モノプッシャークロノグラフは、ストップウォッチ機能の起源に敬意を表して、その歴史が語られることが多い。現代のヴィンテージ調デザインの流行にものっとっている。今回は、ハンハルト、ロンジン、モンブランからバイコンパックス、つまりふたつ目表示のモノプッシャークロノグラフウォッチを選び、それらのアーカイブをひもとき見ていきたい。
Text by Martina Richter
Photograph by OlafKöster
ひとつのプッシャーにふたつのインダイアル
バイコンパックスのモノプッシャークロノグラフでは、ふたつの要素の歴史をたどることができる。まずはモノプッシャークロノグラフ。1930年代、ブライトリングがリセット専用のプッシュボタンを発明し、ふたつのプッシュボタンを備える現代的なクロノグラフウォッチの形態を完成させた。それ以前の主流は、スタート・ストップ・リセットをすべてひとつのプッシャーで行うモノプッシャータイプだった。もうひとつが、文字盤にふたつのサブダイアルを有したバイコンパックスだ。ふたつのサブダイアルの多くが、9時位置にスモールセコンド、3時位置に分積算計を配す。この表示方式は20世紀初頭から存在し、現在人気を盛り返している。
ハンハルト、ロンジン、モンブランはモノプッシャークロノグラフとバイコンパックス両方の要素を取り入れることで流行に乗るとともに、自社の歴史の中にインスピレーションを見いだしている。
ハンハルトのレッドプッシャー
20世紀前半、ハンハルトは機能的なストップウォッチの開発で名を馳せた。1938年、ハンハルトは自社製キャリバー40を用いて海軍士官のためのモノプッシャークロノグラフを作り上げた。以来、赤色のプッシャーはハンハルトのクロノグラフウォッチのトレードマークとなっている。この色はスタート、ストップを明確にすることで誤作動を防ぐようデザインされたものだ。「パイオニア モノスコープ」は2時位置にプッシャーを備えている点も特徴的であり、これを実現するための伝達レバーを組み込んだケースサイズは直径45.43mmと大ぶりである。
「パイオニア モノスコープ」の他の特徴は9時位置のスモールセコンドと3時位置の30分積算計の配置である。文字盤の縁ぎりぎりに寄せられたこのレイアウトも、改良を必要とした。ふたつのサブダイアルの小さな針の中心は、2時と4時、8時と10時の各アラビックインデックスを垂直に結んだ線上にある。これにより文字盤のデザインは先述した1938年のキャリバー40搭載機が忠実に再現された。くっきりとしたトラックの表示、先端の湾曲したクロノグラフ秒針、明瞭なアラビックインデックスによって全体的に計器のような仕上がりとなっている。
ケースにはカーフスキンストラップと尾錠が組み合わされた。刻みの付いたリュウズは大きく、操作時につかみやすいものとなっている。
モンブランに与えられたミネルバの要素
1940年代から50年代にかけて生み出されたミネルバの腕時計は、モンブランの「モンブラン ヘリテージ モノプッシャークロノグラフ」の着想源となった。そのつながりは2006年にリシュモン グループがミネルバを買収したことに始まり、ミネルバはモンブランのムーブメント供給会社となった。今回紹介するモデルには、ミネルバをベースとしたムーブメントは使用されていない。搭載されているのはセリタSW510を改良したムーブメントである。セリタの採用により、モノプッシャークロノグラフ搭載機としては入手しやすい中価格帯を実現できたのだ。ハンハルトと同様にベースムーブメントに改良を加えて12時間積算計を取り除いている。しかしハンハルトとは異なり、クロノグラフプッシャーはリュウズと同軸に組み込まれている。
ボックス型サファイアクリスタル製風防やドットマーカー、細いトラックとドーフィン針が組み合わされたシルバー系のモンブランの文字盤は、ミネルバのタイムピースに見られるヴィンテージ調の外観を彷彿とさせる。3時位置の30分積算計には、昔懐かしい公衆電話の基準分数である3、6、9分が表示されており、またモンブランは自社のロゴを、かつてはミネルバの名前が記されたのと同位置に配している。さまざまなディテールが「モンブラン ヘリテイジ モノプッシャークロノグラフ」におけるヴィンテージ感を高めている。
ソリッドケースバックも鑑賞に値する。往年のミネルバ工房がエングレーブされているのだ。モンブランの時計はまた、ル・ロックルにあるファクトリーの品質保証チームにより課せられた500時間に及ぶ「モンブラン ラボラトリー テスト 500」によって、50mの防水性能をはじめとした信頼性を証明している。シャープな傾斜のついたラグは装着感に優れ、フィレンツェにある自社のレザー工房で作られた高品質なスフマートアリゲーターストラップが組み合わされている。
ヴィンテージとモダンを融合したロンジン
近年、ヘリテージラインを大きく拡充させているブランドにロンジンがある。「ロンジン コラムホイール シングルプッシュピース クロノグラフ」は、20世紀前半まで出自をたどることができる。そのムーブメントはロンジンが腕時計専用として初めて開発したクロノグラフキャリバー13.33Zを開発した1913年だ。
