伝説のG-SHOCK「AW-500」シリーズ初のフルメタルモデル「AWM-500」登場

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」と新たなジュネーブ時計フェアを主催するはずだった財団のトップが突如交代したり、メディア王ルパート・マードック・ファミリーの後継者が率いるルパ・システムズによる「HOURUNIVERSE(アワーユニバース)」(旧バーゼルワールド)新運営体制確立のための増資がスイスの政府機関から阻止されたりするなど、新型コロナウイルス危機に加えてそれ以外の問題でも、2021年の時計フェアをめぐる状況は混乱を続けている。果たして2021年の時計フェアはどうなるのか? これは時計業界関係者にとっては最も気になる出来事のひとつのはず。だが、残念ながら現時点では「すべてが未定」という状況だ。そこで今回は、筆者が幸運にも深く取材をする機会を得た新作時計の魅力をご紹介したい。

渋谷ヤスヒト:取材・文・写真 Text & Photographs by Yasuhito Shibuya
2020年10月10日掲載記事


伝説のアナログ&デジタルG-SHOCK

 カシオがこの秋冬から発売するG-SHOCKの新作。その中でもwebChronosの読者に筆者がぜひオススメしたい、たぶん時計好きにとって最も魅力的なモデルのひとつが、G-SHOCKの複刻フルメタルシリーズ第2弾となる「AWM-500」シリーズだ。

 オリジナルモデルの「AW-500」は1989年に発売されたG-SHOCK初のアナログ&デジタルモデルである。6時位置の上にデジタルディスプレイを備えているものの、腕時計らしいアナログ表示スタイルがメインで、ここからG-SHOCKが視野に入った、好きになった人も少なくないはず。

左が1989年発売のオリジナルモデル。右が新しい復刻版。オリジナルの価格は当時1万1000円。右の最新の復刻モデルは1万3000円(いずれも税別)。

 アナログの針を備えながら、もちろんG-SHOCKの「絶対に達成しなければならない基本スペック」である「トリプル10」つまり「10mの高さから落としても壊れない耐衝撃性」「10年間使える耐久性」そして「10気圧防水」という3条件を満たした、G-SHOCKの歴史の中でも名作中の名作として、これまで何度も複刻されてきた(注:現在の防水性は20気圧が標準スペック)。

 今回はフルメタルモデルだけでなく、樹脂ケースのモデルも進化したカタチで複刻され、さらに現代的なカラーバリエーションも用意され、定番モデルとして継続販売される。樹脂モデルもオリジナルを超えた魅力を備えているので、ぜひそちらも注目してほしい。ただ、高級時計を愛するwebChronosの読者にはぜひ、このコラムにおいてメインで紹介するフルメタルモデルをオススメしたい。

 今回、樹脂モデルとフルメタルモデルの両方の開発・製品化を担当したのは、カシオ計算機開発本部開発推進統轄部プロデュース部第一企画室のリーダーである泉潤一氏、デザイン開発統轄部Gデザイン室の網倉遼氏、機構開発統轄部第一機構開発部の鈴木純一郎氏の3名で構成される、G-SHOCKの新製品開発チームの中でも最も若いチームである。

G-SHOCKのアナログ&デジタルモデルを復刻した樹脂モデルとフルメタルモデルの新作を開発・製品化したカシオ計算機開発本部の3人。左から、開発推進統轄部プロデュース部第一企画室リーダーの泉潤一(いずみ・じゅんいち)氏、デザイン開発統轄部Gデザイン室の網倉遼(あみくら・りょう)氏、機構開発統轄部第一機構開発部の鈴木純一郎(すずき・じゅんいちろう)氏。最年長の泉氏でも35歳という若さだ。

 開発の出発点になったのは、社内に残っていた紙に描かれた1988年の図面だという。3人は樹脂の復刻版の開発を手掛けるにあたり、このモデルはこれまで何度も複刻されてきた人気モデルだけに当初、かなりのプレッシャーを感じたという。

 ところで今回の復刻版では、樹脂の復刻版にもフルメタル版にも文字盤のデザインに共通の、ひと目で分かる大きな改良が加えられている。それはオリジナルでは、デジタルディスプレイの位置の関係で文字盤中央から上にオフセットされていた時針と分針が、新作では文字盤の中央にバランス良く配置されているのだ。

