バーゼルワールド2018で発表されたノモス グラスヒュッテの「アウトバーン・ネオマティック41」は、「商品のフォルム」「機能」「外観」「品質」が評価され、同社にとって6回目のグッドデザイン賞を受賞している。その知らせを聞いたクロノスドイツ版はマルティーナ・リヒターを同作誕生の地、グラスヒュッテへ派遣。モデル名にちなんでアウトバーンを運転し、ドイツの時計製造における聖地へ降り立った彼女は、現地でこのアウトバーンをどのように評価しただろうか。
Text by Martina Richter
2020年6月17日掲載記事
アウトバーンを使って「アウトバーン」を見に行く
ノモス グラスヒュッテにとってモデル名の「アウトバーン」という単語は、“精緻なドイツ製クオリティ”という意味を持たせている。同時にそれは、高性能なエンジンを搭載したオープンカーを駆り、6車線からなるドイツの高速道路「アウトバーン」をスポーティに運転するときに得られる自由な高揚感を連想させる。
今回陸路アウトバーンを経て、ブランドの本社があるグラスヒュッテでノモス「アウトバーン・ネオマティック41」を着用させてもらった。しかも本社では、CEOであるウヴェ・アーレント氏から直接話を聞くことができたのだ。
ケース径41mmのアウトバーン・ネオマティック41はノモスのなかでは比較的大きいモデルである。スポーティで男性的な外観ではあるが、流線形のオープンカーのように控えめかつエレガント。一瞥しただけでとにかく美しいという印象である。
時計の外観部分でも高評価を得ており、それはドイツ人プロダクトデザイナー、ヴェルナー・アイスリンガーとの4年以上にわたるコラボレーションが大きな要因となっている。
アイスリンガーはスイスの家具メーカー、ヴィトラへのデザイン提供や、「LoftCube」と呼ばれるプレハブスタイルの可動式住居、その他、家庭、オフィス、公共の場など、多岐にわたるプロダクトデザインを手掛けた人物。今回のノモスとの仕事にあたり、彼自身の豊かな想像力は往年のオールドカーに向けられた。注目すべきはクラシックカーを想起させるデザインでありつつ、陳腐なものとなるのを避けた個性的な仕上がりにある。
最も目立つ文字盤中央の蓄光塗料
文字盤上では8つの蓄光塗料が円を描き、内側に240度の蹄鉄型を形成している。その様子はクラシックカーのダッシュボードに据えられたスピードメーターを想起させるが、それは適応というより抽象的表現と言えるだろう。
このモデルを最初に見たときに抱く「文字盤上のスレンダーな秒針がスピードを表している」という印象は、ふたつの意味で間違っている。ひとつはスレンダーなバトン状の針は秒針ではなく分針であるということ。ふたつめは分針ではなく時針がスピードメーター風の弧の上を運針するようデザインされていることだ。
時針は長さも夜間の視認性においても、ちょうど円を成す弧にマッチするよう設計されている。暗闇では時針と8つの弧が美しくブルーに浮かび上がるところも特徴的だ。これは単純にデザインというより、一種の解決法と考えられる。つまり夜の8時から朝方の4時という外が暗くなる時間帯に掛けては、このスケールデザインにより車のスピードメーターよろしく速度を読み取るように時間確認ができるのだ。そして午前4時を過ぎると、空は明るくなり夜光は不要となる。
分針のオレンジに色付けされた先端部分は、ほぼアワーインデックスと同じ長さでレースコースのバンクのように、わずかに持ちあがった文字盤外周部のインデックスを指し示す。バンクや浅いボウルの縁を思わせるこの少しせり上がった部分は、6時位置のスモールセコンドのダイアルにも見られ、より立体的な効果を醸し出している。
このカーブは十分に立ち上がっており、結果として文字盤を厚くしっかり見せる外観を作りだしているのだ。そのことはスモールセコンドの下にある三日月形の弧を描く笑顔のような、デイト表示窓のエッジからも見てとれる。この開口部から見える3つの数字は、アウトバーンの車線を想起させる。
デイト表示に注力したDUW 6101
デイト表示が存在感を示しているのは偶然ではない。「アウトバーン」の舗装の下で鼓動を打つ自動巻きムーブメントCal.DUW 6101の開発には、あえて存在感のあるデイト表示要素が組み込まれていたのである。
