【インタビュー】ロジェ・デュブイのプロダクト・ストラテジー・ディレクター「グレゴリー・ブルタン」

2021.01.30

リシュモン グループ傘下になって以降、パブリックイメージを大きく変えたロジェ・デュブイ。しかし、ムーブメントに対する姿勢は相変わらず実直だ。今やスポークスパーソンとなった設計者のグレゴリー・ブルタンも、ムーブメントの話になると、俄然身を乗り出して語り出す。

広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)


ロジェ・デュブイにとって重要なのは長く使える耐久性だ

グレゴリー・ブルタン

グレゴリー・ブルタン
1977年、スイス生まれ。ヌーシャテルのエンジニアリング・スクールで時計製造の理論を学んだ後、2002年にロジェ・デュブイへ入社。自動巻きムーブメント、ミニッツリピーター、スケルトンムーブメントの開発などに携わった後、ムーブメント開発部門の責任者などを経て、プロダクト・ストラテジー・ディレクターに就任。機能部品を重ねて巧みにスケルトン化を図る手腕は高く評価されている。

 ブルタンがお披露目したのは、新作の「エクスカリバー スペルビア」。計600個もの貴石を約900時間かけてセットした大作だが、むしろ見るべきは、「すべて改良したムーブメント」である。

 見た目の違いは、スターをトゥールビヨンに合わせた程度。しかし、パワーリザーブが約72時間に延びたほか、耐衝撃性や信頼性も改善した、とブルタンは語る。最も大きな違いは香箱。新旧の図面を見ると、香箱真や壁も薄くなったのが分かる。その結果、より長い主ゼンマイを収められるようになった。理論上、主ゼンマイを長くするとパワーリザーブは延びる。多くのメーカーが採用する手法にロジェ・デュブイも倣ったわけだ。香箱も受けで支えるものから、地板だけでサポートする懸垂香箱に改められた。理由は見た目を改善するため。

「しかし、それだけではない」とブルタンは説明する。ふたつのトゥールビヨンを連結するディファレンシャルギアの設計が簡潔になった結果、トルクのロスが減ったのだという。図面を比較すると、中心からオフセットされていたディファレンシャルの一部ギアは、センターに揃えられ、余計な中間車がなくなったのが分かる。ムーブメントの石数も前作に比べて17個も少ない。

 キャリッジの素材も、スティールからチタンに変更された。「従来は0.65gだった重さが0.46gに減った。キャリッジの軽量化によって、トルクロスが数%改良されたほか、耐衝撃性も改善された」という。

 ムーブメント自体を大改造したのだから、脱進機にも手を加えたのではないか?「確かに脱進機にも手を加えた。それと潤滑油も見直した。ただし、LIGA製の脱進機は採用しなかった。軽く作れるが、既存の脱進機のほうが耐久性が高い」

 以前のダブルトゥールビヨンも、旧作の弱点を一通り潰した優秀なムーブメントであった。しかしロジェ・デュブイは、さらに細かく手を加えてみせた。とりわけ筆者が感銘を受けたのは、主ゼンマイを長くするだけでなく、香箱の厚みを減らして、トルクを抑えた点にある。トルクを落とせば、耐久性はさらに改善されるだろう。

 ブルタンはこう語った。「私たちにとって重要なのは、クライアントに使っていただけること。ロジェ・デュブイにとって、耐久性は非常に大切なのだ」。

ロジェ・デュブイ エクスカリバー スペルビア

ロジェ・デュブイ エクスカリバー スペルビア
ラテン語で「傲慢」と名付けられた野心作。18KWGケースには600個にも及ぶ4面体カットを施したホワイトダイヤモンドとブルーサファイアがセッティングされる。ムーブメントには改良版のダブルトゥールビヨンを搭載。パワーリザーブが約50%アップするなど効率が向上したほか、ムーブメントの厚さも7.97mmから7.3mmへと薄くなった。手巻き(Cal.RD108SQ)。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径45mm、厚さ14.4mm)。10気圧防水。ユニークピース。9300万円。


Contact info: ロジェ・デュブイ Tel.03-4461-8040


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