2020年は多くの人にとって理想的な年とは言い難いものであったが、振り返ってみると特筆すべき時計の発表が多く見られた。中でもシースルーウォッチは豊作年だったと言っても良い。今回は2020年に発表されたシースルーウォッチより7本をピックアップしてお届けしよう。
Text by Mark Bernardo
2021年2月3日掲載記事
ブルガリ「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン オートマティック」
「オクト フィニッシモ トゥールビヨン クロノグラフ スケルトン オートマティック」は、その名前の長さが示す通り単なるシースルーウォッチではない。ブルガリのオクトウォッチは、2014年に発表された初代モデルから革新的な薄さを追求し続け、毎年のように、機械式時計の世界最薄記録を塗り替えてきた。本機は6度目の世界記録を達成したモデルであり、シースルー、自動巻きムーブメント、シングルプッシュクロノグラフ、そしてトゥールビヨンを厚さ7.40mmのケースに備えた最薄のタイムピースでもある。キャリバーBVL 388は多くの機能を備えながら、その厚さはわずか3.5mmだ。ケースバックはトランスパレントバック仕様で、自動巻き上げにはペリフェラルローターを採用。ムーブメントは薄さを強調するため、クロノグラフのクラッチにコンパクトなスイングピニオンを採用している。審美性と機構を高度に両立させた1本だ。
カルティエ「パシャ ドゥ カルティエ スケルトン」
1943年にカルティエ初の防水性能を持った時計として誕生し、1985年からカルティエのアイコンであり続ける「パシャ ドゥ カルティエ」は、2020年に全面刷新を果たした。デザインは1985年のオリジナルに回帰させながら、現代的なムーブメントの搭載により、高い耐磁性やデスクワークでも巻き上がる高い巻き上げ効率などを取り込んだのだ。今回のシリーズには初めてのシースルーバージョンが含まれた。それが本機だ。既存作と同様にラウンドケースと正方形のミニッツスケールを特徴とし、チェーン付きのねじ込み式リュウズにはブルーサファイアを採用している。
エルメス「アルソー スケレット」
エルメス「アルソー」コレクションは、ブランドの馬具商としての歴史を最も雄弁に物語るモデルであろう。左右非対称なラグが鐙を形取り、アワーインデックスの斜体はギャロップする馬のシルエットを想起させる。2020年に発表された「アルソー スケレット」は、グラデーションを施したサファイアクリスタルダイアルを備え、中心部からムーブメントが精密に動くさまを眺めることができる仕様である。文字盤は、外周部が濃いブラックで中央へ行くに従い透明となる。このためエルメスのロゴは浮いているように見える。ビーズを配したようなミニッツサークルも特徴的だ。華やかでありながらもどこかミステリアスな印象のある1本である。