昭和42(1967)年、島根県松江市にて創業した「桃仙閣」が、今秋、六本木に新たな一軒を開業。極上の美酒美食と“中華屋さん”と呼ぶに相応しい親しみが共存する。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
気仙沼の中華高橋水産から取り寄せる、厚みがあり、繊維がしっかりとした毛鹿鮫のフカヒレを好んで使用。1時間ほど蒸した後、丸1日流水にさらし、蒸して、煮ることでようやく完成する。豚足ともみじ(鶏足)で作る白湯スープの旨味をたっぷりと含んだ重厚な風味と特有の食感が印象的。写真は3~4名分で250g、1万3800円。ハーフサイズは125g、7800円。
食する慶福のため 普通を追求する
島根県松江市で、中国料理「桃仙閣」を創業した先代・林瑞富氏の次男として生まれた林亮治氏。中学生になると父親が厨房に立つ店で皿洗いを始め、高校生になると接客も手伝うようになった。「子供の頃から父に連れられ、東京、大阪、香港の中国料理店を巡り、豆豉(トウチ)やキヌガサダケといった、子供にとっては珍しい調味料や食材も身近な存在でした」と振り返る。そんな頃から、将来は中国料理の料理人になると迷いなく決めていた。自身が店を任されるようになると、ブライダルやカフェにも力を入れ、より一層人々の晴れの日にも褻の日にも寄り添う存在に。
1977年、島根県生まれ。高校卒業後、「筑紫樓恵比寿店」で3年間修業。西麻布と香川県高松市の「麻布長江」で計3年間研鑽を積むと、島根の「桃仙閣」に戻り、さまざまな改革を行う。2017年、南麻布に「茶禅華」を川田智也氏とオープン。2020年、「桃仙閣 東京」を開業。
「東京の中心で、普通に来店して普通に食べたいものをオーダーできる、そんな自分が好きな“中華屋さん”を開きました。ちょうどよくて、心地よく疲れない料理が味わえる、僕にとっての普通のお店です」。麻婆豆腐や水餃子、天津飯から、フカヒレや北京ダック、上海蟹まで、単品料理がズラリと品書きに並び、食べ手の好奇心を掻き立てる。「自分の友人に提案するように、会話しながらオーダーを聞きます」。数ある中でも自身が最も好きだという食材がフカヒレだ。見ているだけで心躍る姿だが、口に運べば舌にまとわりつくような口当たりで、存在感ある繊維がほどけていくにつれ、心が満ちていく。
「自分に正直な心持ちで、肩の力を抜いて仕事をすること」と語る林氏は、実に楽しそうに人や料理に向き合う。共に働く仲間も同様で、自然とゲストもその雰囲気に和まされる。「料理がきちんと美味しいことはもちろんですが、レストランとしてゲストが喜んでくれることに敏感でいたいですね。スタッフとは『普通のレベルを上げること』を常に意識しています」。ある程度の経験を積むと、普通であることの有難みや大切さを知るようになる。食の都である東京において、特別であることより普通であることの方が、食通たちの心を揺さぶるのは難しいが、与える温もりは遥かに大きい。林氏が言う“普通”とは、“珠玉”や“幸福”といった意味を含んでいる。
桃仙閣 東京
東京都港区六本木4-8-7 六本木嶋田ビルB1F Tel.050-3138-4343
日曜日を中心に不定休
18:00~L.O.25:00、土日祝17:00~L.O.25:00
アラカルト点心1個400円~、おまかせコース8000円、1月末までの上海ガニコース1万6000円(消費税・サービス料10%別
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