2015年から進められてきたパテック フィリップの本社工房拡張計画。ジュネーブ州プラン・レ・ワットにおける新たな拠点がついに落成し、今年の春から本格稼働が始まった。新工房の完成を祝すスティールケースのカラトラバが、今年の新作第1弾としてお披露目された。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Text by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2020年9月号初出]
カラトラバ Ref.6007A
ジュネーブ市郊外のプラン・レ・ワットは、現在でこそ各時計ブランドのHQと本社工房がひしめきあう一大工業地域となっているが、かつては農業用地であったここに初めて巨大な工業施設を建設したのがパテック フィリップであった。1996年のことである。当初の建設目的は、ジュネーブ各地に点在していた生産設備を一カ所に統合させることであったが、生産規模を拡大しつつ品質を保つためにはやはり手狭になったようで、2003年には再び外装関係(ケース、ブレスレット、ジェムセッティング)に関する工房を、近隣のペルリーに移している。同時にプラン・レ・ワットの施設拡大も準備されてきた。09年に用地買収、15年に着工された新工房「PP6」が20年に落成。先行して昨年7月から開始された設備移転の作業も今年の2月には完了し、4月から本格稼働が始まった。同社が発表した今年の新作第1弾は、この落成を祝うものだ。
今年4月から本格稼働が始まった新工房の落成記念モデル。モダンなデザインの6000系カラトラバをベースに、鮮烈なブルーダイアルを搭載。ストラップは織物調の型押しカーフ。自動巻き(Cal.324S C)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径40mm、厚さ9.07mm)。世界限定1000本。309万円。
今回、新工房の落成記念として選ばれたモチーフはカラトラバ。6007Aというリファレンスは、1991年に登場した5000系のコンセプトを受け継ぐ直接的な後継機種だ。適度な膨らみを持たせた幅広のベゼルに加え、今回はスティールケースを採用したことでよりモダンな印象を強めている。ダイアル中央部に設けられた三角マーカー付きレイルウェイトラック(シュマン・ド・フェールと呼ぶ)や、〝カーボン〞スタイルのエンボスパターンも斬新だ。
搭載ムーブメントは熟成改良を重ねてきたキャリバー324S C。これはすでに後継機種の26-330系が発表されており、既存のノーチラスなどでも、昨年の生産分あたりから置き換えが順次進んでいる。そうした意味でも、324S C搭載のカラトラバは、これが最終モデルとなるだろう。