IWCの「インヂュニア」は耐磁性時計の象徴だが、超耐磁性への挑戦は収束し、現行モデルではビジネスユースの実用的な腕時計として着地した。エンジニアの職場で活躍した初期モデルから、モダンクラシックな現行モデルまでの変遷を紹介しよう。
IWCとインヂュニア
IWCは創業当時から開拓者精神に溢れていた。アメリカ由来のエンジニアリングとスイスの時計製造技術、さらにドイツのデザイン思想から作られる、IWCの「インヂュニア」の概要を見ていこう。
スイスの職人技とアメリカの工業技術を融合
1868年、IWC(International Watch Company)はドイツ国境にほど近いスイス北部のシャフハウゼンにて創業した。
創業者のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズはアメリカ・ボストン出身の時計師であり、アメリカの近代的なエンジニアリングとスイスの卓越したクラフトマンシップの融合を目指した。
IWCがスイスの高級時計メゾンでありながら英語の社名にしているのは、アメリカ市場向けに高品質な懐中時計を製造しようと考えていた創業者の思惑によるもの。
さらに、豪華な装飾を用いない合理的なデザインを好むのは、ドイツ語圏のシャフハウゼンを拠点としているからだ。
技術者を意味するインヂュニア
1955年に初作Ref.666ADでデビューを飾った「インヂュニア」は、ドイツ語で技術者(エンジニア)を意味する高級腕時計である。
1948年に誕生した高耐磁性の軍用パイロット・ウォッチ「マーク11」の基本設計を流用したインヂュニアは、戦後の立役者となったエンジニアたちに向けて作られ、現在までほぼ一貫して高耐磁性をコレクションの柱としている。
IWCでは「パイロット・ウォッチ」コレクションが空あるいはパイロット、「アクアタイマー」コレクションが海あるいはダイバーが求めるスポーツ性能を重視しているのに対し、陸あるいはエンジニアを担当するのがインヂュニアだ。
IWCは1970年代から 1990年代までポルシェ・デザインとの提携関係を続け、インヂュニアにはモータースポーツの伝統が息づく素材やスポーティーなデザインを用いている。
インヂュニアの魅力
「インヂュニア」は耐磁時計の象徴として名声を博したが、多くのモデルチェンジを経て、より一般ユーザー向けのコレクションへとシフトしている。耐磁性だけにとどまらないインヂュニアの魅力を見ていこう。
耐磁性が特徴
現代人の生活環境は電子機器に囲まれ、腕時計の精度を保証する耐磁性能は一般ユーザーにとっても必須のスペックとなっている。
インヂュニアは初作から航法用腕時計「マーク11」と同等の耐磁性8万A/mを誇り、高耐磁性時計の筆頭格として進化を続けてきた。
1989年にはMRI(磁気共鳴断層撮影装置)の超強力な磁場にさらしても精度を保つ「インヂュニア500,000A/m(Ref.3508)」を発表する。
これはニオブ・ジルコニウム合金製のヒゲゼンマイを採用し、実測値で370万A/m以上の超耐磁性を実現したモデルだ。
2013年以降は高耐磁性をアピールしない方向性にシフトしたが、それでもスタンダードなモデルは4万A/mという実用的な耐磁性能を備える。
ビギナーからアンティーク好きまでおすすめ
インヂュニアは超耐磁性への挑戦を経て、2013年以降は一般ユーザーが求める機能性を重視したスポーツウォッチに着地した。
着用をためらうほどの豪華な装飾はないが仕上げは良好で、スマートに高級感を演出できる。
メカニカルかつスポーティーなデザインはほどよいバイタリティも感じさせ、ビジネスやカジュアルを問わず活躍する汎用性も魅力だ。
また、試行錯誤を繰り返した歴代モデルの中には、短期間で販売終了した希少モデルも多い。これらは技術的な課題を抱えていたが、IWCでは永久修理を約束している。
インヂュニアはIWCのビギナーからコレクターまで、それぞれの楽しみ方があるコレクションといえるだろう。