 この改良の結果、見た目の違和感が消えたばかりでなく、時刻もずっと読み取りやすくなった。

新作ではこのモノトーン版も追加され、電池寿命も約3年から約7年へと大幅に向上した。

 さらにフルメタル版には、外観からは見えない、開発者にしか分からない数多くの苦労や工夫が込められている。

 例えばケースの直径は、樹脂モデルの復刻版ではオリジナルとほぼ同じ0.1mmアップの47.7mmだが、フルメタル版ではオリジナルの直径47.6mmより3.1mm小さい44.5mmになっている。この小型化は、初代デジタルモデルのフルメタル化で得た「フルメタル化するとサイズアップした印象になる」という経験を活かして行われたものだ。

 ただ、どのくらい小さくするのが適切なのか、それは実際に作ってみないと分からない。そのため、サイズやベゼルなど、さまざまな部分のサイズを変えたケースとブレスレットを数多く試作し、検討を重ねたという。そして試行錯誤の結果、製品のサイズが決まった。

ケースとブレスレットのさまざまなパーツのサイズを変えたテストサンプル。これらはごく一部だという。

 もうひとつ、外観からは分からない大きな苦労の一例が「見えない部分」の軽量化だ。メタルモデルでは本体の重量が重くなるほど、耐衝撃性の確保が困難になる。耐衝撃性は、初代デジタルモデルのフルメタル版「GMW-B5000」ではSS製のベゼルとケースの間に衝撃吸収材のファインレジンを挟む「フルメタル耐衝撃構造」で実現しているが、開発当初は重さの問題で、耐衝撃性に問題が生じた。そこで、ケースやベゼルの「見えない部分」を徹底的に削ぎ落として軽量化を図ることで、ようやく耐衝撃性を確保することができたという。

 また、フルメタルモデルでは、製品価格が樹脂モデルよりかなり高価になることもあり、樹脂モデルより高機能化することが至上命題だ。オリジナルはただの電池交換式のクォーツモデルだったが、今回のフルメタルモデルでは、この方針に基づいて、電池交換が不要なソーラー駆動。しかも世界6局の標準電波を受信して秒単位まで正確に自動修正するソーラー電波時計へと進化を遂げている。

 ただ、この進化も簡単ではなかった。メタルケースにそのまま既存の電波時計モジュールを入れると、標準電波を受信するアンテナの感度が落ちてしまう。

 そこでアンテナのサイズをアップすると共に、アンテナをメタルケースの「壁」から離し、あえて隙間を作ることで必要な感度を確保している。

 また、このフルメタルモデルのフラッグシップとも言える、文字盤までメタル蒸着技術でオールシルバーに仕上げたバージョンも、遮光分散型というソーラーセルの採用で初めて実現できたものである。つまり、中身のモジュールまで改良進化しているのだ。

文字盤や針の作りに妥協せず、追求する姿勢も素晴らしい。

 そして、時計愛好家にぜひお伝えしたい、自分の眼で愛でてほしいのが、ベゼル、ケース、ブレスレットの価格を超えた妥協なき丁寧な作り込みである。特に素晴らしいのは、ベゼル、ケース、ブレスレットの一連の仕上げに見られるミラー仕上げとサテン仕上げの巧みな使い分けだ。特に、縦目や円周方向など、複数方向に使い分けたサテン仕上げは圧巻である。

見よ! この作り込み。ブレスレットのコマの形状や仕上げにも注目!

 数十万円クラスの高級時計においても作り込みの進化と仕上げの向上は著しいが、6〜7万円の価格でこのクォリティには、ただただ感嘆と感動しかない。

 G-SHOCKは、コンセプトもスペックも、いわゆる高級時計とは別枠の存在で、価格の違いもあって、MR-GやMT-Gなどの高額モデル以外は時計愛好家の話題になることは少ない。

 だが、誕生35周年を越え、40周年に向かってG-SHOCKは異次元の進化を続けている。このモデルや2年ぶりに出た新しいMT-Gも含め、ぜひG-SHOCKに目を向けて楽しんでみてはいかがだろう。

 こんな素晴らしい腕時計を楽しまないのはもったいない。

「AWM-500」シリーズ。タフソーラー。パワーリザーブ約7カ月。SS(縦51.8×横44.5mm、厚さ14.2mm)。20気圧防水。左右のシルバー仕様モデルが6万円(税別)。中央のゴールド仕様モデルが6万8000円(税別)。2020年11月発売予定。


Contact info: カシオ計算機お客様相談室 Tel.03-5334-4869


渋谷ヤスヒト

渋谷ヤスヒト/しぶややすひと

モノ情報誌の編集者として1995年からジュネーブ&バーゼル取材を開始。編集者兼ライターとして駆け回り、その回数は気が付くと25回。スマートウォッチはもちろん、時計以外のあらゆるモノやコトも企画・取材・編集・執筆中。


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