思い切った商品企画で“特徴”を引き出したWATCH GT2
もうひとつは、自社でソフトウェアを作り込める開発力だ。
前作のWatch GT、今作のWATCH GT2ともに、動作するソフトウェアのユーザーインターフェイスはグーグルのwear OSとソックリ。ただし、スマートフォンとの連携に使うアプリはwear OSとは異なり、wear OSのアプリも動かすことはできない。
wear OSと似たユーザーインターフェイスで独自開発を行ったのか、wear OSのオープンソース部分を活用し、独自に発展させたのかは分からない。しかし、追加アプリは期待できないものの、スマートウォッチに求められる機能は概ね含まれており、またウォッチフェイスも豊富である。
何よりもOSの機能を絞り込み、自社製品でのみ動作させるためにスリム化していることが大きいのだろう。一般的なディスプレイウォッチの基準からすると、極めて省電力なのだ。
通常使用時のバッテリー持続時間は、Apple Watchの場合で実質1.5日、wear OS搭載機の場合で1〜1.5日ぐらいというのが筆者の印象だが、WATCH GT2は47mmケースの場合で2週間も使える。心拍センサーとGPSを用いるトレーニング時のモードでも連続約30時間というから優秀だ。
これら数字は42mmケースモデルではそれぞれ半分となるが、それでも通常使用ならば1週間である。
筆者は42mmのレザーストラップモデルを試用したが、厚みは9.4mmで重量はわずか29g。47mmケースの場合は41gに増加するが、それでも十分な軽さだ。
とりわけ軽量なストラップとの組み合わせでは、スマートウォッチであることを忘れるほどの軽快さを持つ。
HUAWEI Band 4 Proとの組み合わせに感じる納得感
前述したように、WATCH GT2に汎用コンピューターとしての要素はない。
なぜならこの中にアプリを追加インストールすることはできない。しかし、ファーウェイが用意しているWATCH GT2用のアプリ「HUAWEI Health」は、実にこなれており、その機能やアプリが提供する機能(活動量計、スポーツ計測、通知機能のカスタマイズなど)は、中国で大量に売れているHUAWEI Bandという活動量計シリーズと同一のアプリ、サービスを共有している。
このためか、スポーツ分析や活動量計測、睡眠分析機能(これはアップルが提供していない数少ないウェアラブルデバイスの機能だ)などは、他製品と比べても納得がいくものに仕上がっている。特に睡眠分析機能は、睡眠導入の検出を間違えることが多い製品が少なくない中、とても精度が高い印象だ。
つまり機能を絞り込むことでシンプルな使いやすさを追求し、スポーツバンドという別のウェアラブル製品とサービス、アプリケーションの基盤を統一することで、各機能を磨き込んでいる。
また、WATCH GT2とBand 4 Proは同じアプリで動作し、それぞれを切り替えながら利用できる。このため、在宅時や睡眠時にはBand 4 Proを用い、外出時にはWATCH GT2に付け替えるといった運用をしても、活動量計測や睡眠分析が途切れることがないのだ。
こうしたシーンごとの使い分けは、Apple Watchやwear OS採用機にはない特徴だ。
電子機器としての優秀性はあらかじめ予想していたが、実際に試用してみると、システムトータルでの完成度の高さ、納得感のある作り方、体験の質にいささか驚かされた。
数年後、彼らが腕時計メーカーとして、さらなる存在感を示していても、筆者は決して驚かない。
ダークホースのWATCH GT2e
最後にWATCH GT2の発売後に登場したWATCH GT2eについても触れておきたい。GT2eはエンジニアリングプラスティックのケースに、スポーティーなラバーストラップを組み合わせたモデルだ。基本的な性能やバッテリーなどはGT2の47mmモデルに準じている。
そして軽く装着感が良いだけでなく、価格も2万円を切る。機能面でもランニングについては、トレーニングメニューを内蔵し、低負荷長時間走やインターバル走などのトレーニングプログラムを、時計の心拍計と連動しながらコーチングする機能が付加されている。
盤面デザインも若年層向けにアレンジしたデザインを追加。バッテリーは確実に1週間以上使える。これが2万円を切るのだから、中途半端な製品は位置づけを見直す必要が出てくるだろう。
テクノロジージャーナリスト、オーディオ・ビジュアル評論家、商品企画・開発コンサルタント。1990年代初頭よりパソコン、IT、ネットワークサービスなどへの評論やコラムなどを執筆。現在はメーカーなどのアドバイザーを務めるほか、オーディオ・ビジュアル評論家としても活躍する。主な執筆先には、東洋経済オンラインなど。