プーケット島に誕生した「アマンプリ」から始まり、ブータン、ギリシャ、イタリアなど世界各国に展開するリゾート「アマン」。日本では、初の都市型ホテルである「アマン東京」に次ぎ、2016年にはアマン初の温泉を有する「アマネム」が開業した。伊勢志摩国立公園内の英虞湾沿岸に位置し、約25万㎡の敷地に24室のスイートと5棟のヴィラ、パビリオン、スパが点在する。「アマネム」は、サンスクリット語で“平和なる”を意味するアマンと、日本語の“歓び”を意味する合歓(ネム)から。
松川真介:写真 Photographs by Shinsuke Matsukawa
心身を平和なる歓びへ導く御食国の温泉ヴィラ
世界各地のアマンを巡るリピーターは、アマンジャンキーと呼ばれている。そんな彼らから言わせると「アマネム」はベトナムのヌイチュア国立公園内にビン・ヒ湾を一望する海岸線に佇む「アマノイ」を彷彿させるのだとか。実際に訪れると、今は海外に行けないから……などというネガティブな思考ではなく、日本に訪れるべき場所があるのだと意を強くすることに。
日本旅館に息づく伝統や意匠を取り入れたデザインは、建築家ケリー・ヒル率いるチームによるもの。瓦屋根を用いた建物の比率や約5mの高い天井は伊勢神宮に由来し、日本の奥ゆかしさを形にしたような控えめなデザインで、窓の外に広がる自然を借景に計算されている。バスルームは、日本の伝統的なお風呂の様式を踏襲し、温泉マークの蛇口をひねると、豊かなナトリウム塩化物泉のお湯が花崗岩の湯船を満たしていく。
(右)数種の茸や南瓜、銀杏など旬の素材をあわせた伊勢海老のテルミドール。ディナーメニューからの一例。
今年4月に新たに誕生した「ツキヴィラ」の敷地内には独立した専用のOnsen HANAREがあり、東屋の庭には桜と紅葉を配し、季節を感じながら温泉を独り占めできる。他のヴィラやスイートからも離れた場所にあるため、より静寂世や自然を感じ、存分に温泉三昧を。
志摩は、古代より朝廷や神宮に豊富な海産物などを献上してきた御みけつくに食国のひとつ。その食文化を汲み取り、昼食や夕食では、伊勢海老、鮑、松阪牛といった豪華食材を惜しげもなく用いた御馳走でもてなす。一転、朝食は、炊き立ての熊野古道米、近海で獲れたアジやサワラなどの一夜干し、寄せ豆腐など数々の手を掛けた料理が並ぶ。「本当の贅沢とは何ぞや?」とは料理長の稲葉正信氏の言葉。もしも伊勢神宮で食事をするならばという想いを馳せるような構成になっている。アマネムジャーニーでは、伊勢神宮にお供えする鰹節や昆布、塩などの生産者を訪れるプランも用意するので、御食国を巡ってみるのもいいだろう。
その土地ごとの風土を反映する「アマン」には、創業以来「home away fromhome(家から離れたもうひとつの我が家)」という想いが根底にあるという。そう聞き腑に落ちた。滞在中、家族的な温かさがありつつ、いかにもではなくさりげないホスピタリティが何とも心地よかった。周囲に溶け込む建築デザイン同様、奥ゆかしさによって志摩の地での時間が色濃く浮き彫りとなる。
AMANEMU(アマネム)
三重県志摩市浜島町迫子2165
Tel.0599-52-5000
チェックイン15:00/チェックアウト12:00
全29室
2名1室利用時の朝食付き料金11万円~
(税・サービス料15%別)
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