他の多くのラグジュアリーウォッチブランド同様、ジャガー・ルクルトも2020年にはこれまでにない状況に直面している。だがル・サンティエに拠点を置くマニュファクチュールは「サウンド・メーカー」というテーマの下、今年4月ウォッチズ&ワンダーズのデジタルプラットフォームにおいて発表した新作で称賛を集めてきた。今年で着任して3年目となるジャガー・ルクルトのCEOカトリーヌ・レニエが2020年のコレクション、そして業界のさまざまなトピックについて語ってくれた。
Text by Mark Bernardo
ジャガー・ルクルトCEO カトリーヌ・レニエ
ジャガー・ルクルトCEO。ヴァン クリーフ&アーペルにてアジア太平洋地域プレジデントを務めたのち、2018年より現職。
「Cal.899は代表的なムーブメントですが、そのパフォーマンスをさらに次のレベルに高めました」
WatchTime(以下WT):今年の「サウンド・メーカー」のテーマは、「マスター・コントロール」コレクションのテコ入れにも大きく現れています。今回の更新の理由と新作について特筆すべき要素について教えて頂けませんか?
カトリーヌ・レニエ(以下CR):テコ入れにはふたつの特徴があります。ひとつは時計のデザイン、もうひとつはCal.899に関する技術的進歩です。デザインの見直しは昨年始まり、グランドコンプリケーションのケースから着手しました。現在では同様の方向性がマスター・コントロールのケースにも適用されています。1992年の導入時からケースのデザインは見直す価値があると思っており、昨年発表したより現代的なグランドコンプリケーションと同じファミリーに属する形になります。同時にCal.899は代表的なムーブメントですが、そのパフォーマンスを今年さらに次のレベルに高めました。約43時間から約70時間まで延長されたパワーリザーブや、より安定性のある構造などが特徴です。昨年、保証期間を8年へと延長しましたが、これにはムーブメントの信頼性とパフォーマンスの安定性が不可欠でした。
WT:新作のうち「マスター・コントロール・・クロノグラフ・カレンダー」はクロノグラフ+トリプルカレンダー・ムーンフェイズという組み合わせが、ジャガー・ルクルトとして初めての試みでした。あなたとあなたのチームは、そのことに意識を置いていましたか?
CR:それが初めての試みであることは知っていました。ただ私たちにとって最も重要だったのはその機構自体でした。マスター・コントロールは動きある時計のコレクションで、利便性に優れたコンプリケーションを搭載しています。そこには地理的なものからクロノグラフに至るまで、そしてメモボックスも含まれます。トリプルカレンダー機構搭載のクロノグラフは今までのコレクションにはない利便性のある機構を取り入れるということになりました。
自動巻き(Cal.759)。37石。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40mm、厚さ12.05mm)。5気圧防水。156万円(税別)。
「顧客にとっては全ての工程で細かいチェックと検査が行われるということが安心感につながります」
WT:マスター・コントロールはその名前を、ジャガー・ルクルトが出荷前の時計に課す「1000時間のコントロール」に由来しています。実施された当時は、それまでにない形の検査体制でした。時計業界の精度基準は常に進化してきており、ブランドの中にはC.O.S.C.より厳しい自社基準を設けるところもあります。ジャガー・ルクルトの「1000時間」の検査は他のブランドのものと比べてどのようなものなのでしょうか? またそれをさらに厳しいものにするという議論もあるのでしょうか?
CR:ジャガー・ルクルトの検査は進化しています。重要な点は、全て自社内でカバーしているというところです。ムーブメントの最初の稼働時から、ケーシングされてマニュファクチュールを離れるその時まで一貫して様子を確認することができます。組み立てから仕上げまでが自社内で行われ、全ての工程にわたって実際に1000時間ほどかかっているのです。ジャガー・ルクルトにとってはこれがすべて実際に自社内で行われるもので、顧客にとっては全ての工程で細かいチェックと検査が行われるということが安心感につながります。特にサーティフィケートの発行は行っていませんが、全ての時計に対して行われ、マスター・コントロールシリーズのデビューから適用されています。
WT:コンセプトと外観の両面でマスター・コントロールと数年前に導入された「マスター・ウルトラスリム」コレクションにはどのような違いがあるのでしょうか?
CR:もちろんマスター・ウルトラスリムは薄いケースを採用しているという点と、それと同時にクラシカルな外観とコンプリケーションを備えていると思います。コンプリケーションの種類としてはムーンフェイズ、トゥールビヨン、その他クラシカルな時計の機能をジャガー・ルクルトなりのやり方で実現しています。
自動巻き(Cal.978F)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(直径40mm、厚さ12.13mm)。5気圧防水。世界限定50本。完売。
187年の歴史の中で培ってきた鳴り物時計のノウハウ
WT:「サウンド・メーカー」のテーマに戻ると、ジャガー・ルクルトは常にチャイミングウォッチを製作するにあたり常に少し先を行っている気がします。初めてのミニッツリピーターを購入しようとしているコレクターにとって、ジャガー・ルクルトの何が特別なのか教えて頂けますか?