時を経て2008年にロンジンは、グループ会社のETA社にロンジン専用のコラムホイール式クロノグラフムーブメントの開発を要請、これがキャリバーL688.2として知られるようになる。2010年から、リュウズ一体型プッシャーによるクロノグラフムーブメントのキャリバーA08.L11をキャリバーL788.2として搭載した。コラムホイール搭載機としてロンジンのような価格帯を実現しているブランドはまれだ。ムーブメントの動きをサファイアクリスタル製ケースバックから眺められることも喜ばしい。
外観の演出
「モンブラン ヘリテイジ モノプッシャークロノグラフ」には、ボックス型サファイアクリスタル製風防が合わせられ、ヴィンテージ調の外観を強調している。「ロンジン コラムホイール シングルプッシュピース クロノグラフ」はタキメーターの精密な目盛りを印字している。ハンハルトはレッドの先端が湾曲したクロノグラフ秒針がトラックを正確に示して動く。
価格
今回登場した3本のうち唯一デイト表示を備え、モダンで特別感のあるキャリバーを内包した「ロンジン コラムホイール シングルプッシュピース クロノグラフ」の、税別38万円という価格は魅力が高い。モンブランの「モンブラン ヘリテイジ モノプッシャークロノグラフ」は税別54万5000円。ふたつのストーリーが1本のタイムピースに融合されているが、それによってハンハルトとロンジンより高い価格を正当化するものではない。しかしながら、往年のレッドプッシャーを備えたハンハルト「パイオニア モノスコープ」の税別55万円と並び、適正な価格であろう。
技術仕様
ハンハルト「パイオニア モノスコープ」
リファレンスナンバー: | 732-220-011 |
機能: | 時、分、スモールセコンド、クロノグラフ(センタークロノグラフ秒針、30分積算計)、マーカー付き両方向回転ベゼル |
ムーブメント: | Cal.HAN4212/ETA7750ベース、自動巻き、2万8800振動/時、31石、ニッケルゴールドプレーテッドテンプ、ニヴァロックス製ヒゲゼンマイ、耐震軸受け(インカブロック使用)、微動緩急装置付きエタクロン緩急針、パワーリザーブ約42時間、直径30.0mm、厚さ7.90mm |
ケース: | ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防(両面無反射加工)、100m防水 |
ストラップ&バックル: | リベット付きカーフスキン、ピンバックル |
サイズ: | 直径45.43mm、厚さ15.81mm、重量138g |
価格: | 55万円(税別) |
精度安定試験
着用時: | +1.2 |
完全巻き上げ時: | +1.2 |
完全巻き上げ時(クロノグラフ作動): | +0.5 |
24時間後: | +1.7 |
モンブラン「モンブラン ヘリテイジ モノプッシャークロノグラフ」
リファレンスナンバー: | 119951 |
機能: | 時、分、スモールセコンド、クロノグラフ(センタークロノグラフ秒針、30分積算計) |
ムーブメント: | Cal.MB 25.12/セリタSW510ベース、自動巻き、2万8800振動/時、27石、ニッケルゴールドプレーテッドテンプ、ニヴァロックス製ヒゲゼンマイ、微動緩急装置付きエタクロン緩急針、耐震軸受け(インカブロック使用)、パワーリザーブ約48時間、直径30.0mm、厚さ7.90mm |
ケース: | ステンレススティール製ケース、ボックス型サファイアクリスタル製風防(表面に無反射加工)、50m防水 |
ストラップ&バックル: | スフマートアリゲーター、プッシュボタン付きダブルフォールディングバックル |
サイズ: | 直径42mm、厚さ14.7mm、重量112g |
価格: | 54万5000円(税別) |
精度安定試験
着用時: | +1.0 |
完全巻き上げ時: | +2.8 |
完全巻き上げ時(クロノグラフ作動): | +1.7 |
24時間後: | +1.4 |
ロンジン「ロンジン コラムホイール シングルプッシュピース クロノグラフ」
リファレンスナンバー: | L2.800.4.23.2 |
機能: | 時、分、スモールセコンド、クロノグラフ(センタークロノグラフ秒針、30分積算計)、タキメーター・スケール、デイト表示 |
ムーブメント: | Cal.L788/ETA A08.L11ベース、自動巻き、2万8800振動/時、27石、ニッケルゴールドプレーテッドテンプ、ニヴァロックス製ヒゲゼンマイ、耐震軸受け(ニヴァショック使用)、微動緩急装置付きエタクロン緩急針、パワーリザーブ約54時間、直径30.0mm、厚さ7.90mm |
ケース: | ステンレススティール製ケース、ドーム型サファイアクリスタル製風防(文字盤側無反射加工)、サファイアクリスタル製ケースバック、30m防水 |
ストラップ&バックル: | アリゲーター、ピンバックル |
サイズ: | 直径41mm、厚さ14.04mm、重量90.0g |
価格: | 38万円(税別) |
精度安定試験
着用時: | +3.2 |
完全巻き上げ時: | +3.3 |
完全巻き上げ時(クロノグラフ作動): | +3.8 |
24時間後: | +2.9 |
※価格は記事掲載時のものです。この記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。