オクタゴナルシェイプのミドルケースに、よりスタンダードなラウンドシェイプのベゼルなどを組み合わせ、立体としての新たな見せ方を提案した「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。デビュー2年目を迎えた今年は、新たにバイカラーケースと5色のカラーダイアルが登場した。それぞれに個性的な表情を持つが、驚くべきは各色に共通する、圧倒的な「深み」の表現手法である。
2019年のオンリーウォッチに出品されたユニークピース以外では、初めて導入されたバイカラーケース。無彩色を用いたダイアルは、下地メッキの上に半透明のライトスモークをかけて、その上からダークトーンのグラデーション吹きを施している。(右)クロノグラフ:18KPG×18KWGケース/445万円。(左)オートマティック:18KPG×18KWGケース/280万円。
石川英治:スタイリング Styling by Eiji Ishikawa (TABLEROCKSTUDIO)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki
適度な湾曲が与えられたラウンドケースに、多様なフォルムを融合させたCODE 11.59のベーシックモデル。従来はブラックかホワイトのソリッドダイアルのみだったが、カラーダイアルの導入で、ダイアルの立体表現という新たな試みが加わった。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ケース直径41.0mm、ケース厚10.7mm。30m防水。
数千個単位で生産されるマスプロダクトムーブメントとしては、同社初となる自社製一体型クロノグラフを搭載。インダイアル内のカラーやツヤ感を、ベース色とは異なるトーンに微調整することで、積算計使用時の判読性を確保している。自動巻き(Cal.4401)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ケース直径41.0mm、ケース厚12.6mm。30m防水。
奥行きと深みを感じさせる色彩のコード
さまざまに異なるシェイプのパーツを組み合わせ、立体物としての新たな表現を成し遂げた「CODE11.59バイオーデマ ピゲ」(以下CODE11.59)。ローンチから2シーズン目を迎えた2020年の新作は、色彩の分野に挑戦の幅を拡げてきた。スモークラッカーを基本とした、5色のニューダイアルが発表されたのだ。新たに導入されたバイカラーケースにはグレー系の無彩色ダイアル、18KPGまたは18KWGのゴールドケースにはブルー、バーガンディ、パープルのカラーダイアルが用意されるが、驚くべきは、吸い込まれてしまいそうに感じる各色の深み。実はこの「色の深み感」こそ、塗装に関する感性品質の中で、最重要とされている要素なのだ。
実機から分かるダイアルの断面構造はこうだ。まずベースダイアル表面に放射状のサテンを施した後、シルバーの下地メッキをかける。その上に半透明のダイアル色を塗り、その外周にグラデーションペイント。上塗りのザポン(クリア塗装)も相当な厚みを持っており、しかも表面が丹念に磨き出されている。しかしここまでは、通常のラッカーダイアルと比べても、工程的な差はない。ならばなぜ、CODE11.59 のダイアルはこれほどの深みを持つのか? そのヒントは自動車産業の分野にありそうだ。
最も透明感を感じさせるブルースモークのラッカーダイアル。ブルーの色調がややイエロー寄りなのは、より色の深みを増すための配慮か? グラデーションのボケ足が長く、さらに裏表両面で曲率を変えたサファイア風防の効果も相まって、ボンベシェイプのような錯覚を起こさせる。(右)オートマティック:18KPGケース/280万円。(左)クロノグラフ:18KPGケース/445万円。
あらゆる工業製品の中で、塗装に関する基礎研究に最も熱心なのが自動車産業だ。例えばトヨタ系の総合研究機関である豊田中央研究所からは、『塗装深み感の要因解析』(95年)を始め、光応用計測や感性情報研究を下敷きとした論文も多く公開されている。ここでも重要課題とされているのは「色の深み感」であり、その知覚要因を「色の見え」と「奥行き感」に分けて分析している。すると、一般的な色彩学では低明度/高彩度ほど深みがあると定義されている点が、実際の塗装では、低明度/低彩度ほど深みを感じるという結果も導き出される。当然これでは美しい発色は得られない。
では「色の見え」に関する部分を、一般的によく知られている「色相」「明度」「彩度」に置き換えてCODE11.59のダイアルを見てみよう。まず色相は、Y(黄)→G(緑)→B(青)→P(紫)→R(赤)→Y(黄)と循環する、マンセル色相環で考えたい。同研究所の実験では、Y近辺が最も深みを感じ、Pに近づくにつれて深みを感じにくくなるという。例えばCODE11.59のブルーダイアルが、黄色寄りの青をベースとするのはこのためだろう。次に明度だが、これは暗いほど深みを感じる。だが、ただ暗い色では美しくないため、ハイライトからシェードに至る明度の低下勾配を大きくすることで、深みを増すことができるとされている。言うまでもなく、これがグラデーション吹きの効果だ。最後は彩度だが、これは高彩度のほうが深みを感じやすい。ただし彩度の感じ方は個人差が大きく、ソリッドカラーより、クリア層に着色することでより確実に高彩度を感じさせるとも報告されている。CODE11.59のカラーダイアルが半透明塗装なのも、これと関係がありそうだ。
もうひとつ、CODE11.59の半透明塗装がもたらす大きな効果が「奥行き感」の演出だ。自動車の場合は、塗料の中に光輝材を混ぜることで(マイカ塗装の下塗りなど)、入射光が乱反射し、より奥行き感を感じさせるのだという。CODE11.59の場合では、光輝材の役割を下地のサテンとシルバーメッキが担当していることになる。なお現状では、塗装工程に関して本社開発担当ディレクターの言質がとれた以外、詳細は公表されていない。つまり本稿は塗装工学の基礎に基づく筆者の想像に過ぎないのだが、当たらずとも遠からずではなかろうか。
(下)オートマティック/スモークバーガンディ、18KWGケース/280万円。
マンセル色相環の中で、最も深みを感じにくい色がパープル。同じ半透明色のバーガンディよりも明度を落とすことで深みを感じさせている。反面、直射光が当たらない状況では黒に近い発色に。クロノグラフ:18KPGケース/445万円。
(右)Smoked Burgundy
最も鮮やかな発色を見せるスモークバーガンディラッカーダイアル。彩度の感じ方には個人差が生じやすいが、半透明層そのものを着色することで、高彩度による色の深みを強く感じさせている。クロノグラフ:18KWGケース/445万円。
INFORMATION
新色が加わったCODE 11.59の魅力を本誌編集長・広田雅将が語り尽くす
オーデマ ピゲのオフィシャルHP内で展開されている日本特別コンテンツ。その中のひとつ「時計のはなし」では、本誌編集長の広田雅将が魅力を語り尽くしている。8月7日から公開予定の第3回はCODE 11.59とロイヤル オーク オフショアがテーマ。本社開発担当ディレクターを務めるルカス・ラッジへのインタビューを通して、複雑なケース構造や今後の展望を解き明かす。
URL:borninlebrassus.audemarspiguet.com/product03/ ※8月7日公開予定
新しい高級時計の世界観を体感する「THE ROOM」がVRコンテンツに
CODE 11.59のローンチと同時にブティック銀座で展開された体験型プロジェクションマッピング「THE ROOM」。オーデマ ピゲが提唱する新しい高級時計の世界観が、今年はVRコンテンツとして生まれ変わった。会場はブティック銀座と、ブティック名古屋の2カ所。問い合わせ、事前予約は下記まで。
ブティック銀座☎ 03-6830-0788 MAIL:boutique.ginza@audemarspiguet.com
ブティック名古屋☎ 052-211-8188 MAIL:boutique.nagoya@audemarspiguet.com
Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン ☎03-6830-0000
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