【インタビュー】シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクター「アルノー・シャスタン」

2020.08.31
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

時計の複雑さではなく明瞭さを考える方が好きだ

 昨年、全面的にリニューアルされた「J12」。そのデザインを手掛けたのが、アルノー・シャスタンである。J12の20周年を祝すべく、今年、彼はJ12に4つのシリーズを追加した。「私は、J12が20歳のバースデーを祝えるよう入念に準備しました。“Rock the icon”を胸に、アイコンとしての魅力を最大限に発揮すべく、J12の新しいルックを4つデザインしました」。バイカラーを採用した「J12 パラドックス」、外装をサファイアで成形した「J12 X-RAY」、そしてふたつの「J12・20」。面白いのは2色の高耐性セラミックを組み合わせたJ12 パラドックスだ。

アルノー・シャスタン

アルノー・シャスタン
シャネル ウォッチメイキング クリエイション スタジオ ディレクター。1979年、フランス生まれ。ストレート・スクール・オブ・デザインを卒業後、フランスの時計・宝飾ブランドに勤務。2013年5月、シャネルに入社して以降、現職。「プルミエール」「J12」「ボーイフレンド」「コード ココ」「ムッシュー ドゥ シャネル」などのデザインに携わる。彼が手掛けた時計は、2017年、18年、19年のジュネーブ ウォッチ グランプリにおいて3年連続で受賞した。

「このウォッチは、ユニークな縦方向のアシンメトリー構造を持っています。これはふたつのセラミックケースを違う大きさで切断してひとつにする、高度な技術で実現したものです。私は、セーターの袖口からこのウォッチがのぞく様子がとても好きなのです。初めはブラックのケースのシルエットが目に入りますが、腕が動いてJ12 パラドックスが現れると、驚きと心地よい違和感という効果が生まれます。これは誰にでも似合うものではないし、大胆さがないと着けこなすことができないかもしれませんが、それでも、この二面性を高級腕時計でも表現したいと考えたのです」

 シャスタンはJ12を語りつつ、実のところ、彼の思うシャネル像を語っている。

「私は時計の複雑さではなく、明瞭さを考える方が好きですね。率直に言うと、時間を告げるために高度な工学的知識を必要とする時計というのは理解できないのです。もしマドモアゼル シャネルが生きていたら、そのような時計を拒んでいるはずです。私には、時計に対して個人的なビジョンがあります。時を計ることが重要だったことはなく、時計のスタイルがいっそう私を魅了するのです。私にとって、時計はアイデンティティーを示す手段ですね」。とはいえ、彼の姿勢そのものも、シャネルらしく〝パラドキシカル〞だ。

「私はシャネルの、見える、見えないにかかわらず、妥協なく完璧な見た目を追求するという姿勢が気に入っています。時計のデザイン、ムーブメント、用いられる素材、ノウハウなど、これらすべての価値観はシャネルのウォッチメイキングにとって不可欠で、そのアイデンティティーをより強固にするものでしょう」

 スタイルを重視すると言いつつも、傑出したムーブメントと、極めてよく出来たバイカラーのセラミックケースを持つJ12 パラドックス。なるほど、彼がシャネルのデザイナーである理由は納得だ。シャスタンが体現するのは、シャネルを貫くカルチャー、パラドックスそのものではないか。

J12 パラドックス

シャネル「J12 パラドックス」
切断したホワイトとブラック2色の高耐性セラミックを接合したケースを持つ新作。併せて、ラッカー仕上げの文字盤も2色に分けられている。外装の加工は見事だ。ムーブメントにはC.O.S.C.認定クロノメーターを取得した自社開発ムーブメントCal.12.1を搭載する。自動巻き(Cal.12.1)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。高耐性ホワイト&ブラックセラミック×SS(直径38mm)。50m防水。86万5000円。



Contact info: シャネル(カスタマーケア) Tel.0120-525-519


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