時計愛好家の中には、腕時計に搭載するカレンダー表示機構は出尽くしてしまったのではないかと思う人もいるだろう。これまで、シンプルなデイト表示だけのものから、ウィークリーカレンダー、アニュアルカレンダー、パーペチュアルカレンダーなど、実にさまざまなカレンダーウォッチが考案されてきた。しかし、オランダの国境近くミュンスターに本社を置くドイツの時計メーカー、マイスタージンガーは、天文学からインスパイアされた斬新な曜日表示モデルを作り上げた。
今回はこの「アストロスコープ」を実際に使ってみた着用レビューをお届けする。
Text by Mark Bernardo
2020年9月 掲載記事
マイスタージンガー 「アストロスコープ」
2018年に発表されたマイスタージンガー初の天文学をテーマにした腕時計「ルナスコープ」は、写実的なムーンフェイズと、ブランドを象徴するシングルハンド、そしてサンバースト仕上げのブルー文字盤の組み合わせが高評価を得たものだった。ルナスコープの続編として2020年に誕生したのがこの「アストロスコープ」だ。
アストロスコープはマイスタージンガーを象徴するシングルハンドを採用している。文字盤中央の文字盤中央の大きな針が12時間で文字盤を1周する。1時間ごとのインデックスの間には15分ごとの刻みが入り、さらにその中に小さな5分刻みのインデックスが入る。針が2周して24時間が経過すると、6時位置の丸い開口部にあるデイト表示が切り替わる。アラビア数字のアワーマーカーはすべて2桁表示だ。マイスタージンガーの時計は「秒単位の時間にとらわれている」慌ただしい人向けではない。ゆとりのある時刻の告げ方が魅力だ。
アストロスコープは、個性的なひとひねりが加えられた曜日表示が備わっている。文字盤12時側の9時から3時にかけて7つの曜日表示が半円弧状に配されており、それぞれの曜日に丸い開口部と惑星記号が対応している。この惑星記号は、曜日順に並んでいるわけではない。惑星の名称はローマの神々の名前を冠していることが多く、一方、各曜日は北欧の神々の名前に由来している。例外は、月に由来する「月曜日」と、太陽に由来する「日曜日」だ。火曜日(Tuesday)は北欧神話の戦いの神「Tyr」に由来する。この神はローマ神話ではマルスとなり、火星の名前となっている。そのため火曜日は火星と結び付けられるのである。他の曜日も同様で、水曜日は水星(マーキュリー、北欧神話の最高神「Woden」)とつながり、木曜日は木星(ジュピター、北欧神話の雷の神「Thor」)、金曜日は金星(ヴィーナス、北欧神話の女王「Frigga」)、土曜日はサターン(北欧神話ではなくローマ神話のサターン)となる。これに従い、惑星のシンボルが配されているのだが、水曜日・水星から始まり、木曜日・木星で終わっているのは奇妙な配列だ。これは2020年7月に起こった明け方の空にすべての惑星を見ることができるイベントにちなんだレイアウトである。10年から12年ごとに、曜日を示す5つの惑星をこれと同様の配列で鑑賞することができる。
曜日表示のホワイトのドットは、リュウズで調整が可能だ。6時位置のデイト表示と連動しており、深夜0時にジャンプして翌日を表示する。曜日を表示するホワイトドットの位置は、実際の空に観察できる惑星と月、太陽の配列を再現しているため、時計の機能を録画してハイスピードで再生すると、ドットはランダムに文字盤12時側の半円内を動いて見える。
直径40mmのステンレススティールケースは全面的にポリッシュ仕上げが施されている。わずかに湾曲したラグは長く細めで手首に収まるが、ケースとストラップの間に大きくスペースが開いている。ベゼルは非常に細い。リュウズはヴィンテージ調のパイロットウォッチなどに見られるような刻みの入った入った玉ねぎ型だ。それほど大きくはないが十分につかみやすく、巻き上げ、時刻調整もしやすい。
セリタSW 220のローターにコート・ド・ジュネーブ仕上げを施した自動巻きムーブメントは、サファイアクリスタル製ケースバックから鑑賞できる。同じキャリバーSW 220はルナスコープにも採用されている。マイスタージンガーの時計は、ケースバックに記されているようにドイツでデザインされたスイス製だ。マイスタージンガーがこの信頼性の高いムーブメントムーブメントに加えた最も重要な特徴は、曜日表示に合わせてホワイトドットを配したディスクだろう。今回、着用して実感したことは、もう少し長いパワーリザーブの方がユーザーフレンドリーではないかということだ。時計が止まってしまった後の日付と曜日の調整の手間を最低限に抑えたいところである。しかしながら同時に、このスペックゆえにこの求めやすい価格が実現されているのは事実である。
アストロスコープは2種類あり、いずれもブラックダイアルを備える。今回着用したモデルは、オールドラジウム調のライトベージュカラーのスーパールミノバがアワーマーカーと惑星記号表示に塗布されたものだ。こちらの方が、もうひとつのブルーインデックスのモデルよりわずかに視認性が高いのではないかと思われる。ただ、どちらにしても明瞭なインデックスと大きなホワイトの針を見誤ることはないだろう。ライトベージュカラーのモデルは、同系色のステッチが施されたブラウンレザーストラップにステンレススティール製ピンバックルが付属している。ブルーのモデルは、薄いブラウンのレザーストラップである。税別26万という価格は適正だろう。
繰り返しになるが、アストロスコープは正確な時間を必要とする人や、シンプルなカレンダー表示を好む人向けではない。面白みがあり、挑戦的な腕時計を求める人にお勧めしたい。これから数年の間、いろいろなことがあった2020年を思い出すことのできるファッションアクセサリーを探しているのならば、この時計はきっと、惑星が勢揃いした明け方の空の思い出を文字盤上に演出してくれる記憶装置ともなろう。
Contact info: モントレックス Tel.03-3668-8550
https://www.webchronos.net/news/42962/
https://www.webchronos.net/news/22714/