機械式時計の中で、最も人気を集めるジャンルのひとつがストップウォッチを備えたクロノグラフである。しかし、フライバックや12時間積算計といった機構が完成したのは1930年代半ばであり、自動巻きクロノグラフに至っては、その出現を1969年まで待たねばならなかった。機械式時計の中でも、とりわけ歴史の浅いクロノグラフムーブメント。しかし技術の革新は、1980年代以降、このジャンルを最も魅力的なものに変えたのである。
奥山栄一、三田村優:写真
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
広田雅将(本誌)、鈴木幸也(本誌)、細田雄人(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Yukiya Suzuki (Chronos-Japan), Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
Photographs by Eiichi Okuyama, Yu Mitamura
広田雅将(本誌)、鈴木幸也(本誌)、細田雄人(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan), Yukiya Suzuki (Chronos-Japan), Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
クロノグラフ年表
1912年 | ロンジンが腕時計用クロノグラフムーブメントのCal.13.33Zを発表 |
1916年 | バルジューがCal.22をダウンサイズしたCal.A23ことCal.VZ(23)を発表。直径が30mmに収まったため、以降、各社が採用するようになった |
1923年 | ブライトリングが独立してスタート/ストップを行えるワンプッシュボタンを装備した腕時計クロノグラフを発表・ミネルバが初の腕時計クロノグラフムーブメントのCal.13-20を発表 |
1931年 | ロレックスが全回転ローターを使った片方向巻き上げ式自動巻き機構を発表 |
1933年 | ヴィーナスが初のクロノグラフムーブメントであるCal.130を発表 マーテルが12時間積算計を備えたクロノグラフムーブメントのCal.285を発表(1934年説もあり)。おそらく12時間積算計を搭載した初のクロノグラフである |
1934年 | ブライトリングがふたつのプッシュボタンで特許を取得。ユニバーサルは1932年に同様の機構を開発したと主張するが、特許を得たのはブライトリングである |
1936年 | ロンジンが2プッシュボタンを備えたクロノグラフムーブメントのCal.13ZNを発表。航空パイロットが必要としたフライバック機能が装備された。1942年発表の後期型は同軸積算計に進化 バルジューが世界最小のクロノグラフムーブメントであるCal.69を発表。クロノグラフ機構の小型化が進んだ1930年代には、12時間積算計やフライバック機構などが搭載されるようになった |
1937年 | デュボア・デプラがコラムホイール式ではなく、省コストのカム式クロノグラフを開発。ランデロンCal.48の名称で販売される。このムーブメントは1970年までに約350万個が生産されたと言われる。ただし、コラムホイール式のようなブレーキレバーを載せることはできなかった。 |
1938年 | バルジューが12時間積算計付きのCal.72 VZHを発表。直径30mmのサイズに12時間積算計の組み合わせは汎用性が高かった。以降、さまざまなメーカーがこのムーブメントを採用するようになった モバードがクロノグラフのCal.M90を発表。これはモジュール型クロノグラフの先駆けである |
1939年 | ハンハルトがクロノグラフムーブメントを開発 |
1940年 | ヴィーナスが近代的な設計を持つCal.175を発表(12時間積算計付きはCal. 178)。バルジューのCal.23やCal.72と並び、多くのメーカーに採用された |
1941年 | ピアースがクロノグラフの動力伝達方式に垂直クラッチを採用したCal.130を発表。腕時計クロノグラフ初の垂直クラッチ搭載機。ただし、天然ゴムを使用したクラッチは耐久性が高くなかった UROFA/UFAGがフライバックを搭載したCal.59を発表。直径34mmというサイズは、ゆとりあるフライバック機構の搭載を可能にした |
1942年 | ブライトリングが回転計算尺を装備した世界初のクロノグラフ「クロノマット」を発表 レマニアが直径27mmで12時間積算計を搭載したCal.27 CHRO(後のオメガCal.321)を発表 |
1944年 | ユニバーサルがクロノグラフ機構とトリプルカレンダー、そしてムーンフェイズ機能を備えた「トリコンパックス」を発表。ムーブメントはマーテル製のCal.285 |
1948年 | レマニアがオメガ向けに自動巻きクロノグラフを試作。ムーブメントの厚みが増すために、製品化を断念。設計に携わったアルバート・ピゲは「厚さは2倍になる」とコメントを残した |
1952年 | ブライトリングが航空用回転計算尺を装備した「ナビタイマー」を発表。ムーブメントはヴィーナスのCal.178 |
1957年 | オメガが「スピードマスター」を発表。ムーブメントはレマニアが開発したCal.321(27 CHRO C12)。小さなムーブメントをインナーケースで支える構造は、優れた耐衝撃性をもたらした。後に本作はNASAの公式時計となり、人類初の月面着陸に帯同した(69年) |
1960年 | ゼニスがクロノグラフのムーブメントメーカーであるマーテルを買収。自動巻きクロノグラフの開発を推し進める |
1964年 | セイコーが「クラウンクロノグラフ」を発表。ムーブメントは諏訪精工舎製のCal.5717・ホイヤーが「カレラ」を発表 |
1967年 | シチズンがCal.5700を搭載した「レコードマスター」を発表。クロノグラフとの連結機構に簡易的な垂直クラッチを採用 |
1968年 | オメガがカム式のCal.861を「スピードマスター プロフェッショナル」に採用。これは、ブレーキレバーを持つ世界初のカム式クロノグラフムーブメントである。以降、カム式とコラムホイール式の機構的な違いはなくなった |
1969年 | 1月にゼニスがエル・プリメロことCal.3019PHCを発表。3月にホイヤー・ハミルトン/ブライトリングがマイクロローターによる自動巻きクロノグラフムーブメントCal.11を発表。5月、セイコーが自動巻きクロノグラフムーブメントCal.6139搭載モデルを発売。Cal.6139の搭載したマジックレバーと近代的な垂直クラッチは自動巻きクロノグラフの設計に大きな影響を与えた |
1973年 | バルジューが後のETA7750である自動巻きクロノグラフムーブメントのCal.7750を発表。廉価な汎用ムーブメントとして多くのメーカーに使われた |
1974年 | オメガが音叉クォーツクロノグラフの「スピードソニック」を発表。搭載するムーブメントはCal.ESA9210ことオメガCal.1255。クロノグラフ機構は摩擦車式の簡易な垂直クラッチを持つモジュールだった |
1978年 | レマニアがオメガCal.1045の改良版である自動巻きクロノグラフのCal.5100を発表。前作同様、本格的な垂直クラッチを採用していた |
1983年 | デュボア・デプラがクロノグラフモジュール2000系を発表。もともとはレマニアの依頼で設計されたLWO283。このムーブメントは、1980年代以降のクロノグラフブームを支えることとなる ゼニスがエベルの依頼によりエル・プリメロの再生産を開始 |
1984年 | ブライトリングが「クロノマット」を正式に発表。搭載していたのはETA7750・エベルがエル・プリメロを搭載した永久カレンダークロノグラフを発表 |
1988年 | フレデリック・ピゲが自動巻きクロノグラフの1185を発表。コンパクトな自動巻き機構と近代的な垂直クラッチを持つこのムーブメントは、自動巻きクロノグラフの在り方を大きく変えた |
ロレックスの歴史を年表形式で解説
https://www.webchronos.net/features/28865/
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パンダ文字盤クロノグラフ腕時計 12モデル
https://www.webchronos.net/features/22594/
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