Cal.DUW6101はノモスの11番目の自社製ムーブメントであり、2015年のDUW3001に続き「ネオマティック」シリーズ2番目となるキャリバーだ。「ネオマティック」は“new automatic”の意であり、まったく新しいノモスのムーブメントであることを示している。
DUWはDeutsche Uhren Werke (英訳:German watch movements)の頭文字からり、ノモス グラスヒュッテの工房における能力の高さを示している。もともとはギリシャ文字に由来するキャリバー名だったモデルからの派生機械でもある。完全に設計し直されたわけではないが、ノモスのスウィングシステムを搭載しているところも特徴のひとつだ。従来機との明らかな違いはブリッジの構造に見られ、アウトバーン・ネオマティック41のサファイアクリスタル製ケースバックからはっきりとそれが確認できる。
DUW3001同様、そして既存ムーブメントとは異なり、Cal.DUW6101は背面に4分の3プレートを備えているため、機構の大部分はカバーされている。自動巻き部分もこの大きなプレートの下に格納されており、バランスコックではなくブリッジ下で振動するテンプの独立した数枚の歯車だけを見ることができる。
青焼きされたカール・ハース製ヒゲゼンマイとDUWの緩急装置を備えたテンプは、ノモスにおけるスウィングシステムの一部である。ノモス グラスヒュッテの時計師達はムーブメントを6姿勢で調整しており、その事実をCal.DUW6101にてプレートに刻印している。
ムーブメントに追加されたほかの新しい要素として、外周にゴールドカラーで「NOMOS GLASHÜTTE DEUTSCHE UHRENWERKE」のエングレービングを施したローターも見逃せない。ローターはどちらの方向へ回転しても非常に効率よく主ゼンマイを巻き上げる。DUW3001同様、6101にはラチェット機構は備わっていない。通常ラチェットによって稼働するこのコンポーネントは、スマートにデザインされたダブルホイールシステムに置き換えられている。
前述したように、Cal.DUW6101における、最も存在感のあるポイントはデイト表示にある。35.2mm径のCal.DUW6101は大型ムーブメントということができ、そこからもたらされる十分な表面積により、外周部に大きく視認性の高いデイトリングを配することが可能となったのだ。
デイト表示の可視部分の面積は14.7m㎡。他のムーブメントの同様部分と比べ、およそ3倍が確保されている。弧を描くデイト表示の開口部というスタイルは、好みの分かれるところである。それを支持する好事家もいるだろうし、そうでない人もいるはずだ。だが事実として留意すべきは、このデイト表示がデザインの一部であるという点である。
ノモスの技術者達はCal.DUW6101をスリムに仕上げるべく注力をした。厚さをできるだけ抑えるため、デイト表示のスイッチングホイールは特別に設計されたものとなった。厳密にいうと、このシステムは制御された2枚の歯車と爪から構成されている。
24時間で1回転する一般的な24時間車の代わりに、1日に4回転する小さな歯車が設けられ、それによりデイトディスクは2枚目の歯車と爪を介して1日に1回転するという。小さな歯車はムーブメントをスリム化(3.6mm)することに貢献するだけでなく、歯車の噛み合いも素晴らしく、そのため既存キャリバーに比べ、4倍早くデイト表示を変更することができるようになっている。
日付変更に要する時間が短縮されているのも見逃せない。そのため日付修正の禁則時間帯(日付をリュウズの使用で早送りすべきでない時間帯)も短いのである。日付変更は分針が24時を指す45分前に始まり、24時を過ぎてから45分後に終了する。つまり、禁則時間帯はこの間のみである。
このルールを忘れ、手動で上記の90分の間に日付を変更してしまったとしても、ムーブメントへのダメージを心配する必要はない。スリップクラッチを用いたセーフティ機構が搭載されているからだ。
