海外ジャーナリスト的「上半期に発表された時計」ベスト5 グランドセイコー、カルティエなど/SJX編

2020.09.01

時計業界に限らず、世界がこれほど異常事態に見舞われた例を知らない。我々、時計業界に身を置く者としては、大規模な国際時計見本市が1月のドバイを除いてすべて中止となり、多くの新作に触れ、情報交換する〝場〟を失った。そんな2020年上半期発表の新作から、時計業界を代表するジャーナリストにベスト5を選出していただいた。同時に、岐路に立たされる大規模国際時計見本市に関するそれぞれの見解をうかがった。今回はオンラインウォッチマガジン「SJX Watches」の創設者であるSJX氏だ。
※本記事は2020年6月3日発売『クロノス日本版』89号を再編集して掲載しています。

SJXが選ぶ上半期ベスト5

1位
F.P.ジュルヌ「クロノメーター・レゾナンス」

クロノメーター・レゾナンス

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・レゾナンス」
手巻き(Cal.1520)。62石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。Pt(直径40mm、厚さ11mm)。1260万円(税別)。

オリジナルのレゾナンスは画期的な時計であったが、完璧ではなかった。特に、12時位置に配された小さなリュウズは、ほとんど使用することが不可能であった。今や、フランソワ-ポール・ジュルヌは、実用的な問題をすべて修正すると同時に、技術的なパフォーマンスにおいてもムーブメントを次のレベルへと引き上げている。新型「クロノメーター・レゾナンス」にはふたつの「ルモントワール デガリテ」(定力装置)が2系統の各輪列に搭載装備されており、いずれのテンプも駆動初日に一定のトルクで動力が供給されるようになっている(28時間後にはルモントワール デガリテは外れる)。その結果、ふたつのテンプは、主ゼンマイが完全に巻き上げられた状態から24時間後まで一定の振り角で振動する。つまり、ふたつテンプ間の共振による理論上の利点はすべて駆動初日に実現され、その間、動力源が供給するトルクが変動しても定力装置がその影響を排除するため、障害は発生しないのだ。

2位
カルティエ「タンク アシメトリック」

タンク アシメトリック

カルティエ「タンク アシメトリック」
手巻き(Cal.1917 MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。18KYG(縦47.15×26.1mm、厚さ6.38mm)。世界限定100本。2020年12月発売予定。279万6000円(税別)。

カルティエは1世紀以上にわたってエレガントなフォルムの時計作りに秀でてきたため、その歴史的なリメイクが美しいデザインオブジェクトであることは驚きに値しない。複雑機構や機械的な興味を追求したモデルではなく、「タンク アシメトリック」はまさに美しいデザインオブジェクトそのものである。カルティエのコレクターにとって、この原点モデルは比較的まれな時計という利点がある。現代においても、カルティエはほんの一握りの限定数でこの特徴的なケースを持つモデルをリメイクしたに過ぎない。

3位
シャネル「J12 X-RAY」

J12 X-RAY

シャネル「J12 X-RAY」
手巻き(Cal.3.1)。21石。パワーリザーブ約55時間。サファイア(直径38mm)。30m防水。世界限定12本。予価6810万円(税別)。

時計をばかげているように見せてその実クールに仕立てることは困難だが、シャネルの「J12 X-RAY」はそれをうまく実現している。すでにアイコニックなデザインを持つJ12だが、このモデルの外装はブレスレットを含むすべてがサファイア(合成コランダム)製である。これは業界初のブレスレットであり、優れた設計を持つシャネル自社開発ムーブメントのひとつ、キャリバー 3.1を搭載する。哲学的には、これはちょっとした内輪受けのジョークのようでもある。オリジナルの典型的なJ12はブラックもしくはホワイトの光沢ある高耐性セラミックだが、これは見るからに正反対だ。価格は日本円で6000万円を超え、荒唐無稽にも思えるが、12個のみ製造される稀少なモデルだ。

4位
グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours」Ref.SLGH002

ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours

グランドセイコー「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート36000 80 Hours」Ref.SLGH002
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KYG(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定100本。セイコーフラッグシップサロン、グランドセイコーブティック限定モデル。450万円(税別)。

このSLGH002に初めて搭載されたまったく新しい世代のグランドセイコームーブメントCal.9SA5は、技術的にも審美的にもアップグレードされたものだ。特許取得済みの低摩擦のデュアルインパルス脱進機、再設計された巻き上げ式のヒゲゼンマイ、ミーンタイムスクリューによって調整可能なグランドセイコーフリースプラングテンプを備える。同時に、グランドセイコームーブメントの初期の世代よりも装飾的な仕上げが施されている。言い換えれば、このムーブメントは、スイスの最新ハイエンドムーブメントに見られる多くの特徴を備えており、グランドセイコーをヨーロッパのライバルに対してより強い立場に置いている。しかし、スタイリングは伝統的なグランドセイコーのままで、好みによって退屈にも魅力的にも感じられるだろう。

5位
ジン「U50」

U50

ジン「U50」」
自動巻き(Cal.SW300-1)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Uボート・スチール(直径41mm、厚さ11.15mm)。500m防水。35万円(税別)。

オリジナルのジン「U1」は、実用的で信じられないほど頑丈で、価格も手頃なため、見事な時計である。しかし、U1は直径44mmもあり、一部の人にとっては少し大きかった。U50は同じダイバーズウォッチだが、直径は41mm。確かに小さいケースサイズでは、U1の1000m(100気圧)に対して500m(50気圧)と防水性能が低下しているが、プロフェッショナル向けの本格的なダイバーズウォッチとしても、いずれも十分な防水性能を備えており、それは大きな問題ではない。