オーデマ ピゲが創り上げたルール破りの複雑時計「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ」

2020.10.13

創業以来、他にはない時計を作り続けてきたオーデマ ピゲ。1972年誕生の「ロイヤル オーク」や、2019年に発表された「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」はその好例だ。しかし、同社がいっそう得意とするのは複雑時計。単なるコンプリケーションではなく、プラスアルファを加えるその手腕は、近年、いっそうの冴えを見せるようになった。その集大成が「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲフライング トゥールビヨン クロノグラフ」だ。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年11月号初出]

オーデマ ピゲが創り上げた ルール破りの複雑時計

 オーデマ ピゲという会社は、極めてユニークな歴史を持っている。創業者はジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲ。このふたりは、ありきたりの時計ではなく、複雑時計を作ろうと考えて、この会社を興した。事実、創業した1875年から1940年代の終わりまで、オーデマ ピゲの作る時計はすべてユニークピースで、しかもその大半が複雑時計であった。今でこそ、「ロイヤル オーク」を擁する大メゾンとなったオーデマ ピゲ。しかし、他にはないものを作るという社風は創業以来変わっていない。30年代には腕時計にスケルトンを採用し、70年代後半にはパーペチュアルカレンダーの量産を行い、80年代には自動巻きトゥールビヨンと腕時計初のソヌリを完成させる。ありきたりの表現になるが、オーデマ ピゲの歴史とは、他にはないことを続けてきた歴史、と言えるかもしれない。

 2019年に発表された「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」(以下CODE 11.59)とは、そんな同社にしか作り得ない時計と言える。真正面から見るとオーセンティックなラウンド時計。しかし、立体的な側面が、極めてユニークな表情を時計にもたらす。1972年のロイヤル オークと2019年のCODE 11.59に共通するのは立体感。前者は薄型時計に、後者はベーシックなラウンド時計に立体感を盛り込む試みだった。いずれも、時計業界の常識ではありえないと考えられてきたことだ。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ

 20年、オーデマ ピゲは、そのCODE 11.59に新たなコンプリケーションを加えた。「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ」である。筆者はてっきり、既存のムーブメントを転用したか、新作のキャリバー4401をトゥールビヨン化したものだと思っていた。3時位置と9時位置から少し上に置かれたふたつのインダイアルは、4401ベースと誤解させるに十分だ。しかし、さすがはオーデマ ピゲ、ありきたりの手法は採らなかったのである。フライバックと自動巻きを備えたフライング トゥールビヨン クロノグラフは、まったく新しい新型ムーブメント。同社が目指したのは、徹底してシンメトリーなデザインだった。

 ムーブメントを駆動する香箱が12時位置にあり、センターに2番車、6時位置にトゥールビヨンのキャリッジがあるのは、既存のトゥールビヨンに同じだ。その上にクロノグラフ機構を重ねるのも、オーデマピゲのお家芸。しかし、ふたつの積算計をリセットするリセットハンマーは、左右に分かれた羽のように配置され、中央の丸い部分で連結されている。では、クロノグラフを操作するコラムホイールはどこに置かれたのかというと、なんと6時位置のトゥールビヨンキャリッジ下である。一般的に、トゥールビヨンのキャリッジは厚さを減らすのが良いとされている。厚みが増すと、姿勢差誤差を悪化させるためだ。しかし、オーデマ ピゲは見た目のために、あえてそのルールを破ってみせたのである。それも完璧に。

6時位置のコラムホイールが可能にしたシンメトリーな配置

 とはいえ、設計は決してトリッキーではない。コラムホイールを6時位置に置いた結果、12時方向には大きな余白が出来た。そこにオーデマ ピゲは、左右に分かれたリセットハンマーを審美的に配置したのである。また、プッシュボタンとコラムホイールをつなぐレバーやキャリングアームは無理なく配置されており、決して奇をてらったレイアウトではないことが分かる。設計の無理のなさは、クロノグラフのボタンを押せば明らかだ。スタートの感触はあくまで軽快で(これはオーデマ ピゲのクロノグラフの美点である)、フライバックも適度な節度感がありながらも、ごく軽く動く。 創業以来、他にはないものを追い求めてきたオーデマ ピゲ。現時点におけるその集大成が「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲフライング トゥールビヨン クロノグラフ」と言えるだろう。審美性と機能性をこれほど高度に両立させた同社の手腕には、正直脱帽だ。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ

オーデマ ピゲ / CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ フライング トゥールビヨン クロノグラフ
新規設計ムーブメントを搭載したトゥールビヨンクロノグラフ。審美性のため、リセットハンマーをシンメトリーに配置。コラムホイールを6時位置に置くという類を見ない設計が際立っている。自動巻き(Cal.2952)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWG×18KPG(直径41mm、厚さ13.75mm)。30m防水。世界限定50本(日本先行発売)。2680万円。他にブルーダイアルの18KWGモデルもあり。世界限定50本。時価。

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン TEL:03-6830-0000


オーデマ ピゲCODE 11.59の特徴とは。コンセプトや主なモデルを紹介

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アーノルド・シュワルツェネッガーが身に着けるオーデマ ピゲの腕時計

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