ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
現在、東京・上野の国立科学博物館で開催中の「時の記念日100周年企画展『時』展覧会2020」。その会期が7月12日(日)までと、残すところあとわずかになった。新型コロナウイルス感染拡大によって一度は延期されたものの、去る6月5日(金)より無事開催され、地味ながらも時計産業と時計文化、時間の概念の変化の100年を俯瞰できる興味深い展示で、時計好きにとっては必見の展覧会だ。未見の時好きは、上野の国立科学博物館へ急げ!
自粛期間を乗り越えての“奇跡”の開催
2020年も7月に入り、時計専門店や百貨店の営業もほぼ通常に戻った。今年の新作発表を無期限延期していたパテック フィリップも、ついに2020年の新作をオンラインで発表した。他の時計ブランドも続々とオンラインで新作を発表。新作の内覧会を行う時計ブランドも出てきた。
また、休館していた美術館や博物館もようやく再開された。だが残念なことに、開催予定だったのに、新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間中に延期や中止を余儀なくされた展覧会も少なくない。その中には時計関連の特別展もあった。
東京・上野の国立科学博物館で4月21日から開催予定だった「時の記念日100周年企画展『時』展覧会2020」も、そんな展覧会のひとつだ。中止も検討されたはずだが、“奇跡的”に約1カ月半遅れの6月5日から、しかも新型コロナウイルス感染防止のため、ネットでの予約制となって何とか開催となった。
開催期間は7月12日(金)までと、残すところ数日しかないが、時計業界に関わる人々にはぜひ足を運んでほしい内容なので、事前に内覧できたこの展覧会の興味深い内容をご紹介したい。
100年前にもあった「時の展覧会」
この展覧会は、100年前に制定された6月10日の「時の記念日」を記念したもの。正直なところ、この記念日の制定が100年も前、というのも驚きだし、制定のきっかけが100年前の5月16日から7月4日にかけて開催された「時」をテーマにして大盛況だった、この博物館の前身、東京教育博物館開催の「時」展覧会だったというのは知らなかった。
今回の展覧会の会場はふたつあり、国立科学博物館・地球館2階では、この100年前の「時」展覧会の展示物も観ることができる。これがなかなかに興味深い。時計の文化面に興味がある人には、こちらがハイライトと言ってもいいだろう。
時計が珍しかった100年前
100年前に当時の政府が「時間をあまり気にしていなかった庶民に時間厳守を促す」という目的で開催し、大盛況で全国を巡回したという100年前のこの展覧会。当時は懐中時計の時代であり、時計を持つ人はごくわずかしかいなかった。「時間をあまり気にしない」なんて、今から考えるとうらやましい限りだが、この時代の日本は工業化の真っ只中。「テーラーメソッド」でおなじみのように、工業化に時間管理は欠かせない。「家庭に於ける時間の善用と悪用」(東京市立第一實科高等女學校出品)をまとめた図版など、時間管理を国民に浸透させようという政策が行われていたことがうかがえる。
この時代に時計マニアだった歌舞伎役者、坂東彦三郎(6代目)に関する展示も興味深い。彼は時計コレクターでもあったそうで、果たしてどんな時計を所有していたのか、もっと深く知りたくなった。またこの企画展のすぐ近く、このフロアの常設展示である芝浦製作所(後の東芝の重電部門)の創業者、田中久重の傑作万年時計「万年自鳴鐘」や日本の発展を支えた産業遺産も、ぜひ同時に鑑賞したい見逃せない展示だ。
時計産業100年の進歩を凝縮
もうひとつの会場、日本館地下1階の多目的室では、日本の時計産業の進化が、各時代を代表する実際の製品展示などでコンパクトに紹介・解説されている。過去のエポックメイキングな製品の実物を観たいという人には興味深い展示だ。
またここでは、標準電波を運営・管理していることで知られる情報通信研究機構(NICT)による、世界の標準時がつくられるシステムや、より正確な時を求めるための研究の最前線、次世代原子時計などの展示もある。
同展覧会の開催は、いよいよ7月12日(日)までとなった。常設展示の入館料だけ(一般・大学生630円、高校生以下および65歳以上は無料)で観賞できるので、未見の方は事前予約のうえ、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
●国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/
※入館の際は、上記の国立科学博物館のホームページより事前に来館予約が必要です
渋谷ヤスヒト/しぶややすひと
モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、その回数は気が付くと25回。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。
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