天才時計師として有名なアブラアン-ルイ・ブレゲが創業し、発展させたブレゲは、今でもムーブメントに強いこだわりを持ち続けている。数々の複雑機構を生み出してきたブレゲの功績や、ムーブメントに見られる特徴を知り、代表的なモデルもチェックしておこう。
腕時計の原型を作った初代ブレゲの発明
ブレゲの創業者であるアブラアン-ルイ・ブレゲ(1747~1823年)は、歴史に残る画期的な発明をいくつも成し遂げた。高級機械式時計の基礎ともなっている、ブレゲの開発した代表的な機構を見てみよう。
信頼性の高い自動巻き機構
現在、機械式時計の主流となっている自動巻き機構は、ブレゲが初めて実用に耐えうる信頼性の高いものとして開発した。
1780年には、最初の自動巻き時計「ペルペチュエル」をフランス王族のオルレアン公に提供し、以来、ブレゲの名はヨーロッパ中が知るところとなった。
機能性だけでなく、デザインもユニークであったペルペチュエルの開発は、ブレゲが時計職人として成し遂げた、最初の大きな成功として知られている。
重力の影響を抑えるトゥールビヨン
ブレゲは重力こそが、ムーブメントの規則性を妨げる最大の敵だと考えていた。懐中時計は長時間縦姿勢になるため、精度への影響が大きかったのだ。そこで、重力の影響を最小限に抑える機構として開発されたのが「トゥールビヨン」である。
脱進機全体を1分間で1回転する可動キャリッジの内部に格納することで、一方向にかかる重力を相殺するのだ。また、軸受内でテンプが回転することにより、接点が持続的に変化するため注油も改善された。
ブレゲがその特許を取得したのは、1801年のこと。時計史に燦然と輝くトゥールビヨンの発明は、時計製造技術が大きな発達を遂げた現在においてもなお、偉大な功績として称えられている。
ブレゲの後継者たちは、初代の名誉をかけて、現在まで製作されたさまざまな時計により、偉大な発明へのオマージュを奉げ続けている。
ミニッツリピーターとパーペチュアルカレンダー
17世紀末に時刻を音で知らせる「ミニッツリピーター」が登場したが、ブレゲは改良を施し、1783年に板バネの上で音を鳴らすゴング式を生み出した。
それまでは、ハンマーでケースを叩くトック式が、リピーター機構の主流であった。ブレゲが作り出したゴング式は、誕生して以来多くの時計師が採用することとなる。
また、カレンダー機構における月末やうるう年の日数差を自動補正する「パーペチュアルカレンダー」も、ブレゲが生み出した複雑機構だ。
手作業による補正を必要としていた従来型のカレンダー機構は、ブレゲの手により画期的な機構へと変貌を遂げている。
ブレゲとムーブメント
創業以来、ブレゲはムーブメント開発に多大な力を注ぎ続けている。時計製造技術の発展に寄与してきた、ブレゲの歩みをチェックしておこう。
伝説のクロノグラフとされるキャリバー2320
ブレゲの手巻きクロノグラフムーブメント「キャリバー2320」は、伝説のクロノグラフとして知られる機構だ。
レマニアの一流の設計者であったアルベール・ピゲのムーブメントを基に改良を重ね、キャリバー2310と名前を変えてからも、数十年にわたり一流ブランドの時計に採用されている。
優れた性能を誇っていたキャリバー2320と、それに続くキャリバー2310は、現在のクロノグラフの基礎とも評されている機構である。
完全自社にこだわらずレマニア社製の改良も
ブレゲは製作するムーブメントに対し、必ずしも完全自社製にこだわっていたわけではない。例えば、前述したキャリバー2320も、ベースはレマニア製のムーブメントだ。
時計製造技術の発展に大きく貢献してきたブレゲだが、その姿勢は現在も変わりなく、2006年にはガンギ車やアンクルにシリコン素材を導入した。これにより、複雑な形状を正確に成形でき、また磁力の影響を抑え、腐食や摩耗への優れた耐性をもかなえたのだ。