ロンジン、冒険の歴史が生んだ クラシカルとモダンの融合

2020.10.04

2020年に新コレクションとして鳴り物入りで発表されたのが「ロンジン スピリット」である。同コレクションは、ロンジンが長年の経験で培ってきた、押さえるポイントはしっかり押さえるという老舗らしい時計づくりとムーブメントの開発にいち早く参入した歴史が物語るブランドとしての柔軟さが組み合わさることで新たな個性の創出に成功した。

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
細田雄人(本誌):文 Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年11月号初出]

ロンジン スピリット

 レーダーやGPSがまだ存在していなかった時代、飛行や航海中に自分の居場所を割り出すには正確な時間を知ることが必要不可欠だった。そして、正確な時間を知るためには計時の精度が高く、かつ操縦中に扱いやすい、そして夜間での視認性に優れた計器が求められた。「ロンジン スピリット」はそんな時代にロンジンの時計、もしくは計器を使用し活躍した冒険家たちの「パイオニア精神」を落とし込んだコレクションだ。

同コレクションの“パイオニア精神”を象徴するのが、実業家にして冒険家のハワード・ヒューズだ。ヒューズは星座の位置を利用して現在地を割り出すロンジン製シデログラフを用いて、1937年にロサンゼルス- ニューヨーク間を当時最速の7時間28分で飛行したほか、翌38年には3日と19時間14分で世界1周飛行(こちらも当時世界最速記録)を成功させている。

 そのため、ロンジン スピリットでは高い視認性を得るために夜光塗料がたっぷり盛られたアラビア数字インデックスや、グローブを着けたままでの操作を可能にする大ぶりなリュウズ、そしてクロノメーター認定の高精度ムーブメントなど、基本的には古典的なパイロットウォッチを踏襲した構成が目立つ。しかしその一方で、ケースの作りはびっくりするほどモダンである。というのも、ミドルケースやラグにはサテン仕上げが主に用いられているが、その面を取るかのようにエッジにはポリッシュ仕上げが施されているのだ。異なる仕上げを与えることで立体感を得たケースは近年のトレンドを取り入れたものであり、これまでのパイロットウォッチの焼き直しでないことの証拠でもある。また、ベゼルも大きく面取りされた上でトップをサテン、斜面とサイドをポリッシュと2種類の仕上げを使い分けることで、本来ツールであるはずのパイロットウォッチとは無縁だった高級感を巧みに付与している。

ロンジン スピリット

ロンジン スピリット
モダンなケースに古典的なパイロットウォッチの要素を与えた新作。文字盤上の5つ星はかつてロンジンが最高品質のムーブメントであることを明示するのに使用していたマーク。自動巻き(Cal.L888.4)。2万5200振動/時。パワーリザーブ約64時間。SS(直径40mm)。10気圧防水。24万8000円。
L688.4

L688.4
ロンジン スピリットのクロノグラフモデルに搭載されるムーブメント。ETA7753ベースのETA A08.L01をロンジン専用にアップグレードしたCal.L688.4。クロノグラフ制御がカムからコラムホイールに、ヒゲゼンマイがシリコン製に変更されている。自動巻き。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。

 先人の〝スピリット〞を継承すべく、時計にナビゲーターとして求められていた要素は残し、ケースをモダンにすることで既存のパイロットウォッチとは全く異なる個性を得ることに成功したロンジンスピリット。クラシカルとモダンを共存させるバランスの絶妙さに、老舗としての強みを垣間見ることができる。

ロンジン スピリットは3針とクロノグラフモデルにそれぞれ黒、シルバー、青の3色の文字盤がラインナップされ、かつカラーによって文字盤表面の仕上げが異なる。写真の白文字盤では梨地で、黒がラッカー、青はサテン仕上げが施される。自動巻き(Cal.L688.4)。SS( 直径42mm)。10気圧防水。36万8000円。


Contact info: ロンジン ☎03-6254-7350

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