時計業界に限らず、世界がこれほど異常事態に見舞われた例を知らない。我々、時計業界に身を置く者としては、大規模な国際時計見本市が1月のドバイを除いてすべて中止となり、多くの新作に触れ、情報交換する〝場〟を失った。そんな2020年上半期発表の新作から、時計業界を代表するジャーナリストにベスト5を選出していただいた。同時に、岐路に立たされる大規模国際時計見本市に関するそれぞれの見解をうかがった。今回はオンラインマガジン「Quill & Pad」編集長のエリザベス・ドーア氏だ。
※本記事は2020年6月3日発売『クロノス日本版』89号を再編集して掲載しています。
エリザベス・ドーアが選ぶ上半期ベスト5
1位
A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス」
1位
A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス」
自動巻き(Cal.L155.1 DATOMATIC)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWG(直径40.5mm、厚さ11.1mm)。120m防水。437万円(税別)。
2019年10月、ステンレススティール製ケースで発表された際に、一部愛好家の間で熱い論争が交わされたともされる「オデュッセウス」。その新作のホワイトゴールドバージョンは、ラバーストラップとレザーストラップの2モデルがラインナップされ、この頑丈なデイリーウェアの新しいラインにさらに多くの個性を追加している。
2位
ドゥ ベトゥーン「DB28XP トゥールビヨン」
手巻き(Cal.DB2009V4)。33石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約120時間。Ti(直径43mm、厚さ8.1mm)。3気圧防水。
この新作は、美しい青いアクセントと手作業によるギヨシェダイアルを備えた、ドゥ ベトゥーンのランドマーク「DB28」のより薄く、より洗練されたバージョンと言えるだろうか? もちろん!
3位
ブルガリ「セルペンティ セドゥットーリ トゥールビヨン」
手巻き(Cal.BVL150)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KRG(縦34mm、厚さ8.9mm)。30m防水。850万円(税別)。
ブルガリの象徴であるセルペンティ。蛇の頭の形をした細長いケースに収まった、まったく新しいトゥールビヨンムーブメントは、それ自体がかなりの偉業である。しかし、新しいトゥールビヨンにも魔法のトリックがある。まるでブリッジを持たないフライングトゥールビヨンのように見せるサファイアクリスタル製のブリッジがその秘密だ。
4位
シャネル「J12 X-RAY」
手巻き(Cal.3.1)。21石。パワーリザーブ約55時間。サファイア(直径38mm)。30m防水。世界限定12本。6810万円(税別)。
シャネルはJ12の誕生20周年を祝して、ゴージャスにしてささやかな“奇跡”を発表した。サファイア(合成コランダム)製のケースとブレスレットをリンクさせた新作だ。この“奇跡”のために完全に作り直されたムーブメントは、ベースプレートを含む、多くのサファイア製のコンポーネントによって透き通ったシンプルさをたたえながらも際立っている。
5位
ジャケ・ドロー「ラブィング・バタフライ・オートマトン」
自動巻き(Cal.Jaquet Deoz 2653 AT1)。57石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。18KRG(
直径43mm、厚さ16.63mm)。3気圧防水。世界限定28本。
贅沢に輝きを放ち、美しくも心地よく、そして魅力的で想像力豊かなメカニズムを誇る。2017年に発表された「ラブィング・バタフライ・オートマトン」のこの新バージョンをおいてほかに、時計製造の高い芸術性を祝うためのより良い方法があるだろうか?