ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
2020年3月から本格化した世界的なロックダウン(都市封鎖)や外出自粛から早くも半年が経とうとしている。状況は過酷なままだが、その中で時計業界各社は可能な限りの対応策を実行してきた。その結果、新型コロナウイルスがもたらした時計業界の「変化と教訓」が鮮明になってきた。今回はその間に起きた最大の変化と教訓について紹介したい。
もはや、オンライン販売の導入は不可欠
この前代未聞の新型コロナウイルス危機で起きた時計業界最大の変化。それは時計フェアのような新作のプレゼンテーションから接客セールス、最終的な支払いまで、あらゆる過程のヴァーチャル化、オンライン化の進展である。その中でも最大の変化が、高級時計のeコマース化、つまりオフィシャルサイトでのオンライン販売の積極的な導入だ。
これまでオフィシャルサイトでオンライン販売を行ってきた時計ブランドももちろんあったが、この春からは一気に増えた。このオフィシャルサイトでのオンライン販売がロックダウンや外出自粛の中で重要な役割を、特に一部のトップブランドでは救世主的な役割を果たしたという。それ以前の常識からは考えられないことだが、前年同期に迫る売り上げを達成できたとオンラインのプレスカンファレンスでコメントした時計ブランドもある。
また海外の時計専門サイトの記事の中には、時計店のオンラインショップがこれまでにない売り上げを達成したことを報じたものもある。中には、この半期で前年並み、あるいはそれを超える売り上げを達成できたオンラインショップもあるという。
世界最大の時計企業スウォッチ グループは、2020年上半期は全世界で純売上高が43.3%減少、初の半期赤字を計上したが、アメリカでのオンライン販売は好調で、今後はアメリカでは「デジタル・ファースト」で販売戦略を展開すると述べている。
またトップブランドではないが、特別なメカニズムやデザインを持つ独立系新進ブランドの日本代理店の中にも、オンライン接客、オンライン販売で、これまでにない売り上げを達成できた、と語ってくれたところもある。
こうした国内外のさまざまな情報を総合すると、この新型コロナウイルス危機の中でオンライン販売がこれまでにないほど大きな成果を上げたことは間違いない。しかも新型コロナウイルス危機が終息するまで、間違いなく何年もかかる。今後、時計ブランドにとってオンライン販売の重要性はさらに高まるはずだ。
消費者の立場から見ても、オンライン販売はロックダウンや活動自粛期間中の、高級時計の唯一の、そして安全な購入方法だった。活動自粛は明けたが、店頭に行くことがためらわれる状況はまだまだ続く。消費者にとっても今後、高級時計のオンライン購入はさらに当たり前のことになるだろう。