防水性能があり、自動巻きで、日付表示を備えた高い精度のクロノメーター。1945年、ロレックス デイトジャストはこれらの要素をすべてそろえて登場し、その存在はすでに限りなくパーフェクトに近かった。それにもかかわらず前進は続く。過去も、そしてこれからも。
市川章子:翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
[クロノス日本版 2020年9月号初出]
ロレックスのスタンダードを築いた実用時計のシンボル
1945年のデビューから、今日に至るまで絶え間なく進化を続ける最良の実用時計「デイトジャスト」。同機がいかにして誕生し、そして、どのようにロレックスのスタンダードになり得たのかを振り返っていきたい。
完璧な腕時計とはどういうものを指すのだろう? その条件は、自動巻きのシンプルで視認性の高い3針で日付表示付き、正確かつ丈夫で防水性能もある、といったところではないだろうか。実際、それ以上のものは腕時計において必須とは言えない。とすると、これらの特徴をすべて備えた最初の腕時計が大成功を収めたというのも、なんら不思議なことではないのだ。その登場は1945年。少し後にデイトジャストと呼ばれるようになった。物事は完璧な域に至るまで、少しずつ前進して近づいていくというのはよくあることだが、ロレックスの場合も同様だった。26 年に登場した防水仕様の「オイスター」。それを発展させて31年には同社初の自動巻きムーブメントを搭載した「オイスター パーペチュアル」を発表するというステップを踏んでいる。こうして「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」は完璧なる日常用腕時計に至ったわけだ。
ロレックスの創設者ハンス・ウイルスドルフは市場が求めているものを探るセンスに長けていただけでなく、自社のブランドと技術力を世間にはっきりと注目させる力があると自覚していた。その才覚はネーミングひとつとっても表れている。それは海中を想起させる牡蠣にちなんだオイスターケース然り、自動巻きを表現するパーペチュアルムーブメント然り(パーペチュアルは英語で「絶え間のない」ことを意味する形容詞。腕の動きにより主ゼンマイが巻き上がることを表す)、デイトジャスト然り(日付表示が深夜零時に切り替わる)。
デイトジャストは45年の登場時はゴールドケースのみだった。この年はロレックスの創立40周年でもあったため、特別にデザインされたブレスレットをジュビリーブレスレットと名付けている。ロレックスはデイトジャスト発売の初年度に、搭載する自動巻きキャリバー730を自社の牽引力として前面に据えたのだった。
デザインは、初期のものと現在のものを比べると少々違いがある。ロレックスは完璧なる日常用腕時計として成功したことに甘んじず、さらに改良を重ねていった。53年にはかの有名なサイクロップレンズの導入により日付表示が見やすくなり、56年には日付が切り替わるスピードが上がって、瞬時に表示が替わるようになった。その後、新型の自動巻きキャリバー1065が採用され、それまでより薄いケースのモデルが出来上がっている。以前のモデルは裏蓋がふくらみを帯びていたため、コレクターたちによってバブルバックというペットネームも生まれた。
また、バーハンドとバーインデックス、刻みが入ったフルーテッドベゼルを備えた今日も広く知られているデザインは、50年代中期に完成した。65年には自動巻きキャリバー1570がデイトジャスト用に使われ始める。赤いアルマイト加工で磨耗の少ないリバーサーを使用したのもこの1570からだ。その後、ストップセコンド機能が追加されて、正確な針合わせが可能になった。そして77年以降、傷に強いサファイアクリスタルを風防に採用する。さらに同年、キャリバー3035を搭載。このキャリバーから、日付表示は早送り機能が付き、クイックコレクト仕様になった。またこの年、ロレックスは自社で開発したクォーツムーブメント搭載モデルである「オイスター クォーツ」も発表した。
88年には、テンプ受けが片持ちから両持ちに変わり、日付機構に手が入れられた改良型のキャリバー3135が導入される。この頃のケースはメインモデルに関しては初代のものと同サイズの36mmだったが、31mmや26mmのサイズも加えられた。昔は31mmもメンズ用に選ばれることが多かったが、その後いつしか36mmすら小さく思われるようになってしまった。しかしロレックスは長い間デイトジャストを大型化せずに踏ん張り、初めて大型サイズを発表したのは2009年になってからだ。この時、41mmサイズのデイトジャストⅡを発表している。その後、16年に同じ大きさながら良型のケースに新型ムーブメントを搭載した新作、デイトジャスト41が出るまで製造された。
エレガントでありスポーティー
デイトジャストはかなりの売り上げを記録するほどに大成功を収めたが、技術的な特性以上に、アイコニックでインパクトのあるデザインが購入の決め手となり得るということなのだろう。これはロレックスが、デイトジャストに優美さとスポーティーさを完璧なまでに融合させることに成功したということでもある。かくしてジーンズのようなラフな姿でも違和感なく決まる腕時計が生まれた。ロレックスは、さまざまなシーンに応えられるブランドとして求められているということをすでに理解していたし、そうした世間の欲求は今もますます高まっている。
