タグ・ホイヤーのヘリテージ ディレクターが語る、ふたつの160周年記念モデル/カトリーヌ・エベルレ-デュヴォー

FEATUREWatchTime
2020.10.06

タグ・ホイヤーは2020年に創業160周年を迎え、この年をレースにインスパイアされた有名なモデル、カレラのいくつかの新作で祝ってきた。例えばヘリテージピースをモチーフにしたふたつのリミテッドエディションなどがそれに該当する。ひとつは1964年製のシルバー文字盤を持つカレラのリバイバル、もうひとつはヴィンテージクロノグラフ、モントリオールの特徴をカレラに取り入れてリデザインしたモデルだ。今回はこれらふたつのモデルの仕掛け人でもあるタグ・ホイヤーのヘリテージ ディレクター、カトリーヌ・エベルレ-デュヴォーとカレラ年ともいえる1年について話す機会を得た。

カトリーヌ・エベルレ-デュヴォー
ヘリテージ・ディレクター。1973年11月15日、フランス生まれ。高級ハンドメイドのフットウェア業界を経て、2014年にタグ・ホイヤーに入社。
Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
2020年10月6日掲載記事

Watch Time(以下WT):「タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディション」のインスピレーション源となった「モントリオール」の名前の由来と、なぜこのモデルがカルト人気を獲得するに至ったのかについて話して頂けますか?

カトリーヌ・エベルレ-デュヴォー(以下CE):もともと発表されたのは1972年、ジャック・ホイヤーが関わっていた時期です。一般的にはF1のカナダグランプリにその名が由来すると思われているのですが、モントリオールでのF1レース開催が79年にならないと成立しなかったことを考えるとそうではありません。

 モントリオールという都市名は67年の世界博覧会と冬季オリンピック大会で既に世界的に有名でした。実際のところ、「モントリオール」はシルバーストーンやカレラ、モナコなどと同じようにモーターレーシングのクロノグラフとして考えられていたのではありませんでした。モントリオールはタキメーターとパルスメーターを備えたクロノグラフであり、非常に多目的なタイムピースであると同時にさまざまな人が使えるツールウォッチでもあるのです。

 モントリオールの文字盤の意匠を、今回のカレラのリミテッドエディションには取り入れているのですが、その理由は独特な色使いによるものです。それぞれのカラーが特定の目的に使われており、オリジナルモデルではブルーはパルスメーター、レッドがタキメータースケールを示すカラーとなっています。また、これからがブラックのインダイアルを備えたホワイトの文字盤上に配されていて、時計に高い視認性を与えています。そしてお分かりのとおり、その視認性こそがジャック・ホイヤーにとって、最も重要な指針でもあったのです。

タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディション

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディション」
カレラのケースに、モントリオールのカラーリングを落とし込んだモデル。そのためロゴの表記は「MONTREAL」ではなく、「CARRERA」。自動巻き(Cal.ホイヤー02)。33 石。2 万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径39mm)。100m防水。世界限定1000本。73万円(税別)。

WT:モントリオールを単純にリバイバルさせるのではなく、カレラと組み合わせるという考えの背景にあったものはなんでしょうか?

CE:モントリオールの文字盤のカラーと、人間工学にのっとって作られたラグや、プッシャーとリュウズのバランスの良さを兼ね備えたカレラのケースと組み合わせが非常に気に入ったからです。確かにタグ・ホイヤーにとってこのふたつのコレクションの融合は全く新しいコンセプトでした。モントリオールのケースは現在ではちょっと大きすぎますが、文字盤の魅力的なカラーをカレラのケースと組み合わせることで、非常に現代的な時計となっていったのです。

タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディション

タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオール リミテッドエディションに搭載されるムーブメント、ホイヤー02には特別にデザインされたローターが合わせられている。

WT:タグ・ホイヤーは160周年の今年、カレラを刷新しています。ここ数年発表されているモデルと、今回の新コレクションとの大きな違いはなんでしょうか?

CE:リミテッドエディションを含むカレラのコレクションに私たちが求めたのは、オリジナルモデルの現代的解釈です。自社製ムーブメントのホイヤー02が搭載されていますが、これにより3時・6時・9時位置のサブダイアルを有する文字盤上の構成が可能となりました。それぞれがフィーチャーするものは全く同じではありませんが、このレイアウトはデザインの精神を表しているのです。

 もちろんホイヤー02は自動巻きで、1963年製(初代モデル)のカレラのムーブメントは手巻きでした。デザインが刷新されたコアコレクション以前にあったヘリテージモデルに、サファイアクリスタル製ケースバックを持たせ、今回のふたつのタイムピース用に特別にデザインされたローターを鑑賞できるようにしています。両モデル共に、より長くなったホイヤー02の約80時間というパワーリザーブを備え、ごく初期のカレラにはなかったデイト表示も配されています。現代のクロノグラフは、より高い防水性能と共にデイト表示も求められていると私は思います。新しいケースには高められた防水性能と共にわずかに大きい直径44mmというサイズが適用されています。

カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

タグ・ホイヤー「カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ」
スポーティなカレラの新世代は、初期のモデルに見られたトライコンパックスを実現している。自動巻き(Cal.ホイヤー02)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径44mm)。100m防水。

WT:ここ数年、特にヴィンテージモデルにインスパイアされた外観を持つタイムピースに、ホイヤーの歴史的なロゴが採用されるのを目にしてきました。現代のタグ・ホイヤーのロゴ、またはレトロ調のロゴのどちらを採用するかについては、どのように決定がなされるのでしょうか?

CE:記念すべき「トリビュート」ウォッチは真の意味で本物である必要があり、タグ・ホイヤーの現在のロゴをこのような周年記念モデルにあしらうことに、抵抗がある人も多く、時計の持つ精神を尊重していないことになると感じていました。同時に私たちは(ホイヤーではなく)タグ・ホイヤーであり、現代の時計の「アヴァンギャルドな技術(Technique d’Avant Garde)」を尊重しています。その両方が私たちの歴史の一部であり、両輪となって世界に発信するものをより豊かにしてくれているのです。

カレラ キャリバー ホイヤー02 スポーツクロノグラフ

新しいグリーン文字盤のカレラには、スティール製ベゼルが採用されているが、その他のモデルにはセラミックス製ベゼルが用いられている。

WT:今回の周年記念モデルのオリジナルを世に送り出したジャック・ホイヤー自身も、現在はセミリタイアの名誉会長となっていますが、今年発表された160周年記念モデルに彼からの意見などはあったのでしょうか?

CE:ジャックは現在も元気で、今回のコレクションのデザイン見直しに、ごく初期の段階から、特にリミテッドエディションについては関わっていました。最近直接、私たちのしてきたことが彼自身の持っていたガイドラインとカレラに対する当初の考え方に合致するものかどうかと尋ねる機会があったのですが、結果に非常に満足しているとのことでした。彼がデザインしたカレラはブランドの柱であり、拠り所です。今回のふたつの周年記念モデルとカレラの新作の数々は、確実に会社を前進させる戦略の一部となっていくでしょう。

カトリーヌ・エベルレ-デュヴォー


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タグ・ホイヤー 創業160周年を祝う 自社キャリバー搭載のカレラ復刻版


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