2017年に発表されたTRUMEは、セイコーエプソン独自の技術を“使える”パッケージングに落とし込んだ野心作である。2020年は、「ランド」を意味する「L Collection」の「Break Line」に、ソーラーセルを使用せずに自己発電を可能にしたベーシックな3針モデルを追加した。シンプルな見た目にもかかわらず、既存モデル同様、エプソンの高度な技術が盛り込まれている。
回転錘(ローター)の動きで発電するスイングジェネレータを搭載し、蓄電されたエネルギーでクォーツ回路とモーターを制御。加えて、時針のみの単独修正が可能なGMT機能を載せたアウトドアウォッチ。充実した内容を考えれば、価格は極めて戦略的だ。クォーツ。パワーリザーブ最長約180日間。T(i 縦52.9×横45.4mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。ナイロン(GAIFU)ストラップ。8万円。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
2020年12月発売1月号掲載
全方位にフィールドを切り拓く
SWING GENERATORー自己発電ー
時計という枠組みを、ユニークなカタチで押し広げてきたTRUME。新しいL CollectionのBreak Lineは、そのベクトルを、いっそう実用性に向けたモデルである。搭載するのは、ローターを巻き上げて発電・蓄電するスイングジェネレータ。腕を振るだけで発電し、蓄電されるため、普通のクォーツ時計のようにバッテリー切れを心配する必要もないし、ソーラー時計のように光に当てる必要もない。しかもフル巻き上げで最大180日間駆動する上、静止しても時計を振ればすぐに起動する。また、ローターの回転をダイレクトに発電機に伝達するため、巻き上げ効率は非常に高い。
(右)裏蓋からのぞくのが、ローターの回転で発電するスイングジェネレータ。極めて簡潔な構造を持つため、巻き上げ効率は非常に高い。
かつてエプソンはこのローター発電のクォーツムーブメントをOEMで供給していた。この独自の技術をベースとしてさらに進化させ、発電した電気を蓄電する二次電池の耐久性を大幅に高めることで、エプソンはまったく新しいスイングジェネレータとしてTRUMEの新作に搭載したのだ。
GMT機能も凝っている。クォーツ時計のGMT機能は、その大半が時針の単独修正ができない。対して、BreakLineのGMT機能は、高額な機械式時計に同じく、時針だけの修正が可能である。リュウズを引いて回すと、時針を1時間ごとに早送り、逆戻しできる。海外渡航者には文句なしにお勧めの機能だ。
(右)細やかな気遣いを感じさせるのが頑強なストラップとバックル。タフに使っても傷まないよう、バックルは大ぶり。ストラップには高強度な東レ製「GAIFU」を使用し、コバには革材を巻き込んでほつれないように補強している。バックルにもモチーフである「おおらかなタフさ」を象徴する鈍角エッジが表現されている。
また、ローターで発電するこのメカニズムは、もうひとつのメリットをこのモデルにもたらした。ソーラー時計と違って金属文字盤を与えられるため、凝った仕上げが可能になったのである。現行クォーツ時計らしからぬ精緻な文字盤は、スイングジェネレータならではのメリットだ。併せて、外装にもTRUMEらしい技術が盛り込まれた。例えばセラミックス製のベゼル。これは夜光塗料のルミナスライトを流し込んだあと、切削して塗料を残したもの。また、ケースも軽くて耐食性に優れるチタン製だ。加えて、傷が付きにくいよう、表面にプロテクトコーティングを施す芸の細かさだ。
非常に野心的な構成を持つL CollectionのBreak Line。しかし本当に驚くべきは、その価格である。チタン製ブレスレットモデルが9万円、ナイロンまたは皮革製のストラップモデルが8万円。タフなアウトドアウォッチを探している人はもちろん、上質な実用時計が欲しい人にも、このモデルはうってつけだ。
TR-ME2004 / TR-ME2006:ホーウイーン社製クロムエクセルストラップ
TR-ME2010:高い耐久性を持つGAIFUを採用したストラップ。各8万円。
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