複雑機構の先導役ブレゲとムーブメントをひもとく。主な機構とデザインを解説

FEATUREその他
2021.11.11

天才時計師として有名なアブラアン-ルイ・ブレゲが創業し、発展させたブレゲは、今でもムーブメントに強いこだわりを持ち続けている。数々の複雑機構を生み出してきたブレゲの功績や、ムーブメントに見られる特徴を知り、代表的なモデルもチェックしておこう。

「クラシック トゥールビヨン 5317」


腕時計の原型を作った初代ブレゲの発明

アブラアン-ルイ・ブレゲ

ブレゲの創業者、アブラアン-ルイ・ブレゲ(1747-1823)。

ブレゲの創業者であるアブラアン-ルイ・ブレゲ(1747~1823年)は、歴史に残る画期的な発明をいくつも成し遂げた。高級機械式時計の基礎ともなっている、ブレゲの開発した代表的な機構を見てみよう。

信頼性の高い自動巻き機構

ブレゲ 自動巻きムーブメント

懐中時計に搭載された、黎明期の自動巻きムーブメント。

現在、機械式時計の主流となっている自動巻き機構は、ブレゲが初めて実用に耐えうる信頼性の高いものとして開発した。

1780年には、最初の自動巻き時計「ペルペチュエル」をフランス王族のオルレアン公に提供し、以来、ブレゲの名はヨーロッパ中が知るところとなった。

機能性だけでなく、デザインもユニークであったペルペチュエルの開発は、ブレゲが時計職人として成し遂げた、最初の大きな成功として知られている。

重力の影響を抑えるトゥールビヨン

ブレゲ トゥールビヨンNo.1188

ブレゲが制作したトゥールビヨンNo.1188。1808年に販売された。

ブレゲは重力こそが、ムーブメントの規則性を妨げる最大の敵だと考えていた。懐中時計は長時間縦姿勢になるため、精度への影響が大きかったのだ。そこで、重力の影響を最小限に抑える機構として開発されたのが「トゥールビヨン」である。

脱進機全体を1分間で1回転する可動キャリッジの内部に格納することで、一方向にかかる重力を相殺するのだ。また、軸受内でテンプが回転することにより、接点が持続的に変化するため注油も改善された。

ブレゲがその特許を取得したのは、1801年のこと。時計史に燦然と輝くトゥールビヨンの発明は、時計製造技術が大きな発達を遂げた現在においてもなお、偉大な功績として称えられている。

ブレゲの後継者たちは、初代の名誉をかけて、現在まで製作されたさまざまな時計により、偉大な発明へのオマージュを奉げ続けている。

ミニッツリピーターとパーペチュアルカレンダー

ミニッツリピーター ゴング

ムーブメントを取り巻くように配置される環状のゴングにより、豊かな音色を生み出しながら、ケース厚の大幅なスリム化を果たした。

17世紀末に時刻を音で知らせる「ミニッツリピーター」が登場したが、ブレゲは改良を施し、1783年に板バネの上で音を鳴らすゴング式を生み出した。

それまでは、ハンマーでケースを叩くトック式が、リピーター機構の主流であった。ブレゲが作り出したゴング式は、誕生して以来多くの時計師が採用することとなる。

また、カレンダー機構における月末やうるう年の日数差を自動補正する「パーペチュアルカレンダー」も、ブレゲが生み出した複雑機構だ。

手作業による補正を必要としていた従来型のカレンダー機構は、ブレゲの手により画期的な機構へと変貌を遂げている。


ブレゲとムーブメント

創業以来、ブレゲはムーブメント開発に多大な力を注ぎ続けている。時計製造技術の発展に寄与してきた、ブレゲの歩みをチェックしておこう。

伝説のクロノグラフとされるキャリバー2320

ブレゲの手巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー2320」は、伝説のクロノグラフとして知られる機構だ。

レマニアの一流の設計者であったアルベール・ピゲのムーブメントを基に改良を重ね、キャリバー2310と名前を変えてからも、数十年にわたり一流ブランドの時計に採用されている。

優れた性能を誇っていたキャリバー2320と、それに続くキャリバー2310は、現在のクロノグラフの基礎とも評されている機構である。

完全自社にこだわらずレマニア社製の改良も

クロノグラフムーブメントCal.582QA

「マリーン クロノグラフ 5527」が搭載する自動巻きクロノグラフムーブメントCal.582QA。これは、レマニア製のクロノグラフムーブメントをベースに、ブレゲが長年にわたって改良を重ねてきたものだ。Cal.582QAの新たな特徴は、秒クロノグラフ車に動力を伝達する中間車に、LIGA製法で製造したバネ性を持たせた歯車を採用した点にある。これによって、中間車が秒クロノグラフ車と噛み合う際の動力伝達の損失と、クロノグラフ秒針の針飛びを抑えることに成功した。また、脱進機とヒゲゼンマイには現代のブレゲらしく、シリコン素材を採用している。

ブレゲは製作するムーブメントに対し、必ずしも完全自社製にこだわっていたわけではない。例えば、前述したキャリバー2320も、ベースはレマニア製のムーブメントだ。

時計製造技術の発展に大きく貢献してきたブレゲだが、その姿勢は現在も変わりなく、2006年にはガンギ車やアンクルにシリコン素材を導入した。これにより、複雑な形状を正確に成形でき、また磁力の影響を抑え、腐食や摩耗への優れた耐性をもかなえたのだ。