートグレイ文字盤の組み合わせで発表。トゥールビヨンとイクエーション・オブ・タイム表示の組み合わせが最大のポイントである。

MB&F

　MB&Fの「HM10ブルドッグ」は、その名称の元となった動物をビジュアルモチーフとしつつ、機械式の顎がパワーリザーブと連動して開閉する意欲作。可動式のラグや、球面のサファイアクリスタル風防など、MB&Fらしいディテールは同作でも健在だ。

エルメス

エルメスの「アルソー スケルトン」は、スモーキーなサファイアクリスタル製文字盤から、スケルトン加工の自動巻きムーブメントがのぞける新作だ。特徴的なラグは馬の鞍から左右に吊らされている、鐙（あぶみ）をイメージしたものである。

特別なクロノグラフ

オーデマ ピゲ

　オーデマ ピゲは非常に希少な20世紀半ばのクロノグラフ（1943年にわずか1本しか製作されなかった）のデザインを、自動巻きクロノグラフの新作「リマスター01」に踏襲して発表。ステンレススティールと18KPGのツートーンケースに、3つ目のシャンパン文字盤を合わせたデザインが美しい。

ブライトリング

　ブライトリングはビンテージ調の復刻モデル「トップタイム リミテッドエディション」をリリースし、近年の新作をフォローアップ。ふたつ目式のクロノグラフであり、レトロ調のいわゆる“ゾロ”文字盤は、熱狂の60年代を彷彿させるルックスである。

モンブラン

　1940〜50年代のミネルバの時計に外観的な賛辞を呈するモンブランの「ヘリテージ パルソグラフ」は、目を引くスモーク仕上げのタバコ文字盤と18Kローズゴールドケースが印象的。ヴィンテージのタイムピース愛好家からは「ドクターズウォッチ」と呼ばれ、クロノグラフ機構は文字盤上のパルソグラフを用いて医師が患者の脈を測るために使われたことでも知られている。

ヴィンテージ・リバイバル

グランドセイコー

　グランドセイコーは2020年におけるブランド誕生60周年を、自身の歴史にインスパイアされた一連のタイムピースに加え、いくつかの新キャリバーを打ち出すことで迎えている。グランドセイコーの新作ハイビートキャリバーである9SA5は、100本限定の18Kイエローゴールドケースをまとい、1960年のグランドセイコー初出のモデルに立ち返っている。

ハミルトン

　ハミルトンは1970年代のパルサーデジタルウォッチ「P2」のケースデザインを忠実に再現した「PSR」をリリース。ただし、商標上の問題からパルサーを名乗ることができず、そのためにヘッドに刻印されたロゴも「HAMILTON」に切り替わっている。OLED（有機発光ダイオード）によるデジタル式時間表示が目を引く。