2020年秋冬の新作モデルとして発表されたカシオのG-SHOCK「MTG-B2000」。最新の技術を取り入れ、ケース、ブレスレット、モジュール、デザインのすべてが進化を遂げたこの新作を、開発者インタビューで解き明かす。
Text by Kaya Nabata (Chronos-Japan)
G-SHOCKの最先端をゆく「MTG-B2000」
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オンラインでの新作発表に踏み切ったカシオ。特設サイトの解説や開発者によるオンライン座談会など、新たな試みのなか発表されたのが、G-SHOCK「MT-G」コレクションの新作モデル「MTG-B2000」だ。
G-SHOCKの最高峰に位置付けられている「MR-G」に次ぐ、ハイエンドコレクションである「MT-G」。ステンレススティールと樹脂などの異素材を融合させる“メタルツイステッド”をコンセプトに掲げ、最新技術を盛り込んだ革新的な時計を生み出してきた。
タフソーラー。パワーリザーブ約5カ月。SS×カーボン強化樹脂(縦55.1×横51mm、厚さ15.9mm)。20気圧防水。12万5000円(税別)。
新作のMTG-B2000は、新開発の「デュアルコアガード構造」を搭載。G-SHOCKらしからぬ、直線的でメタリックなケースデザインを特徴とする。ブレスレットやモジュールにも手が加えられており、すべてにおいて従来のモデルから大きく進化を遂げている。
今回、開発本部 開発推進統括部 プロデュース部第一企画室のチーフ・プランナーである牛山和人氏、開発本部 デザイン開発統括部 Gデザイン室リーダーの松田孝雄氏のふたりに、MTG-B2000の進化の秘密について話を伺った。
ふたつの耐衝撃構造を組み合わせた「デュアルコアガード構造」
今作の最も大きな特色は、カーボンとメタルのふたつのコアガード構造を融合させた新しい耐衝撃構造「デュアルコアガード構造」を搭載していることだ。これによりデザインの大幅な刷新が可能となり、従来のMT-Gとは一線を画した時計に仕上がっている。
MTG-B2000開発のきっかけとなったのは、当時まだ開発中の「グラビティマスター GWR-B1000」で初めて採用された「カーボンコアガード構造」だったという。GWR-B1000ではメタルの裏蓋をなくし軽量化を図るため、ミドルケースと裏蓋を一体化したモノコック構造のケースを開発。素材には軽量かつ高強度なカーボンファイバー強化樹脂を使用した。このカーボンモノコックケースにモジュール(ムーブメント)を収めることで外部の衝撃から保護し、気密性を高めるというのがカーボンコアガード構造だ。
MT-Gの特色であるメタルパーツを使った耐衝撃構造に、このカーボンコアガード構造を取り入れられないか。新しい耐衝撃構造を生み出すべく、2018年にMTG-B2000の開発はスタートした。通常のモデルとは異なり、構造とデザインを融合させる先行開発期間を経てから、量産化に向けた開発に取り掛かったという。
これまでのMT-Gでは、G-SHOCKの基本ともいえる中空構造に基づいた耐衝撃構造を採用していた。初代MT-Gである「MTG-S1000」は、ステンレススティール製のベゼルと裏蓋を4本の柱で支え、その中に樹脂製のインナーケースを収める「コアガード構造」を取り入れた。続く「MTG-B1000」ではこの構造を進化させ、ベゼルと裏蓋を面状に一体化したラグで連結。箱型のフレームの中にインナーケースを収めた「新コアガード構造」を採用している。さらにB1000では、インナーケースの素材にカーボンファイバー強化樹脂を使用している。
対してMTG-B2000では、モジュールを収めたカーボンモノコックケースをステンレススティール製のミドルケースに嵌め込み、ベゼルをミドルケースにビス留めすることで全体を固定している。カーボンコアガード構造を取り入れることで、インナーケースをメタルパーツで上下から挟み込むという従来の構造から脱却したのだ。これが新しい「メタルコアガード構造」である。ミドルケースとベゼルは別パーツとなり、メタルの裏蓋の代わりにカーボンモノコックケースがそのまま露出することとなった。
この構造改革の結果、時計の正面と側面はメタルパーツで覆われることとなった。そのため一見ケースが重そうな印象を受けるが、時計本体の重量、サイズ、厚さは前作とほぼ同じ。全く違う構造を同じサイズに収めること、それでいてMT-Gコレクションの誇る「トリプルGレジスト」を実現することが、今作で一番難しかったポイントだという。トリプルGレジストとは、耐衝撃、耐振動、耐遠心力の3つを備えていること。振動に対しては従来通り、シリコンを原料とするアルファゲルを、モジュールを収めるカーボンモノコックケース内の衝撃吸収材に採用している。また遠心力に対しては、万が一針がずれてしまってもすぐに修正できるよう、針位置自動補正機能を搭載した。
耐衝撃性を確保するためには、ケースを軽くする必要がある。チタンを使えば簡単に軽量化することができるが、それではMR-Gと差別化できない。MR-Gはチタン、MT-Gはステンレススティールという素材の使い分けを守る必要があった。ステンレススティール製のミドルケースは薄いほど軽くなるが、薄くしすぎると衝撃が加わった際に歪んでしまう。衝撃に耐え、かつ重くなりすぎない絶妙な厚さを見つけ出すのに苦労したと牛山氏は語る。
メタル外装を引き立てるケースデザイン
新しいデュアルコアガード構造により、ケースデザインも大幅に手が加えられることとなった。最も大きな進化は、外装のメタル比率がアップしたことである。従来のモデルでは樹脂パーツがメタルパーツに挟まれ、樹脂製の大きなリュウズガードが見えていたケースサイドは、ステンレススティールのミドルケースによって完全にメタルパーツで覆われた。リュウズガードもステンレススティールに変更された結果、時計を着けた際に見える部分がほぼすべてメタルパーツとなったのだ。
メタルの質感を際立たせるため、ベゼルとミドルケースには直線的なデザインが施されている。特にベゼルはこれまでの丸いデザインとは大きく異なる、12角形のフォルムに刷新された。ミドルケースもベゼルに合わせて多角形に作られ、丸いフォルムを持つ従来のモデルからガラリと印象が変わっている。「実はこれまで通りの丸いベゼルとケース、というデザインも候補に上がっていたんです」と話すのは、Gデザイン室リーダーの松田氏。しかし、引き続き販売されることが決まっていた前作のMTG-B1000とあまりに似通ってしまい、差別化が図れないという理由から、このデザインは選ばれなかったそうだ。
さらにベゼルが独立したパーツとなったことで、ベゼル単体でのカラーリングが可能に。メタル感を失うことなく、表現の幅を広げている。これまでのMT-Gでは、ベゼルとビスの座面となるケース状の部分がつながっていたため、ベゼルだけに色を着けることはできなかったのだ。現在はボルドーIPベゼル、ブルーIPベゼル、ブラックIPベゼルの3種類だが、カラーが追加される可能性は高いとのこと。今後の展開に期待したいところだ。