自動巻き(Cal.DUW 6101)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41mm、厚さ10.5mm)。100m防水。55万500円(税別)。
禁則時間帯以外でわずかに円錐形のリュウズを1段引き出し、回してみるとデイト表示は早送りだけでなく、早戻しも可能であることが分かる。デイト表示が手動で調整されていないとき、日付変更の歯車は動力の流れの外にしっかり固定されているのである。ここが一方向にしか日付変更ができないデイト表示との違いである。
もうひとつのノモスにおける挑戦は、巻き上げ機構を設計し直し、リュウズに2段階ではなく3段階のポジションを与えることであった。果してその結果は非常に好ましいものとなったのだ。刻みのついたリュウズはつまみやすいだけでなく、それぞれの段階にきちんと収まる仕上がり。デイト表示はゆっくりだが、安全な調整が可能。
針は遊びやアガキがなく、正確に合わせることができるため、秒単位での調整が行える。ノモスは1週間に1分以上の誤差が出ない時計作りを信条としており、タイミングマシーンでの計測もこの良いパフォーマンスを裏付ける内容であった。しかし残念ながら、今回我々の短い滞在時間では、手首着用によるテストを行うまでには至らなかった。
大きめなサイズのアウトバーン・ネオマティック41は、強い印象を与えるモデルだ。ファブリックスタイルのストラップは好みの分かれるところだが、しっかりとした着用感で作りも良い。最も重要な点は、ノモス製のピンバックルとの相性が良いことで、手首にしっくりとなじむのだ。
自動巻き(Cal.DUW 6101)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41mm、厚さ10.5mm)。100m防水。55万500円(税別)。
ストラップの一方は艶やかにポリッシュされたケースから滑らかに続くラグの間に収まっており、ケースサイドから見るとその様子はアウトバーン上に設けられた立体交差を思わせる。55万500円という価格から考えると、ノモスのアウトバーン・ネオマティック41はバーゲンモデルではないものの、同社における通常価格帯の範囲内ではある。自社製キャリバーを搭載したデザイナーズウォッチとして見れば、同作は競合するブランドが少ない価格帯に位置していると言えるだろう。
技術仕様
機能: | 時、分、秒(秒針停止機能付き)、日付表示 |
ムーブメント: | 自社開発キャリバーDUW6101、自動巻き、2万1600振動/時、27石、ノモス・スイングシステムテンプ、緩急針と偏心ネジによる緩急調整、耐震軸受け(インカブロック使用)、パワーリザーブ約42時間、直径35.2mm、厚さ3.60mm |
ケース: | ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防(文字盤側無反射加工)、サファイアクリスタル製ケースバック、100m防水 |
ストラップ&バックル: | ファブリック製ストラップ、ステンレススティール製ピンバックル |
サイズ: | 直径41.0mm、厚さ10.5mm、重量64g(実測値) |
価格: | 55万500円 |
精度安定試験 (巻き上げ直後とT24の日差 秒/日、振り角)
巻き上げ直後 | T24 | |
文字盤上 | −2.4 | +0.1 |
文字盤下 | +6.5 | +10.5 |
3時上 | +4.6 | +10.0 |
3時下 | +3.5 | +5.3 |
3時左 | +3.9 | +13.0 |
3時右 | +6.0 | +8.0 |
最大姿勢差: | 8.9 | 12.9 |
平均日差: | +3.6 | +7.8 |
平均振り角: | ||
水平姿勢 | 313° | 276° |
垂直姿勢 | 275° | 238° |
https://www.webchronos.net/features/32980/
https://www.webchronos.net/features/37258/
https://www.webchronos.net/features/42471/