チューダーの「ブラックベイ GMT」は自社製ムーブメントを搭載したミドルレンジのGMTウォッチだ。時針を単独調整できる使い勝手のいいGMT機構と、フリースプラングやシリコン製ヒゲゼンマイを搭載し、高い精度を持つ同作をクロノスドイツ版編集部のマルティーナ・リヒターがテストした。
チューダー「ブラックベイ GMT」
Text by Martina Richter
Photographs by Olaf Köster
1946年にハンス・ウイルスドルフによって創業
世界で活躍したり、各国を旅したりすることは、現在ではパイロットやジェットセッター以外でも当たり前のことである。着用者が第2時間帯を確認できるGMTウォッチは、グローバル化が進む現代にフィットする機能だ。ロレックスの創業者、ハンス・ウイルスドルフは1946年にモントレ チューダー SAを創業し、ハイクオリティだが、ロレックスよりも手ごろな価格の時計を提供してきた。
チューダーは2015年までムーブメントをエボーシュに頼ってきたが、今回のテスト機ブラックベイ GMTは訴求効果の高い価格を維持しながら自社製ムーブメントCal.MT5652を搭載している。同ムーブメントは「ブラックベイ クロノ」で搭載したブライトリングとの共同開発クロノグラフムーブメントCal.MT5813の後に続く、コンプリケーションを追加した2番目の自社製キャリバーとなっている。
時間表示はいくつかの方法で機能する
これが単なる既存ムーブメントにGMT機構のモジュールを追加したものでないことは、リュウズをミドルポジションに引き出し、回せば明らかだ。つまり時針を単独で調整できる上、時針の早送り、早戻しに日付表示が連動しているのである。
これらすべてがテンプを止めずに行われているため、正確な時間は常に保持されている。GMT針を持つモデルにおいて、GMT針ではなく、時針が単独で修正できるタイプのモデルは現状、限られている。
タイムゾーン機能はいくつかの方法で利用できる。最も多く用いられるのは24時間で1周する赤い副時針を、ローカルタイム時刻(=時針で合わせた時刻)とそろえ、昼夜表示とする方法だ。つまりローカルタイム=ホームタイム時の運用である。
この運用時に、時刻を修正することなく異なるタイムゾーンを示したければ、シンプルに両回転ベゼルを回して、24時間針で第2時間帯を表示すればいい。なお、回転リングの48に仕切られたノッチにより、隣り合うタイムゾーンと30分単位で異なるタイムゾーンの表示も可能である。例えばインドやミャンマー、南オーストラリア州などである。
しかし異なるタイムゾーンに移動した際は、副時針をホームタイムの表示用としてそのままいじらず、時針を現地時刻(=ローカルタイム)に合わせる方がより使い勝手に優れるだろう。なぜならブラックベイ GMTで新しいローカルタイムを旅の途中でセットするのは簡単だからだ。
このためにはリュウズをミドルポジションに引き出して回転させるだけだ。前述のようにメインの時針は1時間単位で前進・後退を行うが、ムーブメントは停止しない。これならば旅の終わりに帰国した際に、時針を前進・後退で再調整するだけで済む。
大きく刻みのついたリュウズはチューダーのダイバーズウォッチからの転用だが、操作性に非常に優れている。長いチューブにねじ込まれているが、引き出しはスムーズで、それぞれのポジションにしっかりと収まり、押し込むときにもバネによる僅かではあるがしっかりとした感触がある。
昼夜を問わず高い視認性
スタイリッシュなバラが配されたリュウズは、かつてチューダーが採用していたロゴを想起させる。1969年以来チューダーでは文字盤に盾のマークを施しており、今回のテスト機も同様だ。これは50年代につくられたダイバーズウォッチにインスパイアされたものである。
8つの丸型と6時と9時の長方形、そして12時位置の三角形で構成される、はっきりとしたアプライドインデックスは、文字盤のブラックを背景に浮かび上がって見える。夜光塗料が塗布された“スノーフレイク針”との強いコントラストによって、昼夜を問わず視認性を最適化している。
スノーフレイク針は間違いようのないチューダーの特徴であり、69年の初出である。今回の時計は3本のスノーフレイクの針を備えているが、見間違うことはまずない。一番太いものが時針であり、常に稼働し続けているのが秒針、そして3本目のレッドで24時間で1周するものが副時針である。
