時計の賢人たちの原点となった最初の時計、そして彼らが最後に手に入れたいと願う時計、いわゆる「上がり時計」とは一体何だろうか? 本連載では、時計業界におけるキーパーソンに取材を行い、その答えから彼らの時計人生や哲学を垣間見ていこうというものである。今回話を聞いたのは、静岡市にあるブライダル・時計・ジュエリー専門店「タカラ堂」(株式会社タカラ堂)の植松昌美社長だ。植松氏が挙げた原点時計は、結納返しで受け取ったクレドールのドレスウォッチ、「上がり時計」はピアジェ「アルティプラノ アルティメート オートマティック」である。その言葉を聞いてみよう。
今回取材した時計の賢人
植松 昌美 氏
株式会社タカラ堂/代表取締役社長
群馬県高崎市生まれ。東京の大学を卒業後、都内の証券会社に就職。結婚からしばらくして静岡へ移住し、1984年にタカラ堂へ入社。2002年より現職に就任し、1930年に創業した同店の3代目店主となる。
原点時計はクレドールのドレスウォッチ
Q. 最初に手にした腕時計について教えてください。
A. 1979年に私の妻から結納返しに受け取ったクレドールの腕時計を挙げます。私の時計人生の起点にある1本です。タカラ堂2代目の娘である彼女が選んでくれたもので、裏蓋には私たちの結婚記念日が刻印されています。この当時、私たちはまだ東京で暮らしていましたが、結婚からしばらくして静岡へ移り、私はタカラ堂へ入社しました。それまで証券マンでしたから慣れないことも多くありましたが、この時計を着けて仕事に励みました。
実は原点時計として選定に悩んだ時計がもう1本あります。1940年代製のオメガ「シーマスター」です。私がタカラ堂へ入社した後、実父が自分の愛用品の中から譲ってくれたものです。私が時計店の人間になったことを喜び、激励の気持ちを込めて贈ってくれました。これを手に取ると、いつもその時の父の姿を思い出します。
腕時計には、手にした瞬間を記憶する力があると思います。そう気付いてから、私自身も人生の節目ごとに新しい時計を購入したり、家族へプレゼントしたりしてきました。
「上がり」時計はピアジェ「アルティプラノ アルティメート オートマティック」
Q. いつしか手にしたいと願う憧れの時計、いわゆる「上がり時計」について教えてください。
A. ピアジェ「アルティプラノ アルティメート オートマティック」を初めて手にした瞬間、ムーブメントの地板と裏蓋が一体化した斬新なデザインに衝撃を受けました。多くの時計ブランドが、伝統と格式を保ちながら進化を遂げています。この時計はその象徴と呼べるものでしょう。薄型であることはもちろん、文字盤の表面仕上げや面取りなど高級機としての装飾も精巧になされています。クールビズが浸透した現代のビジネスシーンにも似合います。ジャケット姿でも、ネクタイや上のボタンを外したようなシャツ姿でも格好良く見せてくれそうです。
2018年の発表から憧れている1本です。自分への祝い事など、ふさわしいタイミングが訪れたら手に入れたいですね。
あとがき
戦国時代、今川氏が治めた当時より、商業の中心地域として栄えた現在の静岡市葵区の呉服町。その名を冠す呉服町通りの商店街の一角にそびえ建つのが「タカラ堂」だ。1階には、ロイヤル・アッシャーなどのジュエリーのショーケースが煌びやかに並ぶ。その傍らに設けられた「時計メンテナンスカウンター」には、白衣の時計技士が常駐する。タカラ堂は一級時計修理技能士が4名、在職する店だ。吹き抜け、アールデコ調の開放感溢れる空間を2階へ上がると時計フロアが広がり、タカラ堂オリジナルの什器にピアジェ、IWC、ベル&ロス、グランドセイコーなどの腕時計が並ぶ。さらに上がると3階には照明を落としたフランク ミュラー専用サロンが設けられている。
タカラ堂の店主、植松氏はかつて「サラリーマンの聖地」と呼ばれる東京・新橋の会社に勤めていた人物だ。「上がり」時計への言葉からうかがえたように、ビジネスパーソンたちが使いやすい時計は特に熟知している。そんな植松氏の選りすぐった実用派モデルが、タカラ堂には豊富に揃っている。
「タカラ堂」公式サイト http://www.takarado.co.jp/
https://www.webchronos.net/2020-new-watches/45477/
https://www.webchronos.net/2020-new-watches/45300/
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