CR:まず、ジャガー・ルクルトには2019年発表の「マスター・グランド・トラディション・ジャイロトゥールビヨン・ウェストミンスター・パーペチュアル」から新作「マスター・グランド・トラディション・グランド・コンプリケーション」まで、チャイミングウォッチの選択肢が豊富であると思います。これらのピースでは音色の豊かさと透明感が、深く掘り下げたクオリティーリサーチによって実現されています。マニュファクチュールには音の専門家がいて、リピーターの音色の豊かさと精度を改良するためのリサーチを継続的に行っています。
ジャガー・ルクルトのチャイミングウォッチは防水性能を有し、また187年の歴史の中で培ってきたノウハウによって、多くの特許を取得しています。特許取得のクリスタルゴングを比較的早い段階で採用し、常に音の透明性、音量、音色の豊かさの改良に余念がありません。採用しているトレビュシェハンマーはゴングに対してより強い打刻を実現するカタパルトのような役割を果たし、これも特許を取得しています。我が社は全体的に見ると約200の鳴り物系ムーブメントを有しています。完璧な音質を追い求める情熱がミニッツリピーターにだけでなく、メモボックスのアラームウォッチにも感じて頂けるでしょう。
手巻き(Cal.184)。126石。パワーリザーブ約50時間。18KWGケース(直径43mm、厚さ14.08mm)。3気圧防水。世界限定18本。完売。
「レベルソはまた、表現のためのキャンパスでもあります」
WT:今年に関していえば、最もクラシカルなコレクション、レベルソの新作は1モデルのみの投入です。1931年にスタートしたレベルソを現在でも魅力的なモデルとするため、どのようにしていきたいと考えていますか?
CR:レベルソはもちろんメゾンのアイコンです。ジャガー・ルクルトを世界中でよく知られたものとしているモデルであり、ジャガー・ルクルトはレベルソで知られたものとなってほしいと考えています。31年から続くシグネーチャーであり、常に更新が図られています。例えば数年前に発表された「レベルソ・トリビュート・ジャイロトゥールビヨン」のようにコンプリケーションを付加するなどしています。
レベルソはまた、表現のためのキャンパスでもあります。個性を発揮するのにケースバックは理想的な存在で、エナメルの細密画やメッセージのエングレービング、その他のアーティストによる作品などを展開することができます。また文字盤やケースの仕上げやカラーなどにもバリエーションが加えられ、新しいストラップの提案もあります。レベルソの訴求方法はさまざまですが、アールデコ調のレクタンギュラーにゴドロン模様という仕様自体は、31年以来変わることがありません。レベルソはジャガー・ルクルトにとっても聖域であり、その他のコンプリケーション搭載の非常にクラシックなラウンドケースの「マスター」、利便性のある稼働性の機能を備えた「マスター・コントロール」、メンズスポーツコレクションである「ポラリス」、レディースのラウンドケースを備えた「ランデヴー」などと共に、非常によく知られたコレクション全体の一部です。
またジャガー・ルクルトというメゾンは革新性のあるシグネーチャーでより豊かな存在となっています。例えば「メモボックス」や、ハイジュエリーウォッチのためのCal.101ムーブメント、「デュオメトル」やジャガー・ルクルトのハイコンプリケーションの頂点「ハイブリス メカニカ」のようなハイウォッチメイキングなどすべてが、ジャガー・ルクルトのコレクションをより豊かにしてくれています。
手巻き(Cal.854/2)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KPG(縦49.4×横29.9mm)。3気圧防水。世界限定100本。完売。
WT:お話頂いたように、ジャガー・ルクルトのコレクションは現在非常に均整が取れているように感じます。現状、まだ何か欠けているもの、または時計作りの分野の中でこれから着手したいと思うようなものがありますか?
CR:もちろんです。今後数年かけて、さらに多くの新作をお目にかけることができるでしょう。革新性を伝えるということにかけては、たとえそれがコア・コレクションを中心に展開されるとしても、今後数年の新作は非常に豊かにそれを伝えていくと思います。これらの新作には、お話できることはたくさんあり、多くのファンとコレクターの方々に喜んで頂けると思います。
レニエによると、ジャガー・ルクルトはこれからも中心となるコレクションを通じて、革新性を追求していくということだ。
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