ベゼルは両方向に回転し、ネイビーブルーとボルドーレッドの2色を使ったアルミニウム製インレイが装備されている。また、ベゼルはサイドに刻みが入ったブラックベイモデルの典型的なものとなっている。
ケースは41mm径のステンレススティールで、防水性能は200mもある。高い防水性能とエクステンションメカニズムを組み込んだフォールディングクラスプやセーフティ機構など、ダイバーズウォッチと同じ特徴を備えてはいるが、24時間スケールの両回転ベゼルを採用していることからも明らかなように、ダイバーズウォッチとしての訴求はされていない。
端正なケースには、ブラックベイ GMTの他のディテール同様、チューダーの50、60年代の時計を想起させるリベット付きブレスレットが合わせられている。と言うのも、当時の時計はさまざまな部品をつなげるリベットの頭がコマから見えていたのである。なお、ブラックベイGMTのスティールブレスレットはケース側の22mm幅からクラスプ側の18mmへとテーパーがかかっている。
ブレスレット以外にも、「テッラ ディ シエナ」と呼ばれるブラウンのレザーストラップや、テキスタイルのものがある。テキスタイルのストラップは、フランスの150年の歴史を持つ伝統的ジャカード織を行う家族経営の会社によって作られている。
高精度かつロングパワーリザーブのムーブメント
ブラックベイ GMTのケースバックは、しっかりとしたソリッドタイプである。ケースバックの堅牢性はすばらしいものであるが、新しい自社製キャリバーMT5652を隠してしまっているのが残念だ。このムーブメントは堅牢性・持続性・信頼性を信条として設計された前作の自社製ムーブメントを踏襲し、スケルトン加工のローターと、シンプルな地板とブリッジが用いられている。
大きめのテンプは緩急針ではなく、マスロットを用いて歩度調整を行うフリースプラングだ。この大きなテンプが耐磁性のあるシリコン製ヒゲゼンマイと共に、Cal.MT5652が高い精度を実現する支えとなっている。ブラックベイ GMTの日差は完全巻き上げ時に着用した状態で+1秒以内であるが、追加の巻き上げを行わずに42時間後に計測しても+3〜4秒以内に収まっている。
約70時間もパワーリザーブがあるため、週末に着用せずにおいたとしても月曜日の朝に巻き上げや時刻調整を行う必要がない。比較対象となるGMTムーブメント、Cal.ETA 2893-2は多くのGMTモデルに使われているが、パワーリザーブはわずか約42時間である。
チューダーのブラックベイ GMTは新しい自社製ムーブメントを搭載したハイクオリティな時計で、視認性・価値・操作性の高さ・着用性の良さを兼ね備えている。この価格帯では競合モデルと言える存在はほとんどないだろう。
技術仕様
機能: | 時、分、秒、日付表示 |
ムーブメント: | 自社製キャリバーMT5652、自動巻き、2万8800振動/時、28石、シリコン製ヒゲゼンマイ、マスロットを用いたフリースプラングテンプ、耐震軸受け(インカブロック使用)、パワーリザーブ約70時間、直径31.8mm、厚さ7.52mm |
ケース: | ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防、ソリッドケースバック、200m防水 |
ストラップ&バックル: | セーフティ機構及び長さ調節機能を備えたステンレススティール製Dバックル |
サイズ: | 直径41mm、厚さ14.52mm、重量188g(実測値) |
価格: | 39万9000円 |
精度安定試験 (巻き上げ直後とT24の日差 秒/日、振り角)
巻き上げ直後 | T24 | |
文字盤上 | +4.4 | +4.9 |
文字盤下 | +1.2 | +1.8 |
3時上 | +0.1 | +1.5 |
3時下 | +0.0 | +0.3 |
3時左 | −1.5/ | +1.8 |
最大姿勢差: | 5.9 | 4.6 |
平均日差: | +0.8 | +2.1 |
平均振り角: | ||
水平姿勢 | 279° | 266° |
垂直姿勢 | 253° | 227° |
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