そんな中、多くのモデルが発表され、アラビックインデックスまたはローマンインデックスを放射状に配したものや、バーインデックス、ダイヤモンドインデックスのもの、豊富なカラーバリエーションを持つ文字盤のもの、文字盤の素材がマザー・オブ・パールや貴石のものなど、実に多くの製品が展開されるようになった。
ケース素材についても多彩なバリエーションがある。ロレックスが2018年に「オイスタースチール」と呼び始めたステンレススティール904Lは高い耐蝕性を持ち、一般的な316Lより硬いとされている。また、ロレゾールという名のゴールド素材とのコンビネーションモデルは、ブレスレットの3列コマの両端がステンレススティールで、ベゼルとブレスレットの中央のコマがゴールドになっているタイプだ。ただし、ホワイトロレゾールのモデルではフルーテッドベゼル部分のみがホワイトゴールドで出来ており、ブレスレットにはホワイトゴールドが使用されていない。
ベゼルはフルーテッドタイプの他に、ドームタイプやダイヤモンドがセッティングされたものもある。また、ブレスレットはジュビリーブレスレットの他に、オイスターブレスレットも用意されている。ブレスレットは2種類ともクラスプ部分に約5mm、長さを調節できるリンクを備えている。ステンレススティール製ブレスレットはレザーストラップやラバーストラップとは異なり、夏やスポーツ時に汗ばむ場合でも装着感があまり損なわれずに済むうえ、ゆとりを持った長さに延長できるのはありがたい。加えて、ブレスレットは長さを変えても外観上に差が出ないことをコンセプトとしいて、調節用のコマ部分はクラスプを開いた状態でも隠れて見えないようになっている。
現在は36mmサイズ(67万6000円〜)と41mmサイズ(73万6000円〜)をはじめ、31mmサイズ(61万5000円〜)もラインナップ。「レディ デイトジャスト」という名の28mmモデルもある。興味深いことに、デイトジャストは現在36mmと41mmサイズではオールゴールドバージョンはない。貴金属ケースのみで展開しているデイデイトと明確に線引きされているのだ。
進化してきたムーブメント
ムーブメントはサイズによって違うものが搭載されている。小型の28mmと31mmモデルに使われているのは、ほとんどが新型ムーブメントのキャリバー2236だ。このムーブメントはヘアスプリングがシリコン製で、酸化被膜を施した自社開発のシロキシ・ヘアスプリングを採用している。それに加えて、パワーリザーブが約55時間あるのが特徴だ。そしてメンズサイズの36mmと41mmモデルには次世代型基幹キャリバー3235が搭載されている。
このムーブメントは、とりわけ精密で頑丈、かつ耐久性に優れていることで知られる先代ムーブメントのキャリバー3135をベースに改良されたものだ。構成は90%以上変更され、それによってロレックスは構造と製造方法に関する特許を合計14種類取得している。耐衝撃性と精度が向上したキャリバー3235は、ボールベアリング使用のローターを取り入れて巻き上げ効率もアップした。
何よりも大きな変化は、パワーリザーブが一般的な約48時間から約70時間に延長されたことだ。これは香箱の壁を薄くすることでより長い主ゼンマイの格納が可能になったことと、革新的なクロナジー エスケープメントの搭載により、従来型のスイスレバー脱進機と比べて15%近く効率が上がったことによる。脱進機の改良はスケルトン形状で軽量化することで可能になった。LIGA(X線を利用した特殊メッキによる成形技術)で仕上げられたニッケルとリンによる合金製のガンギ車とアンクルは、磁束の影響を受けない性質を持っている。また、天真も新たに耐磁性の高いものに替わった。ニオブとジルコニウムの合金製のブルー パラクロム・ヘアスプリングは、耐震軸受けのパラフレックス ショック・アブソーバと同様に、ロレックスの他のモデルにも使われているものだ。あとはケースの裏側がトランスパレントにさえなればと思うのだが、この願いは残念ながら何十年もの間かなえられていない。
デイトジャスト用のムーブメントは、どの大きさであってもすべてがスイス公認クロノメーター検査協会C.O.S.C.よりも条件の厳しい自社独自の基準をクリアしている。精度検査はケーシングされた状態で行われ、レディス用小型ムーブメントでも日差が±2秒以内に調整されている。ありがたいことにリュウズと裏蓋がねじ込み式になっているので、一番小型のモデルでも防水性能は100mだ。
つまるところ、デイトジャストはロレックスの持つ長所がすべてそろっているに近く、それでいて日付表示付きモデルとしては全コレクションの中でリーズナブルな位置にある。初登場の1945年の時点ですでにほぼパーフェクトだったにもかかわらず、長い年月の中で改良が重ねられてきたデイトジャスト。その上、ロレックスのすべてのモデルを見渡しても、これだけ多彩なバリエーションを持つコレクションは他にない。スーツに合わせて似合う一方、スポーツを楽しむ時にも伴うことができる。最大日差が±2秒以内で、今やキャリバー3235搭載モデルに至ってはパワーリザーブが約70時間。これはもう完全無欠の域に近い。ロレックスが今後さらなる高みを目指すならば何を求めているのか、それを気にせずにはいられない。
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