今なお根強いファンのいる機械式アラーム時計。その代名詞的存在がメモボックスだ。名機Cal.956の採用で実用性を増した本作は、2020年にさらに魅力を増した。重要なのは、裏蓋からムーブメントが見えるようになったこと、ではない。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas), Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年9月号初出]
マスター・コントロール・メモボックス
ゴングをムーブメントの外周に移した新しいCal.956を搭載。前作に比べて、ケースは1.61mmも薄くなった。価格はギリギリ許容範囲か。自動巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径40mm、厚さ12.39mm)。5気圧防水。168万円。
2020年の意外な伏兵が、新しい「マスター・コントロール」である。直径は大きくなったものの、ムーブメントが改良版の899系に進化したほか、窓枠などのディテールも詰められた。その中でベストを挙げるなら、新たに追加された「メモボックス」である。
このモデルが搭載するのは、新しいキャリバー956。そもそもの956は、短いパワーリザーブを除いて、現行最良のアラームムーブメントだった。ジャガー・ルクルトは、基本設計を1960年代にさかのぼるアラームに、耐衝撃性のあるフリースプラングテンプを載せ、日付の早送りを追加し、巻き上げ効率を改善することで、別物へと進化させた。またテンプ受けにヒゲゼンマイの変形防止ガードを加えたことで、スポーツウォッチへの搭載も可能だ。
マスター・コントロール・メモボックス・タイマー
カウントダウンタイマーを追加した限定版。JLのロゴが示すのがタイマーだ。もちろん通常のアラームも使用可能である。自動巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径40mm、厚さ12.39mm)。5気圧防水。世界限定250本。124万8000円。
2020年版の956は、シースルーバックにするため、ケースの裏蓋に付いていたゴングを、ムーブメントの外周に移したものである。結果、ケースは薄くなった。またゴングが大きくなったため、音質もいっそう改善された印象を受ける。感心したのはゴングの形状だ。リピーターのそれと違って完全にクローズしており、時計を振った際にゴングがケースに当たりにくい。
限定版の「メモボックス・タイマー」は、メモボックスにカウントダウンアラームを加えたもの。今までの時間でセットするアラームに加えて、10時間後にアラームを鳴らす、という設定が可能になった。
筆者の私見を言うと、ジャガー・ルクルトのメモボックスは、今なお実用的なアラームウォッチの最高峰である。パワーリザーブの短さは気になるが、操作が簡単で、メカニズムは熟成されており、音量音質ともに優秀だ。それに、スマートウォッチと違って、電池切れの心配もないのである。
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