Apple Watchの出現以降、今や人々の生活において当たり前となりつつあるスマートウォッチ。各社が年々機能性を追求する中、VELDT(ヴェルト)ではまったく違う方向性を目指している。情報を小さな筐体に詰め込むのではなく、必要な情報のみを過不足なく示す。同社の最新作である「LUXTURE Model IG(ラクスチュア モデルIG)は、ありきたりなスマートウォッチとも、普通の時計とも異なった、次世代のウェアラブルデバイスだ。
Photographs and Videos by Masanori Yoshie
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
(2020年12月21日掲載)
時計としての完成度を高めた新型LUXTURE
2015年の「セレンピディティー」でスマートウォッチのジャンルに参入したヴェルト。他社との大きな違いは、必要な情報だけを表示することと、時計メーカーとの協業でスマートウォッチを手掛けてきたことだ。現在、ほとんどのスマートウォッチは、携帯電話メーカーによって作られている。機能は申し分ないとしても、時計として見た場合、完成度がいささか足りない。対して時計工場で製作されるヴェルトのスマートウォッチは、時計としてきちんと使えるものになっている。装身具としての完成度を高めた上で、スマートウォッチの機能を加える。こういったヴェルトのスタンスは、同社のスマートウォッチに、類を見ないユニークさを与えてきた。
そんなヴェルトの方向性をいっそう純化させたのが、19年発表のLUXTURE(ラクスチュア)だ。この新しいスマートウォッチには、その多機能ぶりを感じさせる要素はなにひとつ見当たらない。どこにも情報を表示するための液晶や針はないし、直径38mm、厚さ12.4mmのケースも、スマートウォッチらしからぬコンパクトさだ。加えて裏蓋側には、充電用のコネクターを取り付ける部分が見当たらない。他のスマートウォッチ同様、無線給電で充電されるバッテリーを動力源とするが、裏蓋をガラスで成型することによって、ありきたりのスマートウォッチとは一線を画したデザインとなったのである。
スマートウォッチでありながら、限りなく時計に近いデザインを実現する。野心的な試みに成功した理由は、他にはない表示方法を磨き上げたためだった。同社の独創的な技術である「ヴェルト・フレア」とは、あらゆる情報を、文字ではなく光と振動で伝えるというもの。その結果、ラクスチュアは消費電力の大きな液晶を持つ必要がなくなり、小さな電力で動くようになったのである。加えて、時計部分はあえて別の電池で動くクォーツが採用された。そのため普通の時計同様、リュウズで時間を合わせることができる。
ヴェルト・フレアの表示は、ヴェルトらしく極めてユニークだ。ほぼすべてのスマートウォッチは、情報を文字として表示するのに対して、ラクスチュアは、文字盤外周の見返しに設けられた小型のLEDのみが示す。天気予報を例に挙げると、LEDは晴れていればオレンジ、曇りならば白、雨ならば青という具合に光る。一見使いづらそうだが、慣れると直感的に情報が分かる。しかも、極めてスマートに、である。
時計としての仕上げもさらに向上した。ラクスチュアに新しく加わった「モデル IG」は、地球温暖化の影響を受ける氷山のイメージにインスピレーションを得たラグジュアリーモデルである。スマートウォッチとラグジュアリーの両立は難しいと言われているが、LED以外の情報表示要素を持たないラスクチャーは、外装の仕上げをいっそう高めることに成功した。
時計としての熟成を感じさせるのが、2層構造の文字盤だ。文字盤の外側にあしらわれたのは、サンバースト仕上げを施した金属製の部品。強い筋目を施したこの部品が、このモデルにスマートウォッチとは思えない見た目をもたらした。文字盤に表示機能を備える普通のスマートウォッチには、決して採用できないディテールだ。加えて薄いケースは、スマートウォッチとは思えないほど優れた装着感をもたらした。ヘッドとブレスレットのバランスも良好で、スマートウォッチを着けているという印象はまったくない。
ユニークな表示方法を磨き上げることで、いっそう時計らしい仕上がりと薄さを両立させたラクスチュア。これほど「時計」であったスマートウォッチはかつてないのではないか。